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2017年8月22日 (火)

ブラームス「交響曲第1番」つくりのさわり

『ブラームスはお好き』なる小説には食指が伸びたことがないのです(サガンですね)。
でも、ブラームスの交響曲は好きなんです。
悪口で「まるで室内楽ぢゃん!」とか言われたとか言われなかったとか言いますけど、その室内楽的なところに魅かれたのが、大学オケで初めて弾かせてもらった、十九歳か二十歳そこそこの頃。4番だけは学生のうちに演奏経験できなかったのですけれど。それでも、世間の狭い私にとって、たった一人、交響曲の全曲演奏を制覇できた作曲家がブラームスなのであります。・・・制覇だなんて! 大勢の弦楽メンバーのなかの砂の一粒だっただけだわさ。


音楽史的なことに再チャレンジしようと思って、古代エジプトを始めたところで、メソポタミアと同じスタンスでは取り組めないのに気付いて、はた、と止まって、それっきりになっていました。そっちはまたその気になったらやります(エジプトじゃない材料は、狙いの分の半分ほど書き出してあるんですけどねぇ)。
んで、音楽への回帰は、今度1月に所属アマオケでやるブラームスの第1交響曲にします。
・・・そんなにブラームスの交響曲が好きではない、というお友達にも、ちょっとだけ興味を持ってもらえたら、との思いがあります。


この曲の解析みたいなのは、全音版のスタディスコアで野本由起夫氏が言い尽くしているし、あるいはフリッシュ『ブラームスの交響曲』で微に入り細にわたって語り尽くされていますから(私は訳書を紛失して手元には英訳版しかありません泣)、それに重ねて言えることは私ごときにはございません。高度なことをお知りになりたいかたは、それらをご覧下さい。
今は、もしかしたら、高度なことを知りたい、と思ってもらえる架橋くらいにはなるかな、程度のことを、ざっとお喋りします。
曲にまつわるブラームスのクララ崇拝だとかベートーヴェン第十だとか、ゴシップ的な話はしません。


1)なんだか知らんが上昇志向。

全曲が「ドミソ#ド」構成になっている。
すんごくざっくり言うと、まずこれです。
第1楽章〜ハ短調。ハ=ド(固定ドで)
第2楽章〜ホ長調。ホ=ミ(おなじく)
第3楽章〜変イ長調。変イ=嬰ト、ト=ソ(またまたおなじく)
最終楽章〜ハ長調。ハ=ド(またしても!)
変イと嬰トは厳密には違う音ぢゃん!・・・とか、硬いことは抜きにしておいて下さいね。
4段階になる調の構成を「ド〜ミ〜ソ〜ド」の上昇指向(志向ではなくてね)にしている。上昇指向は、それだけでは足りなくて、「ソ」には#(’シャープ)を付けとこうね、あ、それだと楽譜が見づらくなるから(嬰ト長調はシャープが八つぢゃないといけない! そんなの書けるのかっ! Fダブルシャープ使わんといかん!!! 書けないっ!!!)、異名同音でラのフラットね、そうすればフラット4つですむけんね!、なんてことまでしている。
そうだからなのか、そんなことはどうでもいいのか、長い長い全曲を聴いていると、だんだん体がふわっと浮いてくるような気がする。・・・しませんか? しませんか。そうですか。。。


2)全編全パートがメロディック

まあ初めてこの曲を聴くときに、上みたいなことを先に考えることは、まずないでしょう。
最初は
「どこを聴いても流れるように旋律的ね〜」
で、も少し凝って聞き出すと、たとえば
「あら、ヴァイオリンの伴奏してるヴィオラもメロディックね! あら、チェロの伴奏してるヴィオラも! でもヴィオラは結局伴奏ばっかりかいorz」
となってくる。
それもそのはず、どこもかしこも和音のズンチャカ(ホモフォニックに)ではなくて、メロディが蔦のように絡み合って(ポリフォニックに)音符が並んでるんですね。一見和音でメロディを伴奏しているふうなところも、よく注意すると、和音のそれぞれの音が・・・いちばん上の音は前や後ろのいちばん上の音と、二番目の音はまた二番目の音同士、三番目は三番目同士・・・で、別の綺麗なメロディをこっそりと作り合って、お隣同士お向かい同士でニッコリ笑い合っているんですよね。これ、印刷された楽譜を見るまでもなく、聴けば「そうかな」って感じて、聞こえるんです。
和声で帳尻合わせをしない伴奏は、明らかにブラームスを規範にしたドヴォルザークもチャイコフスキーも完璧には書けてはいませんで(地場の民族音楽のリズムに縛られたところがあるからだと思います)、むしろプーランクの「牝鹿」あたりに面白いサンプルがある等、フランス近代に引き継がれるものになって行った気がしますが、気のせいかもしれません。お詳しいかた、ご教示下さい。
ともあれ、このシンフォニーでは、嘆き節のところでも、号泣の場面でも、実は音同士は微笑みを交わし合っている。聴き重ねて行くと、そんな音同士の笑顔が見えてくる気がするんですよね。・・・「やだ〜変態!」ですか。そうですか。変態ですみません (ToT)
まあこれは第1交響曲だけではないのですけれど。
それでも第1がいちばん、派手なアピール抜きであるように思います。


3)あとにつながっている

各楽章自体の、繊細なモザイク造りに感嘆させられる、という話もあるのですが、それはざっくりとは言えないので、もし別の機会がありましたら。第1楽章がそれを典型的に見せつけてくれるのですけれど、そのあたりは全音版スコアの野本さんの解説で充分に語られています。しかしモザイクの最小部品であるモチーフにはちょっと問題があります。弦楽器にとってはブラームスの交響曲は先人の作品に比べてけっこう弾きにくかったりするのですが、それは第2楽章が彼のピアノ作品に通じるような音構成でオーケストレーションしているところから理由が分かります。ブラームスはピアノでこ交響曲を作曲したんですね。(ベートーヴェンでも全部をピアノで作曲したのではないように思います。ピアノで全部、というのはシューマンを嚆矢とするのではないでしょうか。)
それに加えて、第1交響曲の面白さは、そこここのテーマが、ブラームスのこのあとの交響曲に繋がっていくところにあります(これは残念なことにあんまり言われていないと思います)。
第4楽章の有名な主題は、第2交響曲の第1楽章の主要主題にも変身しますし、さらには第3交響曲の終楽章の主題にも変貌します。
第3楽章の中間部は、リズムを変えてではありますが、第3交響曲の第2楽章中間部へと発展します。
第1楽章の速くなったあとの、切り立つようにに厳しい増六度の下向は、第3交響曲では4度〜3度の交錯に、そして第4交響曲では3度に和らげられて、それぞれ第1楽章の主要主題となります。第4交響曲では、反転した完全6度の上昇音型と組み合わされまでするのです。
第1楽章冒頭の上昇音型は、第2交響曲第2楽章のチェロの冒頭主題に寸を詰め下向きに変えられ、波状攻撃風に展開されて行きますし、さらにまた、第4交響曲終楽章のパッサカリア主題へと結晶して行きます。
どう該当するかは、ちょっとイメージしてみて下さい。譜例を載せるまでもなくお気付き頂けると思います。

この他については、楽しんで発見して頂けたらいいな、と思います。


最後がちょっと隠微な表現になりましたけれど、これがいちばん面白いかもな・・・むふふ。。。

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