山中迓晶先生の「能の学校」。
皆勤したかったのですが、4、5時間目に行けなくなってしまいました。
残念に思っておりましたら、補習の告知があり、仕事が終わってから、こちらに行くことが出来ました。大助かりでした。
4時間目相当の、4月19日に先生が舞う『鉄輪』を中心とした、当日のみどころなどのお話でした。
(チラシ画像はリンクからご覧下さい。)
http://umewakanoh.exblog.jp/iv/detail/index.asp?s=23139214&i=201503/13/37/c0159437_17215538.jpg
4月19日 梅若会定式能 午後1時開演(正午会場)
能 巴 (川口 晃平)
狂言 蝸牛 (山本 則俊)
能 西行櫻(杖之舞) (角当 行雄)・・・ワキ(西行)に宝生閑さん
仕舞 鵺 (山本 博道)
賀茂 (会田 昇)
網ノ段 (角当 直隆)
能 鉄輪 (山中 迓晶)
以下、お話。復習のときに書籍を参照して補いました。*番号、で参照出来るようにし、末尾にまとめます。毎度ですが、間違いがありましたらご容赦・ご教示下さい。
【あらすじ・みどころ】
「巴」
木曽出身の旅僧が粟津の神社で涙を流す女性に「ここは木曾義仲を祀った神社です、読経をお願いします」と頼まれる。女性は木曾義仲に従った女武将巴の幽霊だった。
〜ほとんどの部分が「仕方話」なので(*1)、ことばがわかったほうがいい。謡本を参照しながらの鑑賞を勧める。
「蝸牛」
蝸牛をとってこいと主人に命じられた太郎冠者が、蝸牛とは何かを知らず、藪の中で休んでいた山伏を蝸牛だと思い込んで連れて帰る。
〜狂言としては謡の部分が多い(*2)。
「西行櫻」(杖之舞 の小書き)
隠棲していた庵の桜を人々が見に来たのを拒めずに嘆く西行が「花見んと群れつつ人の来るのみぞ あたら桜の咎にはありける」(*3)と詠んだのを、老いた桜の精が聞きとがめ、桜の下で眠った西行の夢に現れて西行をやんわりと糾す。西行は桜の花の咎ではありません、と謝る。桜の精は桜の名所を数え尽くしながら(杖を持って)静かに舞を舞う(太鼓入リ序ノ舞)。
〜ゆったり、うとうとしながら鑑賞すると、案外、能の心が少し分かるかもしれない。
仕舞
鵺〜常の演出で「流れ足」(能では他にない横への烈しい足運び)をする唯一の曲
賀茂〜本来は最初の曲(脇能)。雷神が主人公(わけいかずちのかみ)
網ノ段〜「桜川」の一部。段物(*4)子ども(桜子)を探す母親の思慕
【鉄輪】
「鉄輪(かなわ)」〜謡曲全文を先生の解説で読みました。
(あらすじは追記)
・映画「鉄輪」(新藤兼人監督作品 1972年)中年の女=乙羽信子、中年の男=観世栄夫(!)
(〜私語ですが、見ようと思っております。*7)
・仏が神より上位である(「鉄輪」では、女が貴船明神に成就させてもらった呪詛が、仏法保護の三十番神によって無力となる)ことについて(*6)
廃曲「鶏竜田」(ニワトリタツタ、チキンタツタではない!)でも神の鶏だから捕えてははならない、とされる鶏が捕られてしまう。
・面(おもて)について
後ジテの専用面はなく「橋姫」などを用いることが多いが、延岡の内藤家の「霊女(りょうのおんな)」の面は専用面だったか。(*5)
[以下、「鉄輪」本文を参照のこと〜末尾に掲載]
主なもののみ記す。
・夜にもかかわらず、前シテは顔を隠すために笠を被って現れる。〜詞章から言うと(「日も数そひて恋衣」)薄衣を被って現れるのが本来かもしれない。
・蜘蛛のいへ(サシのところ):蜘蛛の巣
・シテ(丑の刻参りの女)の貴船神社への経路(*8)
糾【の森】(ただす【のもり】)
御泥池(みぞろいけ)
市原野辺(いちはらのべ)〜当時の死体遺棄現場
・鉄輪=五徳
「身には赤き衣を着、顔には丹をぬり、頭(こうべ)には鉄輪を戴き、三の足に火をともし」(*9)
・下京辺(ワキツレ=浮気男):庶民の町、チャラい男のイメージ
・転じかへて(清明):死ぬべき命を、ひとがた(藁人形)に転じる(呪詛で死ぬのを逃れるために)
・めづらしや(後ジテ):おひさしぶりね
・玉椿の八千代、双葉の松(後ジテ):愛情が変わらないことにかける、めでたいことば
女性の内面の葛藤
「因果は今ぞと白雪の 消えなん命は今宵ぞ。痛はしや」〜呪詛を遂げて嬉しい、のではない。
・後妻を打って、「今さらさこそ悔しかるため。さて懲りや思ひ知れ」
(演じ手の先生として感じるのは)ここで後妻は死んでるでしょうね。
・三十番神:法華経守護・天地擁護・王城守護など十種類ある由。「鉄輪」では仏法(法華経)擁護
毎月三十日のあいだ日本の国家と人々を守る神。
三十番神の本の姿(本地)は永遠不滅の釈迦仏である(本地垂迹説)との信仰による。
・目に見えぬ鬼:肉体は滅びる=呪詛の女は死んでしまったのだろう。
【実技】
後ジテの登場するところを先生からの口伝えで謡いました。
(等幅フォント前提で記します。)
(出端)
ヤオ・ハーでコイアイ(乞合)になって
拍子不合(ひょうしあわず)
→(引き)
それ花はしゃぎゃくの 暖ぷうにひらけて。
→
同じく暮しゅんの 風に散り。
Λ(マワシ=きイっ いー) オ(オチ)・・・下の中へ【本当はヲと書く】
月は東ざんより出でて、早くせい嶺に隠れぬ。
(つ「き」がきっかけでキザミになる。)
(コイアイでおさまる)
オ
世情の無情、かくのごとし。
ハネアゲ オ
因果は車輪のめぐるがごとく
我に憂かりし(キザミになって)人々に。
ハネアゲ オΛ
たちまち報いを 見すべきなり。
(コイアイ)
→ Λ →
恋の身の。(囃子、打たなくなる)浮かむことなき、賀茂川に。
(「が」をコミにしてカシラを打つ)
【終礼】
先生が面をつけて、照明の下、照明を消して、と、ふたとおり、最後の場面を舞ってみて下さいました。
以上、お粗末様でございました。
*1:⑩【シテの立働キ】の長大な仕方話が後場の中心になる(「岩波講座 能・狂言 Ⅵ 能鑑賞案内」p.114)
*2:【蝸牛に成り済ました山伏が、勘違いしている太郎冠者に教え込む】「雨も風も吹かぬに・・・・」の囃子物は(略)京都の子どもたちが蝸牛【カタツムリ】に向かって囃し立てた囃し詞であった。(「岩波講座 能・狂言 Ⅶ 狂言鑑賞案内」p.295)
*3:『山家集』87
閑(しづか)ならんと思ひける頃、花見に人々まうで来れば
花見にと群れつつ人の来るのみぞあたら桜の咎には有ける
(謡曲の西行桜は嵐山の西行庵の花見を描くが、証菩提院【現西光院】と勝持寺【大原野】とに伝承が残る。「和歌文学大系21 山家集/聞書集/残集」p.417 補注。明治書院 平成15年)
*4:段物=謡曲を構成する小段の内、特定の一部分を抜き出して独吟・仕舞・一調等を演奏すべく定められたものに付けられた、特殊な名称。(略)一曲中眼目となる謡の一段。特殊な構造であり、節付けも派手である。(下略) 「能楽ハンドブック 第3版」p.256 三省堂
「網ノ段」は『桜川』の段歌の部分(新潮日本古典集成『謡曲集 中』p.103、「桜川」の10の部分)。観世流大成版仕舞型付p.81(昭和35年)
*5:延岡観光協会「内藤家ゆかりの能面・狂言面」http://nobekan.jp/culture/naitou_nou 59番が「霊女」
*6:山本ひろ子『中世神話』(岩波新書593 1998年)等参照
*7:見たら追記します。
*8:賀茂川沿いを北上(白竜社編『鉄輪』p.5に地図。2003年)
*9:『平家物語』剣の巻(覚一本にはない)〜「顔には朱を指し、身には丹を塗り、鉄輪を戴きて、三つの足には松を燃し」
「鉄輪」本文〜フリーのボランティア打ち込みによるものです。感謝。
http://www.kanazawa-bidai.ac.jp/~hangyo/utahi/
行節約のため改行を大幅に削除しました。
狂言「かやうに候ふ者は。貴船の宮に仕へ申す者にて候。さても今夜不思議なる霊夢を蒙りて候その謂は。都より女の丑の時詣をせられ候ふに申せと仰せらるゝ子細。あらたに御霊夢を蒙りて候ふ程に。
今夜参られ候はゞ。御夢想の様を申さばやと存じ候。
シテ次第「日も数そひて恋衣。/\。貴船の宮に参らん。サシ「げにや蜘蛛のいへに荒れたる駒は繋ぐとも。二道かくるあだ人を。頼まじとこそ。おもひしに。人の偽末知らで。契りそめにし悔しも。たゞわれからの心なり。余り思ふも苦しさに。貴船の宮に詣でつゝ。住むかひもなき同じ。世の。うちに報を見せ給へと。下歌「たのみを懸けて貴船川。早く歩をはこばん。上歌「通ひなれたる道の末。/\。夜も糺のかはらぬは。思に沈む御泥池生けるかひなき憂き身の。消えんほどとや草深き市原野辺の露分けて。月遅き夜の鞍馬川。橋を過ぐれば程もなく。貴船の宮に着きにけり。/\。
詞「急ぎ候ふ程に。貴船の宮に着きて候。心静かに参詣申さうずるにて候。
狂言「いかに申すべき事の候。御身は都より丑の刻詣めさるゝ御方にて候ふか。今夜御身の上を御夢想に蒙りて候。御申しある事は早叶ひて候。鬼になりたきとの御願にて候ふ程に。我が屋へ御帰あつて。身には赤き衣を着。顔には丹をぬり。頭には鉄輪を戴き。三つの足に火をともし。怒る心を持つならば。忽ち鬼神と御なりあらうずるとの御告にて候。急ぎ御帰あつて告の如く召され候へ。なんぼう奇特なる御告にて御座候ふぞ。
シテ詞「是は思ひもよらぬ仰にて候。わらはが事にはあるまじく候。さだめて人違にて候ふべし。
狂言「いや/\しかとあらたなる御夢想にて候ふ程に。御身の上にて候ふぞ。か様に申す内に何とやらん恐ろしく見え給ひて候。急ぎ御帰り候へ。
シテ「これは不思議の御告かな。まづ/\我が屋に帰りつつ。夢想の如くなるべしと。地「云ふより早く色かはり。/\。気色変じて今までは。美女の形と見えつる。緑の髪は空ざまに。立つや黒雲の。雨降り風と鳴る神も。思ふ中をば避けられし。恨の鬼となつて。人に思ひ知らせん。憂き人に思ひ知らせん。
中入。
ワキツレ詞「かやうに候ふ者は。下京辺に住居するものにて候。われこの間うち続き夢見悪しく候ふ程に。晴明のもとへ立ち越え。夢の様をも占はせ申さばやと存じ候。いかに案内申し候。
ワキ「誰にて渡り候ふぞ。
ワキツレ「さん候下京辺の者にて候ふが。此程うち続き夢見悪しく候ふ程に。尋ね申さん為に参りて候。
ワキ「あら不思議や。勘へ申すにおよばず。これは女の恨を深くかうむりたる人にて候。殊に今夜の内に。御命も危く見え給ひて候。もし左様の事にて候ふか。
ワキツレ「さん候何をか隠し申すべき。われ本妻を離別し。新しき妻をかたらひて候ふが。もし左様の事にてもや候ふらん。
ワキ「げにさやうに見えて候。彼の者仏神に祈る数積つて。御命も今夜に極つて候ふ程に。某が
調法には叶ひ難く候。
ワキツレ「これまで参り御目に懸り候ふ事こそ幸にて候へ。平に然るべきやうに御祈念あつてたまはり候へ。
ワキ「この上は何ともして御命を転じかへて参らせうずるにて候。急いで供物を御調へ候へ。
ワキツレ「畏つて候。
ワキ「いで/\転じかへんとて。茅の人形を人尺に作り。夫婦の名字をうちに籠め。三重の高棚五色の幣。おの/\供物を調へて。肝胆を砕き祈りけり。謹上再拝。夫れ天開け地固つしよりこのかた。伊弉諾伊弉冊尊。天の磐座にして。みとのまくばひありしより。男女夫婦のかたらひをなし。陰陽の道。永く伝はる。それになんぞ魍魎鬼神妨をなし。非業の命を取らんとや。地「大小の神祇。諸仏菩薩。明王部天童部。九曜七星二十八宿を驚かし奉り祈れば不思議や雨降り風落ち神鳴り稲妻頻にみち/\御幣もざゝめき鳴動して。身の毛よだちておそろしや。
後シテ出端「夫れ花は斜脚の暖風に開けて。同じく暮春の風に散り。月は東山より出でて早く西嶺に隠れぬ。世情の無常かくの如し。因果は車輪の廻るが如く。われに憂かりし人々に。忽ち報を見すべきなり。恋の身の浮ぶ事なき加茂川に。地「沈みしは水の。青き鬼。シテ「我は貴船の川瀬の蛍火。地「頭に戴く鉄輪の足の。シテ「炎の赤き。鬼となつて。地「臥したる男の枕に寄り添ひ。如何に殿御よ。めづらしや。
シテ「恨めしや御身と契りしその時は。玉椿の八千代。二葉の松の末かけて。かはらじとこそ思ひしに。などしも捨ては果て給ふらん。あら恨めしや。捨てられて。地「捨てられて。おもふ思の涙に沈み。人を恨み。シテ「夫をかこち。地「ある時は恋しく。シテ「又は恨めしく。地「起きても寐ても忘れぬ思の。因果は今ぞと白雪の。消えなん命は今宵ぞ。痛はしや。
地「悪しかれと。思はぬ山の峰にだに。/\。人のなげきはおふなるに。いはんや年月。思にしづむ恨の数。積つて執心の鬼となるも理や。シテ「いで/\命を取らん。地「いで/\命を取らんと。しもとを振り上げうはなりの。髪を手にからまいて。打つやうつの山の。夢現とも。分かざるうき世に。因果はめぐりあひたり。今さらさこそくやしかるらめ。さて懲りや思ひ知れ。シテ「ことさら恨めしき。
地「ことさら恨めしき。あだし男を取つて行かんと。臥したる枕に立ち寄り見れば。恐ろしや御幣に。三十番神まし/\て。魍魎鬼神は穢らはしや。出でよ/\と責め給ふぞや。腹立や思ふ夫をば。取らであまさへ神々の。責を蒙る悪鬼の神通通力自在の勢絶えて。力もたよ/\と。足弱車の廻り逢ふべき時節を待つべしや。まづこの度は帰るべしと。いふ声ばかりはさだかに聞えていふ声ばかり聞えて姿は目に見えぬ鬼とぞなりにける目に見えぬ鬼となりにけり。
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