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2016年7月 2日 (土)

【ディスコグラフィ】古典的前衛ベト8!〜(税抜)1,000円台のCD

この冬、所属アマオケでベト8〜ベートーヴェンの交響曲第8番をやることになりました。
んで、団内のかたへの資料提供をダシに、(消費税別)1,000円台のCDのご紹介をしたいと思います。

【前置き】〜また面倒になってしまいましたので、流して下さい。(>_<)Zap2_g1680226w

ベートーヴェンの交響曲第8番は、聴くと均整のとれた曲のような気がするのですが、どっこい、書法はなかなかの前衛です。
・第1楽章がppまでへのディミヌエンドで終わる(『田園』でさえそうではない)。
・そんなことよりもなによりも、最初に第2主題とか副次主題とか言われる柔らかなメロディが出てくるところの転調が複雑怪奇(前ふりは調性感の薄い変ロ長調〜登場1回目二長調〜登場2回目ハ長調)で、その後に続く無調感がじつにハンパない!
・んでこれまた、再現部がどっからかがうまいことボカされている
・第2楽章はバロック的なリズムぼかしを全然バロック風にでなくやりとげている。して、よく言われるように緩徐楽章ではない
・メヌエットもどきはトランペットとティンパニがすっとぼけたタイミングで入り、主部のおしまいのところでは木管群もすっとぼける
・ロンド形式だかソナタ形式だか、どっちにもとれるくせに、でもロンドソナタ形式ではない終楽章
などなど、もうマニアックに言い出したらきりがないのですが、詳しくは音楽之友社版のスコアの、すんごくむずかしい解説(沼口 隆さんによる)を頑張って読んで下さい。
あ、ただし演奏用楽譜はベーレンライター版になるので、練習用のスコアとしてはそちらが必要です。

ベートーヴェンの前衛ぶりは、ピアノソナタが最高に、次いで弦楽四重奏曲が際立っていて、ご存知の通り第1から第9まで前衛のネタは尽きないはずの交響曲は、聴いてみるとしかし、そんなふうにも思えません。後輩たちがこぞって真似をしたからなのかな。そうしたわけで、第8の前衛っぷりには、あまり気付かれてこなかったのではないでしょうか。どんなにこねくりまわした書きっぷりであっても、「歪み」のない構成が安定感を生み出していること、オーケストレーションが実に巧みであることが、私たちの目ならぬ耳をくらましてきたからなのかも知れませんね。

【聴く準備?】

で、アマチュアの演奏の手本には、この曲の場合、安定感のある演奏が望ましい気がします。
じっさい、いろいろ聴いてみると、第2楽章以降は、そんなにこねくりまわされた演奏はありません。
第1楽章には「やらかしポイント」が幾つかあるので、選ぶときには、そこがミソかな。そうでもないかな。とくに冒頭主題の「(移動ド読みで)ミソ・ド・ミレ・」でためてしまうのは、どうかなぁ、と思います。
第2楽章でわざとあんなに規則的で句切れの分からない均等リズムを採用した作曲法を考えあわせると、「やらかしポイントでやっちまう」ようなデフォルメはベートーヴェンは望まなかったのではないかと思います。「やらかす」なら第3楽章こそ、なのですが、これが面白いとまで思う演奏はないし、面白さを実現するのはかなり難しいと思うし、「やらかし」ていなくても、まあいいか、ではあります。

ベルリンフィルとウィーンフィルの録音を聴くと、この二つはオーケストラとしての性能がダントツだなあ、と感じます。これはとくに、木管アンサンブルの響きやトランペットの鳴らし方、とくに第3楽章のトリオ相当部分(「トリオ」とは書かれていない)の、ゴキブリがはうような低音(!)の伴奏の上に悠々と鎮座ましますホルンとクラリネットの音色の伸びやかさで、もう圧倒的です。
しかしながら、じゃあ他のオケでは話にならないのか、というと、まったくそんなことはありません。むしろ、上記二大オケでも、あかんもんはあかんかったりします。結果的には、いろいろ聴いてみると、二大オケではないところのもののほうに多角的な魅力を感じます。

それぞれに、必ず受ける印象であろうことを簡単に記しますので、選択の際の参考になさって下さい。

【演奏時間比較】〜値段と品番は個別紹介のところでします。
         PC以外ではレイアウトが崩れます。ごめんなさい。
  みなタワレコ新宿店で買いあさり、一昨日現在補充がないのを目撃してきました。
  他のお店で見つけるか、新宿店さんの補充を待ってね。(ToT)
  おのおおの、タワレコさんのサイトのリンクは載せておきます。

指揮者  プフィッツナー  カラヤン     アバド
オケ   ベルリンフィル  ベルリンフィル  ベルリンフィル
録音年  1933     1962     2000
第1楽章 07:49    09:18    08:42
第2楽章 03:55    03:54    03:56
第3楽章 04:16    05:54    05:32(ただし総リピート)
第4楽章 08:08    07:07    06:56
*プッフィッツナーは年代がかなり隔たるので、歴史的演奏がお聴きになりたければ、ですね。
 呈示部の反復がありませんので、第1楽章は上げた中での最速ではありません。

指揮者  バーンスタイン  ティーレマン   
オケ   ウィーンフィル  ウィーンフィル  
録音年  1978     2009     
第1楽章 09:42    10:22    
第2楽章 03:59    04:15    
第3楽章 04:48    05:24    
第4楽章 07:20    07:50
*ティーレマン盤は2枚組でなおかつ1,000円台ではありませんので番外です。

指揮者  ブロムシュテット       ブリュッヘン     
オケ   シュターツカペレドレスデン  18世紀オーケストラ
録音年  1978           1989
第1楽章 10:00          08:28
第2楽章 03:54          03:50
第3楽章 04:45          04:22
第4楽章 07:53          06:51

指揮者  サヴァリッシュ        パーヴォ・ヤルヴィ     
オケ   ロイヤルコンセルトヘボウ   ドイツカンマーフィル・ブレーメン
録音年  1993           2004
第1楽章 09:39          08:05
第2楽章 03:54          03:50
第3楽章 04:32          05:30(ただし総リピート)
第4楽章 07:39          06:43

      最速               標準
第1楽章  08:05(ヤルヴィ)      9分程度
第2楽章  03:50(ヤルヴィ)      3分55秒程度    
第3楽章  04:16(プフィッツナー)   4分30秒前後
第4楽章  06:43(ヤルヴィ)      7分30秒前後

こんな感じです。「総リピート」は、ダ・カーポ後の主部が反復記号を省略無しに演奏されている、という意味です。


【個別に】

ベルリンフィル

*ハンス・プッフィツナー/ベルリンフィル(1933年)UCCG-90307 1,650円+税
http://tower.jp/item/3279460/
クナッパーツブッシュ指揮による1928年録音のヴァーグナーの管弦楽とのカッUccg90307_2プリン グです。いずれも貴重な録音だといえますが、クナッパーツブッシュの連綿としたヴァーグナーに比べると、さっぱりしているのが面白いところです。曲の性質のせいかも知れません。とはいえ全楽章にロマン派まっただ中のテンポゆらしがあって、今の耳で聴くと違和感が大きいかも知れません。第1楽章の「やらかしポイント」を「やらかし」ています。第3楽章のトリオはなぜかホルンのリズムが楽譜と違います。理由を突き止めていません。音は意外にノイズが少ないです。ステレオ期以降の演奏のどれかと併せて聴くのがよいかと思います。

*カラヤン/ベルリンフィル(1962年2月)UCCG-5304 1,200円+税
http://tower.jp/item/3834911/
第7をフルトヴェングラー盤(モノラル)で聴いたとき、より新しいクリュイタンスUccg5304 盤(ステレオ、全集)のベルリンフィルの音とあまりに「同じ」だったのに仰天した記憶があります。それで、響き作りに伝統があるのかな、確かめてみたいな、と思って聴いたのが、これではなく1967年録音のカラヤン指揮盤の第8だったのですが・・・残念ながら、伝統の片鱗はあるものの音が濁っていて、ガッカリしました。より前の62年録音はどうだろうか、と、このチャンスにチャレンジしたのでしたが、これもダメでした。弦の人数をかなり多くしているのが災いしているのではないかなあ(『田園』は決して悪くないんです)。それと、カラヤンは端正な曲には向いていなかったようにも感じています。彼の指揮した古典派ものは個人的には気に入ったものがあまりありません(ロマン派ものはいいなあと思うのですよ)。カラヤン好きなら、ベト8は、もしかしたら67年盤のほうがいいかも。こちら(1,000円+税)は、記憶では第2楽章についてはたいへんきれいな音でした。

*アバド/ベルリンフィル(2000年3月)UCCG-50004 1,800円+税
http://tower.jp/item/2852169/
クリュイタンス盤(1967年)から30年以上隔たっているにも関わらず、こちらのほUccg50004 うがカラヤンとの演奏に比べてクリュイタンス、ひいてはフルトヴェングラーと共通の音色を持っています。この音色の維持には舌を巻くよりほかありません。とはいえ指揮しているアバドは、勉強熱心な人だったのでしょう、彼の指揮したベートーヴェンの交響曲は古楽スタイルなどを意識したもので、スコアの指示に対しても古楽畑の人たち同様極端なほどに「忠実」を誇示するところがあり、それがベルリンフィル伝統の音響の中でなされることは聴き手に強烈な違和感を呼び起こすことがあるかも知れません。かつ、古楽の成果を取り入れたという意味では、そちらのスペシャリストと目しても良いパーヴォ・ヤルヴィたちの演奏にお株を奪われてしまっているようにも思います。第1楽章にバラけを感じますが、全般にはアバドの指揮らしい、飛び跳ねるようなイキイキさをもった演奏です。


ウィーンフィル

*バーンスタイン/ウィーンフィル(1978年11月)UCCG-90526 1,500円+税
http://tower.jp/item/3917723/
ティーレマン指揮のものは2枚組でしか見当たらず番外としましたが、これが第1楽Uccg90526 章の「やらかしポイント」をやらかしているうえに、全楽章にテンポの揺れがあるので、新しめ(7年前)でこんな20世紀前半的なことをいまどき・・・ウィーンの人たちはこういうのを喜んでいるのかしら、と、ビックリしたのでした。ライヴのようですが、演奏の集中度は若干「?」でした。
ラトルの旧全集(2,000円!)の中のベト8はYouTubeで聴け、わりとノーマルで締まりも良くて素敵なのですが、第1主題後半で1回目はわざとディナミークを落としてクレッシェンドを聴かせたりしています。ナマで聴いたら面白いのかも知れませんが、この音声ではちょっと作為的に聞こえて面白くありませんでした。
とはいえウィーンフィルも長い時代を経て昔ながらの音色を維持していて、これも驚嘆に値します。それでやはり長期間の演奏の比べっこをしたい誘惑に駆られたのでした。
バーンスタインがライヴで残した演奏が、もう40年近くも前なのですが、これはノーマルでありながら伸びやか、伸びやかでいながら丁寧なものなので、ウィーンフィルならこちらが断然いいかも、と思っています。バーンスタインのベートーヴェンは時に歌い過ぎだったりゆったり過ぎだったり、で、たぶん聴き手には賛否両論なのですが、この第8に関しては、演奏時間も見てのとおり割と平均的で、極端さが影を潜めています。


古楽系

*ブリュッヘン/18世紀オーケストラ(1989年11月)PROC-1751 1,200円+税
http://tower.jp/item/3896360/
 歴史的演奏法をモダンに取り入れたノリントンを含め、古楽系としてのアーノンProc1751 クール、ホグウッド、インマゼールらの全集のものも聴いてきたことがありましたが、ブリュッヘンのこの演奏が、いちばん安心して聴ける気がします。古楽系は管打が相対的に良く鳴っていて、大型オーケストラに比べて本来の正しいバランスはこうなのかな、と思わされる反面、弦楽器の荷なっている重要なパラフレーズまで管打が隠してしまうこともままあり、その点は疑問に思っています。ブリュッヘン/18世紀オーケストラの録音も、とくに第1楽章にそのきらいがあります。それでも終楽章はとくに、圧巻のクレッシェンドの最中に楽器間のバランスをよく考えていて、なかなか小気味良い演奏となっています。弦楽器も、古楽系の大曲録音では思いのほか巡り会えない「しゃりん!」という響きが、ブリュッヘン盤では随所で聞かれ、奏法のスジの良さに感服させられます。ブリュッヘンの指揮する演奏は、曲の最後の音を他の人なら「ふゎん。」と置くところを「ぽん、」と軽く置くので、そのニュアンスだけは好き嫌いの分かれるところかな。第8では第1楽章、第2楽章の最後の音がそうなっています。


N響の指揮者たち
・・・1,000円台を漁ったら、奇しくもこのような取合せになったのでした

*ブロムシュテット/シュターツカペレドレスデン(1978年2月)KICC 3645 1,000円+税
http://tower.jp/item/3666902/
シュターツカペレ・ドレスデンは技術力も非常に高く、鋭角な響きがし、かつ指揮者Kicc3645 が変わると響きの質まで変えてしまうので、これまたすごいなあ、と、日頃から尊敬するオーケストラのひとつです。ブロムシュテットの指揮はN響を指揮したものは時に淡白すぎてつまらないんじゃないか、と思うこともあるのですが、ノーマルを聴きたいと思ったらこの人、という側面もまたあります。で、この曲に関してはオケと指揮者の相性が抜群ではないかと思いました。ときに発揮され過ぎるシュターツカペレドレスデンの極端な鋭角さがなく、きわめてノーマルでオーソドックスな音響、テンポ、ニュアンスをかたちづくっています。第3楽章のホルンの音が、このオケならではの「いかにも(旧)東独」の、サックス系のヴィブラート豊かなものですので、好みはそこで分かれるかな。あとは終楽章のファゴットとティンパニのオクターヴ音型のユニゾンで両楽器の音色がしっかり混じりあっているのを、この録音でのみ耳にして、これは驚きました。これも好みに反映するかも知れません。

*サヴァリッシュ/ロイヤル・コンセルトゲボウ(1993年12月)TOCE 90272 1,800円+税
http://tower.jp/item/3242021/
ひとことでいうなら・・・もっとも規範的な演奏です。(現在の通常のアマチュアの編成でのモダンの)フルオケにとっては、これ以上の「正しいお手本」は見当たらないのではないかな。例の「やらかしポイント」である第1楽章「(移動ド読みで)ミソ・ド・ミレ・」は、どんなに良い演奏でも丁寧さが失われがちで、それがまた「やらかしたい人はやらかしちまう」理由・・・ここをなんとかしたい良心からなのです・・・になるのですが、「やらかしポイント」の見事な解決法はサヴァリッシュのこの録音でしか出会えませんでした。テンポ内できちん、きちん、きちん、と音を弾ませる。この弾力がたいていおろそかにされるんですよね。アンサンブルもたいへんしっかりしています。ニュアンス作りも微に入り細にわたりたいへん丁寧になされています。すべてきっちりしていながら、しかし窮屈な感じがこれっぽっちもしません。コンセルトゲボウがまた、重厚濃厚。ライヴ録音で、終楽章のコーダ前までおしつまったあたり(調べたら452小節目でした)で第1トランペットさんが音の入りをはずしてしまっているのがご愛嬌。それまでしかし、メンバーがこれだけの集中を保っているのは、見事というほかありません。
地方のテレビで食い入るように見つめさせてもらっていた、サヴァリッシュさん壮年期の凛とした指揮姿が思い出されて、ちと涙ぐみながらこれを綴っているという、とんでもないオマケ付きであります。・・・これは人には貸せないので、聴きたかったら自分で買ってね。

*パーヴォ・ヤルヴィ/ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン(2004年8月)SICC 30022 1,890円+税
http://tower.jp/item/3148208/
ヤルヴィ盤は高音質の2,000円超盤もありますが、ぎりぎり税抜1,000円台のこれもSicc_30022 あります(消費税8%では税込2,000円になるのは1,850円までですので、お財布からの出費は2,000円を41円ほど上回ってしまいますが、まあ良しとしましょう!)
とにかく硬派で快速で、ベルリンフィルがアバドのテンポ作りで露呈してしまったような戸惑いがまったくありません。若々しくて斬新な音色は、まだ耳新しかった時期のノリントンに感じさせられたある種の極端さをも、凌駕してしまっています。古典の演奏が、まだこんなに刺激的な開拓の余地をもっていたことに、感嘆の念を禁じ得ません。それでいて解釈には別段奇をてらったところはありません。ベーレンライター新版が出て以降、ベートーヴェンのメトロノーム記号を尊重しようというので、やたらに快速を標榜する演奏が増えたのでしたが(アーノンクール、ノリントン、アバド、ブリュッヘンらの名誉のために言うと、彼らはベーレンライター新版の出る前に独自の研究からそうしたのでした)、ただ軽く荒くなっただけで、あまり感心できるものではありませんでした。そうではなく、速さのいかんに関わらず、丁寧にやらなければならないものは丁寧に、を貫いた新鮮な演奏がこうして聴けるようになったことには、安堵の念を抱かずにはおれません。

・・・とまあ、また冗長になりました。
・・・こんなところで。

ベートヴェンの第8の第1楽章のコーダは、先に上げた音楽之友社版スコアの解説に丁寧に記されている通り書き直されているのですが、書き直し前の自筆譜の写真がこちらで見られますので、よろしければご覧下さいまし。
http://www.beethoven-haus-bonn.de/sixcms/detail.php?id=15288&template=dokseite_digitales_archiv_en&_dokid=wm174&_seite=1-1

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