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2018年3月 3日 (土)

【読書・鑑賞案内】オペラは踊る〜ラモー『優雅なインドの人々』〜レパートリーを広げるヒント(2)

綴ったものを読み返すと、
「長くて面倒くせぇなぁ、もっと分かりやすく出来んのかい」
と、自分で自分にがっかりします。

ともあれ、フランスのコメディ・バレからは、一つの場面についてまとまった器楽合奏(アンテルメード)を抜き出せることを見てもらいました。その延長の話になります。

アンテルメードはフランスではディヴェルティスマンとしてオペラに引き継がれて行きます。すでにコメディ・バレでもそうではあったのですが、幕間劇的要素は失せて、文字通り気晴らし的要素が高くなっています。

Lemaladeimaginarie 実質、最初の立役者と言っていいリュリは、この前は悪いことはあんまり言いませんでしたけれど、やっぱり悪い人で、太陽王ルイ14世の寵愛を笠に着て、
「王立音楽アカデミーに於いては、今後リュリの許可なしに、2つ以上の歌、2人以上の楽器奏者を用いてはならない」
みたいな禁令の勅許を得てふんぞりかえりました。
これが直接にはリュリとモリエールの訣別につながり、モリエールは王から勅許の撤回を取り付けると、もはやリュリの協力は仰がず、アンテルメードの作曲者には当時二十代のシャルパンティエを起用して『病は気から』を上演しましたが、その上演の最中にモリエールは亡くなってしまい、残されたコメディ・フランセーズのメンバーはリュリの課してくる制限(王立音楽アカデミー以外での歌い手は2人、ヴァイオリン奏者は6人以下)と悪戦苦闘することになります。
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リュリのとんでもないこんな独占欲からすると、フランスの劇場は一気に衰えたのではないか、と想像してしまいますが、そうはなりませんでした。

リュリは悪い人でしたが、才能が、ずば抜けていました。

彼の音楽悲劇は「王のオペラ」と呼ばれるとおり、ギリシャ神話や中世の伝説を素材に、王の権力を賛美するものがもっぱらではありました。
脱線しますが、日本なら「権力者は死後神になる」みたいなことが出来ましたけれど、キリスト教国家ではそうはいきません。本来は人間性の再発見のためにオペラ作家に持ち出されたギリシャ神話の素材が、リュリにあってはまさに、王を神に至らせるものであった、ということが出来るかと思います。
戻りますと、王権を賛美するオペラでありながら、リュリの音楽悲劇は、それによって、むしろ高い質を保つことに最大限の努力が払われています。

まず、台本が簡潔です。彼に台本を提供し続けた作家キノは、コルネイユやラシーヌの半分の語彙数、半分の行数で劇を仕上げ、
「限られた数のありふれた表現と自然な想念でもって、まことに美しくて心地よく、しかもどれもまったく異なった作品を」
作り続けたのでした(シャルル・ペローによるキノへの賛辞〜いささか混み入った論争に絡むものですが。内藤義博『フランス・オペラの美学』p.32)。

そして、その簡潔な言葉に対し、自然なイントネーションで曲が付けられています。そのため、おのずとレシタティフ(「語り」の歌唱)が多くなるのですけれど、乾いた語りで終わるのではなくて、言葉の感情的な盛り上がりに従って、いっそう歌らしいアリオーソ(後世の人の呼び方)へと変じていく。劇がなめらかに流れてく仕掛けになっているのです。

こうした優れた特質から、リュリのオペラは、革命前夜までフランスのオペラの規範となり続けたのでした。
なかでも『ペルセー』(メドゥーサの首をとって、アンドロメダを怪物から救い出したペルセウスの伝説が素材)は、初演の88年後、ルイ16世とマリー・アントワネットの婚礼祝いでも上演されていて、その際の音響を再現した演奏もCDで出ています。リュリのオリジナルでは感じにくいのですが、1770年版はところどころモーツァルトを思わせる響きがしたりして、興味深く思われます。
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『ペルセー』のオリジナル音響(?)はこちらに上演映像があります。
https://youtu.be/vpORinLnFug

別の作品ですが、バロックの上演の再現をこころみた『カドミュスとエルミオネー』
https://youtu.be/6wC5wZYy85M

どちらも長いので、お時間が許しご関心も向いたときにご覧下さい。
どちらにも豊かなディヴェルティスマンが挟まれていて、それを抜きだしてもまた、面白いプログラムが組めそうなのがお分かり頂けると思います。
バロックアンサンブルでは、現にオペラからディヴェルティスマンを取り出して組曲を編んだものを、よく演奏しています。

リュリの IMSLP上のリンク〜楽譜を眺めて見て下さいね。
http://imslp.org/wiki/Category:Lully,_Jean-Baptiste

Lesindesgalantes 1687年に没したリュリのあと、少し時間を置いてフランス・オペラのビッグネームとなるのは、ジャン=フィリップ・ラモです。
ラモはまず理論家として著名になった人で、オペラはなんと51歳になって初めて書いたのでしたが、それから亡くなるまでに、音楽悲劇4、オペラ・バレ6、英雄的牧歌劇といわれるもの3、コメディ・バレ1、音楽喜劇2、と多くの劇音楽を発表し、発表されなかった音楽悲劇3、牧歌劇1をも書き残しているとのことです。
オペラ・バレ『優雅なインドの人々 Les Indes galantes』はラモの劇音楽としては2作目ですが、当時関心が高かった異国情緒を全編に盛り込んだ、舞踊の豊富な出し物として好評を博しました。
「インドの人々」と言いながら、インドの人々は登場しません。
幕開けはギリシャ神話の愛の女神たちが行ないます。
第1幕の舞台はトルコです。
第2幕は「ペルーのインカ人」。
第3幕はペルシアが舞台。
第4幕は「未開人たち」とのタイトルで、アマゾン族の美女にフランスとスペインの士官が言いよるものの、現地人の恋人に破れる、でも仲良しになる、みたいな話です。
第3幕以降は、本オペラ・バレの好評再演で順次書き足されたものです。
DVD等は何種類かありますが、私の見ているのはこれです。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0009S4EQO/

オペラ・バレのほうは、音楽悲劇よりも舞曲がまとまって登場したりするためか、組曲に編みなおされた楽譜もIMSLPにアップされていたりします。オーボエやトラヴェルソ、バスーンが入るものの、弦楽合奏だけに仕立てなおすのも、そう難しくなかろうと思います。
http://ks.imslp.info/files/imglnks/usimg/c/c0/IMSLP270926-PMLP59117-IndesGalantesSuites.pdf

ちゃんと確認していないのですが、この楽譜を演奏したものでしょうか? 43分かかるので、お時間がある時にでもリンクをクリックしてお聴き下さい(フランス・ブリュッヘン/18世紀オーケストラ)。なかなか面白い音響です。(途中に広告が入るかも知れません、スキップして下さい。)
https://youtu.be/EnC9bVczc0E

実際の上演映像から、終幕手前の部分です。


上演当時の様子を復活しているわけではありませんが、踊りの背景の音楽に、少なくとも過ぎし日のヨーロッパの異世界観が歌い込まれているように思います。

なお、ラモの音楽観は有名な啓蒙思想家ルソーが目の敵にしていたものでもありまして、ルソーの『告白』とか読むと、ラモの悪口がいっぱい出てきます。じゃあ、なにがそんなに目の敵だったのか、を野次馬したいときに格好の本が、おととし岩波文庫になりました。

ルソー『言語起源論 旋律と音楽的模倣について』増田 真 訳
https://www.amazon.co.jp/dp/4003362373/
今は、ご紹介にとどめます。

フランス・オペラの凄いところは、なんといってもイタリア語のオペラが世界を席巻しているときに、自国語で、しかもお客さんに分かりやすい言葉でオペラを作っちゃったところなんですよね。でもこれ、フランス語が身に付いていないと、本当には分からないのではないかと思います。・・・私には分かりません(泣)。
少しでもその意義を知っておきたいときには、さきほどペローがキノへ贈った賛辞を引用した本に目を通すとよいでしょう。ただし、そこそこお値段の張る単行本ですので、もし図書館にあれば。

内藤義博『フランス・オペラの美学 音楽と言語の邂逅』水声社 2017年
http://www.suiseisha.net/blog/?p=7643
https://www.amazon.co.jp/dp/4801002862

内藤さんのホームページを見つけました。
http://rousseau.web.fc2.com/

ついでながら、バロック〜古典派オペラ全般の歴史について、いちばんいい本は文庫化もされていたのですが、いまは絶版のようです。

戸口幸索『オペラの誕生』東京書籍 1995年 平凡社ライブラリー 2006年
https://www.amazon.co.jp/dp/4582765734/
古本で買うなら、文庫ではない方がお薦めです。

いっぽうで、言葉が物語を進めるオペラの中に、エンターテイメント要素をたっぷり注ぎ込んだのも、フランス・オペラの真骨頂です。
ラモーのあと、フランス・オペラの中で、音楽の表現力を高めたのはグルックでしたが、最初にウィーンで上演された彼のイタリア語オペラ『オルフェーオとエウリディーチェ』は、パリでフランス語で上演されるにあたって、そのための改訂の他、舞曲が大幅に書き足されています。舞曲の豊富さが、言葉なしでもフランス・オペラを楽しませる上で、大きな役割を果していたことが分かります。
果ては19世紀にかのヴァーグナーが『タンホイザー』のパリ上演にこぎ着けるために、序曲のあとに壮大な踊りの場面(バッカナール)を書き足したのも、有名な話です。

オペラの口開けで演奏される、リュリが確立させたフランス風序曲(ウヴェルテュール ouverture 開始)も、宮廷バレのアントレ(導入)にアルマンド(二拍子系)やクラント(三拍子系)をつなげたものが淵源のようです。
ドイツのフローベルガーの鍵盤楽器曲に始まる「組曲」ですが、おそらく大規模で華やかな劇場は持たなかったドイツでもっぱら管弦楽による組曲(ウヴェルテュールに数曲の舞曲が続くのが基本)が発展していく背景には、ドイツ諸侯から見た、絶対王政華やかなりしパリ宮廷への憧憬もあったのではないか、と思います。
管弦楽組曲の担い手はテレマン、バッハ、(対位法の教科書で有名な)フックス、といったあたりになります。今回と合わせるといっそう冗長になりますけれど、次回は少しこの組曲あたりを見ておこうかと思っています。

フランス・オペラのことを綴っていて思い出すのは、もう二十年以上も前に、妹に連れられて見た、宝塚歌劇団『ベルサイユのばら』です。ストーリーは本編の後日談みたいだったようなのですが記憶にありません。ひととおりお芝居が終わったあと、メンバーが華やかな雛壇をいっぱいに埋めて、きらきらと歌い踊る。もう、その情景が、音を持たず動きだけで脳裏によみがえる程度ではあるのですが、大掛かりに繰り広げられる踊りというものが、こんなにもインパクトが強いものなのか、と、思い知らされたものでした。
アンテルメードやディヴェルティスマンを抜き出して演奏するときは、踊りもつくと、面白いかも知れませんね。

まいどお退屈様でした。

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