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2019年3月 2日 (土)

三十六人撰① 人選と出典

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三十六人撰① 人選と出典

百人一首はなぜ出来た(9)〜前置き話がもう9つめ(>_<)

さて、三十六人撰です。
どうせ深追いは出来ないので、もっとさらっとここまでたどり着くはずでしたが、浅追いでもここまでかかってしまいました。かつ、2回に分けなければいけません。理由は、まず三十六人がどういう基準で選ばれているかを見たいし、歌の出典の様子・・・どうせ特定は出来ない・・・にも見当を付けておきたいこと、次に、この三十六人やそれぞれの歌がどんな意図で並べられているかもちょっとは知りたいこと。これを両方いっぺんにやるのは、ちと無茶です。

なので、最初に、人選と出典について見通したいと思います。

まず、人選は、たぶんそれまでの勅撰集(三代集)に大きく関わった人が中心なのではないか、と仮定して、それぞれの作者の三代集での位置づけを、ざっと眺めてみました。
すると、以下のようになります。

【人】
01~04と35~36は『三十六人撰』に十首収録される人、その間の05~34は収録が三首までの人なので、間に空行を挟みました。
古今集仮名序に現われる人はその旨を記し、古今集と後撰集の撰者についても同様としました。他の人物には原則として三代集のいずれに初出か、その初出勅撰集に何首採られているかを記しました。
(人名の前に【】で記したのは初出の三代集で、古=古今集、後=後撰集、拾=拾遺集です。人名の前の○は、『前十五番歌合』非登場を表します。)

 【拾】01. 人麻呂:柿本人麻呂~古今集仮名序「ならの御時」1(古今集作者異伝)。作者名明記は拾遺集から。万葉集の歌人
 【古】02. 貫之:紀貫之~古今集撰者2
 【古】03. 躬恒:凡河内躬恒~古今集撰者3
 【古】04. 伊勢:(~古今集22首)

○【拾】05. 家持:大伴家持(拾遺集初出、3首)万葉集の歌人
 【拾】06. 赤人:山部赤人~古今集仮名序「ならの御時」2(拾遺集初出、3首)万葉集の歌人
 【古】07. 業平朝臣:在原業平:~古今集仮名序「近き世にその名聞こえたる人」2
 【古】08. 遍昭僧正:僧正遍昭~古今集仮名序「近き世にその名聞こえたる人」1
 【古】09. 素性(~古今集37首)
 【古】10. 友則:紀友則~古今集撰者1
○【 】11. 猨麻呂:猿丸〜(古今集真名序には名前が登場)
○【古】12. 小町:小野小町~古今集仮名序「近き世にその名聞こえたる人」5
 【古】13. 兼輔卿:藤原兼輔(~古今集4首)
○【後】14. 朝忠卿:藤原朝忠(~後撰集4首)
○【後】15. 敦忠卿:藤原敦忠(~後撰集10首)
○【拾】16. 高光:藤原高光(~拾遺集4首)
 【後】17. 公忠朝臣:源公忠(~後撰集2首)
 【古】18. 忠峯:壬生忠岑~古今集撰者4
 【拾】19. 斎宮女御:徽子女王(~拾遺集5首)
○【拾】20. 頼基:大中臣頼基(~拾遺集2首)
○【古】21. 敏行朝臣:藤原敏行(~古今集19首)
 【拾】22. 重之:源重之(~拾遺集13首)
○【古】23. 宗于朝臣(~古今集6首)
○【後】24. 信明朝臣:源信明(~後撰集4首)
 【後】25. 清正朝臣:藤原清正(~後撰集8首)
 【拾】26. 順:源順~梨壺の五人1
○【古】27. 興風:藤原興風~(〜古今集17首)
 【拾】28. 元輔:清原元輔~梨壺の五人3
 【古】29. 是則:坂上是則(〜古今集3首)
 【 】30. 元真:藤原元真(~後拾遺[8首]まで入集なし)
 【拾】31. 小大君:(~左近名で拾遺集3首)
 【拾】32. 仲文:藤原仲文(~拾遺集3首)
 【拾】33. 能宣朝臣:大中臣能宣~梨壺の五人2
 【後】34. 忠見:壬生忠見(~後撰集1首[拾遺集14首])

 【拾】35. 兼盛:平兼盛(~拾遺集38首)
 【後】36. 中務:(~後撰集初出、拾遺集14首)

まとめると
古今集仮名序登場者:5人
古今集撰者:4人
古今集初出:7人
後撰集撰者:3人
後撰集初出:6人
拾遺集初出:9人
その他  :2人(猿丸、元真)

それぞれの人の生没年に当たるまでもなく、人の並べかたは、厳密にではないにせよ、年代順を大まかに意図しているであることが分かります。なぜなら、前半が万葉集および古今集関連、中間が後撰集関連、後半は古今集収録歌の作者が混在しながらも拾遺集関連の人が、それぞれ集中している様子が見て取れるからです。

01~04は十首収録の万葉・古今の作者で、古今集の仮名序(本当は真名序も)に関わるか、撰者である人または撰に主要な役割を果たした人(伊勢)です。
ここまででいったん完結して、05はあらためて万葉の作者から始まります。

04までを含め、古今集の撰者は、すべて含まれています。古今集仮名序に「ならの御時」の人として登場する人麻呂と赤人は、両者とも登場します。批評対象として現われる6人(いわゆる六歌仙)は、文屋康秀・喜撰・大伴黒主の3人を欠きます。いずれも他の3人に比べ古今集の収録歌数が少ない人で、康秀は五首、黒主が三首、喜撰は一首だけです。
猿丸は特殊例かと思いますが、別に述べます。

これが後撰集関係となると、撰者である梨壺の五人のうち、三人までしか採り上げられていません。なお、後撰集には撰者の歌は含まれない為、彼らの三代集初出は拾遺集となります。
後半登場の拾遺集関連は、05~34の作者は重之と壬生忠見のみが拾遺集にそれぞれ13首、14首と採られている他は、皆、5首以下となっています。それを見ると、35の平兼盛(38首)・36の中務(14首)は際だった存在だと言えるでしょう。かつ、36の中務は、冒頭部で十首収録されている04伊勢の娘であることも、注目しておいていいのかも知れません。

拾遺集と関連して面白いのは、3首歌群最初の大伴家持は万葉集のひとであるにもかかわらず、三代集の中では、最後の位置にある拾遺集で初めて3首採られたのだ、という事実です。これは『三十六人撰』の歌の出典と関わるものと見なせる気がします。
三代集には名前の現われない猿丸も、この点では興味深い存在です。
猿丸を除けば、皆、古今集~拾遺集収録の歌の作者であることが分かりますが、それでも拾遺集所載の歌の作者については、必ずしも拾遺集の中で抜きん出ているわけではないところ、本当は作者の来歴まで見て『三十六人撰』で選ばれている理由を探るべきところかと思います。あるいは、時代が入り交じって人が並べられているところ(26~30)にも注目が必要そうですが、まずはここまでとします。

ということで、次に、出典について、ちょっと考えます。

【出典】
先のそれぞれの作者の『三十六人撰』での歌が、三代集のどれに掲載されてたものが何首あるか、を表にします。
古=古今集、後=後撰集、拾=拾遺集です。×は三代集にはない歌の数です。
×のうち、『前』は、『前十五番歌合』に載っているものです。三代集所載で前十五番にある場合については記しません。
その他参考事項があれば末尾に記します。
人は初出の三代集がどれか、で並べ替えました。

【古】02. 貫之  :古=3、後=0、拾=5、×=2
【古】03. 躬恒  :古=6、後=2、拾=1、×=1
【古】04. 伊勢  :古=4、後=1、拾=2、×=3
【古】07. 業平朝臣:古=3、後=0、拾=0、×=0
【古】08. 遍昭僧正:古=1、後=1、拾=0、×=1(『前』)
【古】09. 素性  :古=3、後=0、拾=0、×=0
【古】10. 友則  :古=2、後=0、拾=1、×=0
【古】12. 小町  :古=3、後=0、拾=0、×=0
【古】13. 兼輔卿 :古=1、後=1、拾=0、×=1
【古】18. 忠峯  :古=0、後=1、拾=2、×=0
【古】21. 敏行朝臣:古=3、後=0、拾=0、×=0
【古】23. 宗于朝臣:古=3、後=0、拾=0、×=0
【古】27. 興風  :古=3、後=0、拾=0、×=0
【古】29. 是則  :古=1、後=0、拾=1、×=1
【 】11. 猨麻呂 :古=3、後=0、拾=0、×=0(全て読人不知歌)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【後】14. 朝忠卿 :古=0、後=0、拾=2、×=1
【後】15. 敦忠卿 :古=0、後=1、拾=1、×=1
【後】17. 公忠朝臣:古=0、後=1、拾=2、×=0
【後】24. 信明朝臣:古=0、後=2、拾=0、×=1
【後】25. 清正朝臣:古=0、後=0、拾=0、×=3(2首め『前』)
【後】34. 忠見  :古=0、後=0、拾=2、×=1
【後】36. 中務  :古=0、後=0、拾=6、×=4
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【拾】01. 人麻呂 :古=3、後=0、拾=6、×=1
【拾】05. 家持  :古=0、後=0、拾=1、×=2
【拾】06. 赤人  :古=0、後=0、拾=0、×=3(拾遺集参考1)
【拾】16. 高光  :古=0、後=0、拾=2、×=1
【拾】19. 斎宮女御:古=0、後=0、拾=3、×=0
【拾】20. 頼基  :古=0、後=0、拾=1、×=2
【拾】22. 重之  :古=0、後=0、拾=1、×=2
【拾】26. 順   :古=0、後=0、拾=2、×=1
【拾】28. 元輔  :古=0、後=0、拾=2、×=1(『前』)
【拾】31. 小大君 :古=0、後=0、拾=2、×=1
【拾】32. 仲文  :古=0、後=0、拾=2、×=1
【拾】33. 能宣朝臣:古=0、後=0、拾=3、×=0
【拾】35. 兼盛  :古=0、後=0、拾=6、×=4
【 】30. 元真  :古=0、後=0、拾=0、×=3(1首め『前』)

古今集収録の歌が42(28%)、後撰集収録の歌が10(7%)、拾遺集収録の歌が56(37%)、三代集にない歌が42(28%、うち4首は『前十五番歌合』所載)。後撰集所載歌が極端に少なくなっています。後撰集初出の7人の歌21首に限っても、当の後撰集所載は4首であるのに対し、拾遺集所載は13首です。
また、三代集非所載歌が3割あります。うち4首は、『前十五番歌合』所載歌です。
拾遺集関連は、本当は拾遺抄と対照する必要もあるのですが、今、この手順は省いています。
このことから、出典は、後撰集に近いものはほとんどなく、古今集と拾遺集、とくに後者に近しいもの、その中に『前十五番歌合』と共通するものが用いられていることが窺われます。

推測するに、公任は拾遺抄の選歌をするのに使用したのと同等の資料を主に用いたのでしょうが、それは各作者の家集のようなものだったのでしょうか。

このことは特に、古今集の撰者でありながら古今集よりも拾遺集から多く歌を選ばれている紀貫之を観察して感じるところなのですが、選ばれている中で三代集にない二首は、確かめますと、『貫之集』にあるものです。

伊勢については古今集から4首、後撰集から1首、拾遺集から2首、と、三代集からもまめに選ばれていますが、三代集にない3首は『伊勢集』所載です。

万葉歌人である人麻呂、家持、赤人は、作者名の明示は『拾遺集』にはじまっていますので、やはり拾遺集関連の出典と同じものが参照されていると思われますが、こちらは少なくとも活字で手軽に読める『和歌文学大系』所収のそれぞれの家集には上がっていない歌が含まれていて、かつ、それらの歌は、この三人の間で作者に揺れがあったりします。
(人麻呂の最初の歌は『人麻呂集』にも『赤人集』にも載っています。)
(家持の1、2首めは『家持集』にも他二名の家集にもなく、3首めは『赤人集』のほうにあります。)
(赤人の1首めは『赤人集』にも他二名の家集にもなく、二首めは『赤人集』にも『家持集』にもあります。)

興味深いのは猿丸で、選ばれている歌は3首とも、古今集に読人知らずとして載っているものです。また、猿丸という名前は、三代集のいずれにも作者名としては出てきません。猿丸の人名にひもづくのは『猿丸集』だけです。この『猿丸集』の成立は、古今集以降と推測され、公任が『三十六人撰』で選んだ3首は『猿丸集』もしくはその粗本を考慮に入れた撰歌だと推測されています(鈴木宏子氏、『和歌文学大系 18』解説)。猿丸は、人麿の「人」に対する「猿」を冠した名前で、実在の人の名前ではない、とする観察が、近年ではもっぱらであろうかと思いますが、だとすると、この人名は「読人知らず」の魂の集合体を表すものでもあったのでしょうか?

これら、家集から『三十六人撰』に選ばれたとおぼしき人たちの歌で、とくに10首選ばれている人麻呂(仮託ふくむ)・貫之・伊勢については、その歌の並べられ方にも、また最終の兼盛・中務と対比しても、さらに興味深いことがありますので、あらためてそれに触れることにします。それを最後に、公任さんとはいったんさようなら、かな?(笑)

参照した家集のそれぞれの底本は、以下のとおりです。
『人麻呂集』=書陵部蔵本
『赤人集』=西本願寺本三十六人集系
『家持集』=西本願寺本三十六人集系
『貫之集』=正保版歌仙家集本
『伊勢集』=西本願寺本三十六人集系、『伊勢集』の粗本は『後撰集』成立後、伊勢に非常に近しい人の手になるものと推測されています。
『猿丸集』=書陵部蔵本(御所本三十六人集)

追伸)
文庫になった片桐洋一『古今和歌集前評釈』(講談社学術文庫、2019年2月)の、上巻だけで1092頁という分量に圧倒される本の、その上巻に恐る恐る手を出して、詳しいご説明のなかに、古今集仮名序の古注は公任さんが記したものだ、との伝承もあることを初めて知り、ビックリ仰天しました。またいつか追求したい気持ちがわいております。それはともかく、仮名序の読解に関してだけでも、単に目から鱗が落ちるだけでなく、分量から「衒学的だったりしないだろうか」との先入観を持って読み出すと、まるでその逆で、むしろ、この分量だからこそ過去の衒学的な垢を削ぎ落とせるんだ、と知らされるほど、有益な書であることが分かり、ちょっと感激しております。私なんぞに理解できるかどうか、ではありますが、何ヶ月かかけて、全三冊を読んでみたいと思い始めているところです。・・・あ、上巻を読み終えてから中巻を買うことにします。でないと積ん読必至なので。
また、伊勢やその家集のことを少し知りたくて古本屋さんで見つけた、山下道代『伊勢集の風景』(臨川撰書24、平成15年)は、伝記を追いかけただけだと浮き彫りになりにくい伊勢の気持ちの襞や、伊勢集に混入している他人の歌の読み取りまでを含めて、
「歌ってこんなふうに読むと私たちにも随分と身近になるのね」と思わされる、魅力的なエッセイで充ちていて、分からん物好きがたまたま和歌関連を知りたい、と考えなければ出会えなかっただろうと感じつつ、嬉しく拝読しました。
この二著作は、ぜひお勧めします。

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