絵巻物のような〜「最後の望み」Letzte Hoffnung:シューベルト『冬の旅』第16曲
図形楽譜というのがあって、私らのように読み方が分からないと、ただの絵のように見えて仕方がありません。
こんど河合拓始さんによる図形楽譜講習会があるようだから、行ってみようかしら・・・
ちょっと時間がとれるかどうか分からないけど・・・
http://www.as-tetra.info/archives/2014/141024193000.html
そうではない、五線譜に書かれた楽譜でも、ときどき絵のように見えてビックリさせられるものがあります。
まさに絵に見えて、おお、と感心したのが、シューベルト『冬の旅』の第16曲(Letzte Hoffnung 最後の望み)です。
これ、詩を先に読んでいただきますと、こんなかんじです。
あんまりうまい訳じゃありませんが!
Hie und da an den Bäumen ちらほらと 木々に
Manches bunte Blatt zu sehn, 色づいている葉
Und ich bleibe vor den Bäumen とどまり わたしは
Oftmals in Gedanken stehn. 思いにふける
Schaue nach dem einen Blatte, ひと葉を見つめて
Hänge meine Hoffnung dran, 望みをたくすも
Spielt der Wind mit meinem Blatte, 風のたわむれに
Zittr' ich, was ich zittern kann. 身震いがする
Ach, und fällt das Blatt zu Boden, ああ、地に葉が落ちる
Fällt mit ihm die Hoffnung ab, 望みも潰える
Fäll' ich selber mit zu Boden, くずおれるわたし
Wein' auf meiner Hoffnung Grab. 泣き伏すよ 望みの墓に
詩のムードの悲しさは措きます。情景を見ましょう。
第1節は、木に葉っぱが残っている。
第2節で、葉っぱは風に吹かれて危機に瀕します。でもまだ木にくっついてる。
第3節の前半で、葉っぱがとうとう落ちます。ハラハラ、ホロホロ、って感じ?
第3節後半、がっかりした「わたし」が倒れます。
詩の情景がみえたところで、楽譜をご覧下さい。
こちらにPDFがありますので適宜。ただし『冬の旅』全曲です。
http://imslp.org/wiki/Winterreise,_D.911_%28Schubert,_Franz%29
五線譜を読み慣れているかたは、区切り線と区切り線のあいだ(小節線にはさまれたあいだ)を1、2と数えるのは先刻ご承知でしょうが、読み慣れていない方は、そう数えるもんだと思って下さい。(ただ、これは弱起なので2/4と表紙が書かれて音符が1個入っている最初の箇所は数えません。ここは0だと思って下さい。)
20小節目・・・画像の左半分の、いちばん下の段の、左から数えて3つめの小節まで・・・は、木に葉っぱがくっついている。ドイツ語でmanches bunte Blattとあるので、色づいた葉がまだたくさん(manches)あるんですけど、色づくんだから広葉樹です。枯れ木にぱらぱらっと葉っぱがのこっている、あのまばらな感じをイメージすると、ここまでの音符の並び方は、ちょうどそれを絵に描いたように、私には見えます。
そのあと、風が吹いて・・・詩の中ではもうとっくに風は吹いているのですけれど・・・葉っぱがさらさらさら、と地面に落ちていきます。地面が近いほど、葉っぱの落ちるスピードも遅くなります。(ちなみに26小節〜28小節と32小節〜33小節の16分音符は、ベーレンライター版の新しい楽譜だと連桁になっています。)
これが、楽譜の右半分の、そのまた上半分。
最後の下半分は、それを見てがっかりした「わたし」の嘆き。
・・・うーん、こんな見え方するのは、ヘンですか???
楽譜はあくまで、どう響かせたいかを第一に考えて書かれているはずなので、それそのものが絵になるのだとしたら、とくに五線譜の場合は偶然だと言えるのかも知れません。
一方で、しかし、とくに歌曲の場合は、言葉の背景にあるものを伴奏側に書き込む意図もありますから、音の動き・流れが絵模様に見えるのは、あるいは自然なことであるのかも知れません。
この歌はとくに落葉のさまを詠い込んでいるので、五線を木の枝に、音符ひとつひとつを葉に見立てることも容易です。見立てによる主観が楽譜を絵に見せる可能性もあるのだと思います。
ただ、音楽には時間の流れが組み込まれているので、絵であるとしても静止した一場面の類いにはなりません。ですので、本当は楽譜を全部(3段1セットの)1行にまとめて、横長に繋げた方が分かりやすいのでしょう。すると、ちょうど日本の絵巻物のようになります。
西洋絵画でも、中世からルネサンスのものはとくに、ひとつのキャンバスに、上から順にとかしたから順にとか、中央から左巻きの螺旋状にとか、時間の流れを描いたものが豊富にあります。そういう絵の一貫として眺められる楽譜があっても、まあ自然で面白いことではないのかなあ・・・
と思う私がヘンだと思われるなら、ヘンでも結構ですヨ!
別に、ひねくれてそう言うのではなくて。
フィッシャー=ディースカウ晩年の映像がYouTubeにありました。
ペライアの伴奏。
さすがに老いの衰えがありますけれど。
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (0)
最近のコメント