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2018年2月24日 (土)

【読書・鑑賞案内】歌謡ショー? 吉本新喜劇? リュリ『町人貴族』〜レパートリーを広げるヒント(1)

(カテゴリを「読書・鑑賞案内」に統一しました。)

The music’s purpose is to reach you.(M.T.Thomas)〜前回をご参照下さい。

演奏会をやる究極の目的が、聴きに来て下さるかたへ「語りかけること」なのだとすると、何を・どう語りかけるか、が大切になるかと思います。

・語るメッセージを自力で探す(人に選んで頂いたものでも、その意義が分かる)
・メッセージを伝える環境を自力で作る
・メッセージが伝わる幸せを実感する

が、そのためのプロセスになることでしょう。

ほんとは、気になるのは「語りかける技術が私にあるだろうか?」
かも知れません。
けれど、最初に必要に迫られるのは、「語りかける勇気」なのですよね。
心配はあとにしましょう。
語りかけたい、語りかけようという心が、どうやったら自分の中に芽生え、きちんと根付くか、が、何よりも大切ですし、それがなければ面白くも何ともない。

前に、クラシックで括られる音楽は、実はいろんなジャンルのひしめきあいだ、と言いました。
クラシックのどんなものが、今の日本の音楽ジャンルだと(おおよそ)何に似ているか、並べてみました。
これからしばらくは、実際に、そうしたジャンルに沿って、バロック期を中心に、面白そうなものをピックアップしましょう。
面白がってもらえて、レパートリーを広げる~演奏会でお客さんに伝えたいのはどんなメッセージなのかを見つけるヒントになればいいなぁ、と願います。


さて。
子供の頃の私は、祖母に連れられて、何度か歌謡ショーに行きました。
一人の歌手だのグループだののショーでしたが、最近のライヴと違うのは、トークを挟んで歌が並べられている、というのではなく、小さな劇や踊りが演じられたことだったでしょうか。演歌ショーなんかだと今でも時代劇風なものが演じられるのかな?
極端に言えば、そのご先祖様みたいなのが、インテルメディオです。(叱られるかな?)

前回、16世紀末のイタリアでは、インテルメディオ(幕間劇)というものが音楽家の競い合いの場になっていたことも見て聴いてもらいました。このインテルメディオの場を提供したのがメディチ家だった、と簡単に触れました。具体的には、それはメディチ家の大公フェルディナンド1世さんとフランス貴族の娘クリスティーヌさんの結婚披露宴だったんです。
(・・・クリスティーヌ、って聞くと、私は、マイキーのパパが昔の恋人の名前クリスティーナを連呼する場面を思い出してしまうのですが・・・わかりませんよね、「オー! マイキー」知ってます?・・・はい、すいません!)

メディチ家とフランスの王家公家は当時とても繋がりが深かったので、その縁で、インテルメディオはフランスのお金持ちの間でも流行のフォーマットになりました。ただし、フランス貴族たちは踊りが好きだったので、フランスではインテルメディオは、もとから盛んだった「バレ(バレエ)Ballets」に吸収されて、パリやヴェルサイユに腰を落ち着けます。(バレは、全部踊りの曲で構成されたわけではありません。)

21zas5wjnql 『王は踊る』という映画をご存知でしょうか?
世界史の教科書に「太陽王」のあだ名で登場するルイ14世は、若い頃、自らが踊ることをたいへん好みました。映画は、そのための音楽を提供したリュリ(1632〜87)と王の関係を、ちょっと倒錯的に描いた、アダルトコミックっぽいストーリー展開です。

https://movie.walkerplus.com/mv31995/

見事な映像のこの作品のストーリーの真偽はともかく・・・史実に基づくエピソードは、うまく幾つも取り込まれてるんですけど・・・、ルイ14世の踊り好きが、王のお気に入りだったリュリの創作活動前半を、豊富なインテルメディオ(アンテルメード)〜ディヴェルティスマン(divertissement 気晴らし)で埋め飾ることとなりました。
白眉は、リュリが大喜劇作家モリエールと組んでルイ14世のために作った、コメディ・バレでしょう。音楽はそのアンテルメード部分に豊かに挟み込まれています。
それらは単に踊るための音楽ではなく、耳にするだけで愉快な歌を豊かに盛り込んでいます。歌謡ショーの先駆ですね。

有名な『町人貴族』(1670年)の他、『強制結婚』(1664)、『魔法の島の歓楽〜エリスの公女』(1664)、『恋は医者』(1665)、『ムッシュ・ドゥ・プルソニャック』(1669)、等々、モリエールとリュリのペアはルイ14世の重要な催し物があるつど、精力的に、コメディ・バレ作品を提供し続けました。

ところがルイ14世は1670年2月4日に催されたカーニヴァルの催しには踊りに現われず、以後人々の面前で踊ることはやめてしまい、この日のためにペアが用意した『気前のいい恋人達』(コメディではない作品でした)は空振りに終わります。モリエールとリュリのペアも金銭トラブルをめぐって2年後には解消、その翌年にモリエールは51歳で逝去します。先日の大杉漣さん同様、最後までお芝居をして、直後に倒れて、共演者にみとられて亡くなったのでした。
以後、リュリはルイ14世の嗜好の変化に追随し、死の年まで次々と大作オペラをものにしていきます。それらはフランス語の扱い方がとてもよく考えられていて、フランスオペラの原点として後々まで敬意を払い続けられることになりました。

モリエールとリュリによるコメディ・バレのエッセンスをCDで聴くことが出来ます。(*1)
ひとつひとつは小さな抜粋ですが、どれも特徴的な場面を巧みに選んであります。
https://www.amazon.co.jp/dp/B071H9XH35 
(「リュリ:コメディ・バレ名場面集」ルーヴル宮音楽隊 1987年録音 ERATO WPCS-16305)

その中から、『町人貴族』の有名な一場面がYouTubeにも上がっていましたので、埋め込んでおきます(12分52秒)。
こんな場面です:トルコ人達が儀式のために行進して来て、アッラーと何度も唱え(イスラームのかたにとっては音楽が軽率な響きでしょうけれど、現代とは切り離して下さい)、連れて来た町人が何を信仰しているかで大僧正と問答をする。町人は(偽)イスラム教徒で(偽)トルコ人、(偽)貴族のジュルディーナである。このジュルディーナを(デタラメに)祝福する儀式が執り行われ、終わると大僧正とトルコ人達は引き揚げていく(第4幕と第5幕の間の、第4アンテルメード。ジュルディーナなる人物のセリフは一切ありません)。

・・・バロックの音楽に聞こえます?

『町人貴族』を見る・本で読むときに参考になるドキュメントもネットにあります。

跡見学園女子大学文学部紀要 第 44 号(*2)

ところで、『町人貴族』が書かれたいきさつは、こうです。
1669年、オスマントルコからフランスに使者が来ました。この使者、実はたいした役目もになっていなかったのですが、大使と勘違いしたフランス側は贅を尽くしてこれをもてなし、あとで間違いに気付いて大いに屈辱を味わったのでした。ルイ14世が腹いせにモリエールとリュリにトルコの風俗や衣装を取り入れた作品を作るように命じて、生まれたのが本作だったのだそうです。(※ 専門家である内藤義博さんの解説をご覧下さい。 http://rousseau.web.fc2.com/jopera/jbourgeois.htm
(10月に生まれた本作よりもずっと前の2月に、例の、王が踊りに現われなかった『気前のいい恋人達』が演じられていますので、モリエールとリュリのペア活動はその後も切れずにいたことが分かります。)
アンテルメードだけではない、『町人貴族』全編を、初演された時代の雰囲気の再現を試みて上演されたものも、YouTubeに上がっています。ただし全部見るには3時間半かかります。上の場面の映像は2時間22分23秒からです。そこから再生されるように埋め込んでおきます(なんかうまくいかないな・・・すみませんが手動で2時間22分23秒あたりまで戻して下さい)。音楽は重複しますが、舞台で演じられるところも、興味があったら見て下さい。
どうでしょう、歌謡ショーというより、吉本新喜劇のほうが近いかな?

偽貴族ジュルディーナ(主人公のジュルダン)はモリエールが、怪しい大僧正はリュリが、それぞれルイ14世の前で演じた由。
モリエールは本職の役者さんでしたが、リュリもコメディ・バレでは演技達者なところを時々披露して人々に感嘆されていたのだそうです。リュリは性格が悪かった、と伝えられているんですけれど、深くつき合わなければ面白い人だったのかも知れませんね。

この映像には日本語字幕も出るDVDがあります。
https://www.amazon.co.jp/dp/B00E5AMEUU/
(デュメストル指揮 ル・ポエム・アルモニーク 2004年収録)

コメディ・バレには豊かな音楽と舞踊があったのですよね。そこが吉本新喜劇と大きく違います。

コメディ・バレに挟まれたアンテルメードを抜き出せば、劇の場面の愉快さをアピールできる良い材料になります。こうしたものを、もし弦楽合奏でやるときには、歌の部分を各パートのソロとすることになるでしょうか。コレルリが望んだように、楽器に語らせるのです。試してみてもいいとは感じませんか?

「いや、やっぱり独立した舞曲でも集めたものの方が・・・」

そうですか。
であれば、この後のフランスオペラに、ふさわしい材料があります。
それのご紹介は次回にしますね。

81hh57tjqal_sl1200_ 『町人貴族』は、20世紀に入って、ドイツの詩人ホフマンスタールが翻案を書き、R.シュトラウスが音楽をつけて、バレエとして上演したものがありました。
本来は、ホフマンスタールがモリエールの原作を換骨奪胎して『ナクソス島のアリアドネ』という劇中オペラを挟んだ台本を作成した演劇だったのですが、演劇の間にオペラを挟むのはバランスが悪く、オペラはオペラとして独立し、演劇部分はバレエに書き換えられました。伝記類ではそのあたりの事情があまりよく分かりません。『リヒャルト・シュトラウス ホーフマンスタール 往復書簡全集』みたいなもので追いかけていって、初めてよく分かります。いまは脱線になってしまいますので、いずれ機会があればおしゃべりしましょう。
この、R.シュトラウス版『町人貴族』(組曲版)とリュリが『町人貴族』につけた音楽を、1枚で比べて聴けるCDがあります。ひとつの団体が、シュトラウスのほうは完全に現代オーケストラでの演奏、リュリの方は古楽奏法での演奏(楽器は恐らく現代のもの)をしているのが驚きですが、いい演奏です(*3)。
なお、シュトラウスの組曲にはリュリ作品からの編曲がふたつ入っているのですが、5曲目のメヌエットはダンス教師が主人公ジュルダンにステップを教える場面のもの、7曲目(クレオントの登場)は別のコメディ・バレ「ジョルジュ・ダンダン」中の音楽とのことです。

Le Bourgeois Gentilhomme
NORWEGIAN CHAMBER ORCHESTRA
LAWO LWC 1143 (2016年録音)
https://www.amazon.co.jp/dp/B077KJP8BK

ついでながら、ホフマンスタールは綺麗な詩を書いた人です。
今日の最後には、その翻訳(川村二郎訳、岩波文庫『ホフマンスタール詩集』赤457-2)から抜き出して載せておきましょう。モリエールの喜劇精神にも通じるものがあるように感じましたので。

  おびただしい運命が わが運命のほとりではたらき
  存在の手にかなでられ すべては入り乱れたしらべを歌う
  そして その中でのわたしのかかわりは この人生の
  かぼそい焔やひびきかすかな琴よりも 甲斐あるものなのだ

  (Manche freilich.... 邦題「もとより中には・・・・」)


*1:このCDに収録されたアンテルメード等は次の通りです。
   「恋は医者」〜序曲(シャコンヌ)・終景
   「魔法の島の歓楽」第2日:エリードの王女:第1アントルメード抜粋
   「ジョルジュ・ダンダン」〜羊飼いたちのエール 他2曲
   「プルソニャック氏」〜第2アントルメード後半、第3アントルメード
   「パストラル・コミック」〜第1アントレ、第2アントレ
   「町人貴族」〜トルコ人たちの儀式
   「気前のいい恋人たち」〜序曲、田園劇、
     牧神と森の精のためのメヌエット、
     アポロンのアントレ(ルイ14世が踊るはずだったもの)

   なお、フランス古典喜劇でのモリエールの位置づけについては
   ロジェ・ギシュメール『フランス古典喜劇』(文庫クセジュ 820 )
   を読んでみて下さい。

*2:リンクのドキュメントは『町人貴族』の各場面を理解するのに有益です。引用や参考で引かれたフランス語も(日本語訳もついていますし、語彙も)分かりやすいものです。ただし『3−4.第二幕第四景」に出てくるラテン語は、デュオニシウス・カトーという人物に仮託された二行詩の格言集にある言葉です。三世紀頃の書物だと推測されていますが、中世ヨーロッパでは道徳教材を兼ねた初歩のラテン語テキストとして著名でした。エラスムスが最初の校訂本を出版している由。説明の中の「母音字で終わる語の後に母音で始まる単語が来た場合、前の語末 の母音字は読まれず」という説明はelisionというものですが、正確にどう発音されたかについては実際には諸説あるようです(國原吉之助『ラテン詩への誘い』p.22参照)。チョーサーの『カンタベリー物語』にも言及があるそうです。デュオニシウス・カトーという人のことは何も分かっていないようですし、単に仮託するために産み出された人名である可能性もあるようです。

*3:収録されたリュリのアンテルメードの音楽の構成を、参考までに載せておきます。(怪しい訳です! 間違いはあとで調べます!)
  1.序曲
  2.リトルネッレ
  3.第1インテルメード:エア〜サラバンド〜ブレ〜ガイヤール〜カナリ
  4.仕立て屋たちの第1エア〜第2エア〜トルコ人の儀式のためのマーチ
  5.第3エア
  6.書物の寄付〜スペイン人のリトルネッレ〜スペイン人の第2エア
  7.イタリア人のリトルネッレ
  8.スカラムーシュの入場
    〜スカラムーシュ・トリヴェリン・アーレクィンのシャコンヌ

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