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2015年3月28日 (土)

魔法の清らかさ〜コレルリ:合奏協奏曲第10番

はじめて、ばかりですが、高校一年生でアマチュアオーケストラというものに入って、それだけでもワクワク状態だったところへ、あるときコンマスさんに誘われて「室内楽」とやらをやる合奏団の練習に行きました。
練習は夕方からで、場所はお寺なのでした。片岡良和さんという、仙台でも有名な作曲家さんがお坊さんで、練習場を貸して下さっているのだ、と聞きました。ただ片岡さんにはその後もお目にかかったことはありません。
メンバーは大学生や高校生だったようです。
私は2、3回は、夕方からの練習に参加したでしょうか。水曜日だったっけ。
残念ながら、バス便主流の仙台で、わりと郊外だった私の家から行くのでは帰りが遅くなり過ぎ、楽器を弾いていることはとくに父にはいい顔をされていなかったので、それくらいで通うのをあきらめなければなりませんでした。
けれども、そんなたった数回の練習参加でくぐったお寺の門・・・といっても門構えがある訳ではなくてすうっと入って行けるところだったように記憶しています・・・の、夕暮れて桃色に染まった道や、その向こうの白熱灯でぼおっと明るくなったお堂の様子が、絵本の場面のように思い出されます。

長っ話出来るほどのネタはなくて(最近なんでもネタ切れ状態!)、このとき練習した曲のひとつがバッハのブランデンブルク協奏曲の第3番とコレルリの合奏協奏曲の第10番だったこと(チェンバロはいませんでした)、とくにコレルリの合奏協奏曲は、なぜか私にとって忘れがたい曲になったこと、くらいです。バッハについては、そのうち小さな思い出話をまたぶつぶつ言いたいと思います。

Corelli バロック期といえば「音楽の母(!)」ヘンデルさんが男だった、という出会いはもうずいぶん前にしたのでしたし(こちら http://ken-hongou2.cocolog-nifty.com/okiraku/2014/11/post-cd78.html)、バッハの名前くらいは知っていましたが、コレルリは名前も作品もこのときが初耳でした(ヴァイオリンを習う人はこの人の「ラ=フォリア」(作品5の第12番)は早くに教わるのですが、私はさっさと独学になったので、「なにこの変な曲」・・・変じゃないんですけどね・・・くらいな感覚でスルーしていたのでした)。
こんなにすっきりした音楽があるだろうか、と驚いたのが、記憶に残ったいちばんの理由だったかも知れません。

アルカンジェロ・コレルリ(1653〜1713)は地主の息子として生まれてローマで一世を風靡した音楽家でしたが、奢りのない人だったらしく、作品は自分の納得の行くものだけを出版したと言われています。作品1の2つのヴァイオリンとヴィオローネ(またはアーチリュート)のためのソナタには、お世話になっている合奏の初学者もいらっしゃるだろうと思いますが、ひところより弾かれていないのでしたら残念です。
イタリアに渡った若き日のヘンデルの作品(時と悟りの勝利 HMV46a、1707年)の演奏にも関わったことがありましたが、その頃もう晩年にさしかかっていたコレルリはヘンデルの新しくて難しいヴァイオリンパートの演奏についていけず、ヘンデルの要求よりも弱々しく弾いてヘンデルに怒鳴りまくられ、それでも優しい人柄だったので、ヘンデルに
「でもねえ、ザクセンのおかた、この音楽はフランスのスタイルで書かれてるんで私にはよく分からないんですよ」
と許しを乞うた、という、真偽不明のエピソードが残されています(ヘンデルはそれでこの難しい音楽〜序曲を書き直したのだとも言われています)。
これは本に書かれているエピソードなのですが、もっとものすごいのでは22歳のヘンデルに楽器を取り上げられて
「じいさん、こう弾くんだよ!」
と目の前でやられて、54歳のコレルリ(いまのおいらと似たような歳だ!)が涙にくれた、なんていう話も聞いたことがあります。
・・・ほんとかなぁ。

コレルリの作品ではヴァイオリンは基本的に第3ポジションまでしか出てこず、第7ポジションも平気で出てくるヘンデルの作品に比べて演奏に要求される技術が容易です。バスパート(チェロ)にはけっこう厳しいことを強いているのが、たぶんコレルリ当時の一般的な器楽レベルの実態を反映しているかも知れません。
技術が容易だ、ということは、けれども、つくりが甘い、と同じことではありません。
合奏協奏曲集(当時からハイドンやモーツァルトの時期まで続いた習慣で12作セットでまとめられています)作品6は、どれをとっても響きが美しく、曲のつくりも安心して聴ける落ち着いた姿をしていると思います。
第8番までは日本語で教会ソナタと訳される構成で書かれ、のこり4つは室内コンチェルトと呼ばれる構成で書かれたものだそうです。どんな解説にもそのことが書いてあるので、この雑談では知ったかぶりしてどうのこうのは言わずにおきます。
出版されたのはコレルリの死の1年後ですが、生前には出版準備まで整っていたようで、かつ、12の合奏協奏曲は30歳頃からの自作から取捨選択された、コレルリ自身の眼鏡にかなったものばかり集められたのではないか、と推測されています。
大きな特徴のひとつに、こんにち私たちが「ハ長調」とか「イ短調」とかいう、その調の確立に一役かったことをあげてもいいと思います、が、素人の誤解かも知れません。それでも、コレルリの時代はいまバロック後期に括られるのですけれど、それ以前のバロックには調を明確にする習慣はまだ薄かったのではないかと思います。
合奏協奏曲群の中で、コレルリはこの調性それぞれの持つ個性を遺憾無く際立たせています。
ベートーヴェンが悲劇的な調として活かした「ハ短調」が、コレルリの合奏協奏曲第3番の調として、とてもいかめしく響くさまは、聴く人々に強い印象を残したようで、真偽は分かりませんがこれはコレルリの葬儀で演奏されたとも伝えられています。
あるいはもっとも有名な第8番(クリスマス協奏曲)では、それまでのト短調が最後のパストラール(キリスト降誕を祝う羊飼いの象徴的音楽ですよね)で、おだやかなト長調に変貌します。本来はヘ長調がパストラールの調なのではありますが、クリスマスミサで演奏されるために書かれたために峻厳さの際立つト短調を先立つ楽章で用いたための結果でもあり、また通常のパストラールよりも光をまばゆく放つ効果を発揮していると言っていいと思います。もっとも、ヘ短調というのはたいへん用いにくい調でもあったからでしょうけれど。(ヴァイオリン族の楽器はシャープ【#】の調の方が得意ですが、ヘ短調はフラット4つですしね。)

十代半ばの私の心をとらえた第10番は、ハ長調です。
ハ長調の伸びやかさが存分に発揮されていることから、高校生だった私に「ハ長調」とはどんなものか、をさわやかに教えてくれたのだ、と、今になって感じます。
エコー効果を活かしつつ中間部に短調でかげりを持たせたアンダンテ・ラルゴの第1楽章は、アンダンテ(歩む)にラルゴ(幅広く)をくっつけたのにふさわしい、幅広い歩みの音楽になっています。
第2楽章は軽快なアルマンドで、シンプルな響きながら、本来低音部分に置かれてもおかしくない安定したリズムの独特の旋律が第2ヴァイオリンに書かれていることで、少女的な軽やかさを持つ第1ヴァイオリンが好青年にしっかりエスコートされているような印象をもたらしてくれます。
折り返し点の第3楽章は短い短調の楽句で、続く第4楽章のクーラントへの序奏となっています。このクーラントがまた長調でありながら響きにどこか悲壮感があって、これはまかり間違うとヒステリックに演奏してしまいますので、弾く立場としては要注意な、性格の強い音楽です。
これに間髪入れずに速い動きのアレグロが続き、聴く人の緊張をもっとも高めるのですが、最後にゆるいメヌエットを・・・どうしてこんなによいバランスでこんなことが出来たのか!・・・控えめな華やかさで響かせて、全曲が締めくくられるところ、作曲技巧もなかなかのものです。

この第10番に限らず演奏技術が容易である分、響きにも混じりけなさが要求され、演奏者の過度の思い入れも禁じられることになりますから、演奏側にはそれなりの心の準備も要るには要ります。それでも、他の作曲家、とりわけバッハやヘンデルの合奏をするときに初心では強いられるような肉体的緊張とは無縁で、弾き手を苦しめずに「いい曲だなあ」と導いてしまうところが、後輩作曲たちにはまったく実現出来なかった魔法のように私には思われてなりません。

コレルリをいじめまくった(らしい)ヘンデルですが、彼の合奏協奏曲には、この善良な先輩の影響が色濃く見られる、と、世間では言われていて、なんだかちょっと愉快な気持ちになります。

古楽的でない演奏の一例

https://youtu.be/iaQ67P19ai8

古楽的な演奏の一例

https://youtu.be/OhAJZF43OF8

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