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2016年3月13日 (日)

「プラハ交響曲」・ヴァイオリン協奏曲第5番ファクシミリ!(モーツァルト)

アカデミアさんからのニュースに狂喜!

https://www.academia-music.com/academia/m.php/20160309-7

モーツァルト「プラハ交響曲」自筆譜のファクシミリが、とうとう発売!
でもって同時に第5番のヴァイオリン協奏曲(イ長調、トルコ風)も!

・・・お金もないのに、ついボチッとしちまいました。(>_<)

Prague

「プラハ交響曲」の自筆譜は、モーツァルトの他のたくさんの自筆譜と同じように、第二次世界大戦のときドイツからポーランドのクラクフに隠密裡に避難したことは、モーツァルトをお好きなかたはよくご存知の事でしょう。
新モーツァルト全集が編まれるとき、「プラハ交響曲」出版時(1971)には自筆譜を参照する事が出来ず、旧全集のオイレンブルクの版を使用していたとのことです(そうしたことによる問題点については、たとえばこの記事参照 https://www.academia-music.com/academia/r_mozart_yasuda.php)。
今回写真版ファクシミリが入手出来るようになった「プラハ交響曲」の自筆譜は1980年に再発見されたもので、新モーツァルト全集をベースにしたベーレンライター版の新しいスコアには発見による修正が反映されているものの、具体的にどんな点が新全集から修正されたのか、それは自筆譜上のどんな事実に基づくのか、は、私たち普通の愛好家には知りようがありませんでした。そうした点について「なるほど!」と思いながら眺めるのも、まあいいのだろうな、とは思います。
でも、自筆譜ファクシミリを読むときのいちばんおおきな喜びは、神話の中にある作曲家が、伝説的な名曲を作り上げる中で、どんな苦闘をしたか、あるいはしなかったか、を知り得るところにあります。こうしたことは、印刷された楽譜では、ふつうは分かりません。

「プラハ交響曲」の場合、モーツァルトが、たとえば第1楽章でたいへん意義深い修正を自ら行なっていることを、今回ファクシミリで知りました。私はそれに大きな感銘を受けました。
79小節でファゴットとチェロが、前から流れている第1ヴァイオリンに和して第1ヴァイオリンと同じ動機を奏でますが、これはどうも最初は小節の頭の八分音符から「タタタタタタターララ」のように書いていたようです。それをあとから最初の「タ」は八分休符に置き換えて「・タタタタタターララ」に直しています。
164小節は、当初2分音符二つだったホルンとトランペットを、最初の一つ分は二分休符に直しています。
旧モーツァルト全集に依拠していると思われる全音のスコアでは、前者は自筆譜の変更を反映していますが、後者は反映していないだけでなく、どうも違う音になっているようで、別の問題をはらんでいるようです(旧全集は現在グラーツにあるパート譜を参照して「プラハ交響曲」の校訂をしたものだと聞いています・・・合ってるのかな?)。
いずれにしても、この2ヶ所だけでも、「プラハ交響曲」を演奏する際に、第1楽章のフレージングをどのように考えるべきか、大きな示唆を与えてくれます。
第1楽章では他に、序奏部が一気に書かれたものではないらしいことがインクの色の違いで分かったりして、これもモーツァルトがただの天才でさらりと創作したのではない、アイディアをいかに彫琢するかで悩んだのだ、と知らせてくれて、ちょっと涙が出ます。(右が79小節前後、左が164小節前後。)

Prague1

フィナーレ楽章は先の2つの楽章とまったく違う五線紙に書かれているのが一目瞭然で、これを見たタイソンが1984年に「このフィナーレはもしかしたらパリ交響曲を再演しようと思ったときパリ交響曲の差し替えとして書かれたのではないか」と推測したのでした。

これまで幾つかのファクシミリを手にする機会があり、モーツァルトの自筆譜は、ほとんどの場合決して無修正ではなく、彼の苦労と効果的な修正が目の当たりに出来、その作品がどうして澄み切ったものになったかを考えさせてくれる良い材料になります。
イ長調ヴァイオリン協奏曲(KV219、トルコ風のトリオを持つフィナーレで有名)は、そんな中でも(今のところ、ぱっと見)珍しく修正のみられない自筆譜です。ほら、だから天才は違うんだ、と言いたくなる人も多いでしょうが、筆跡を見ると、たいへん丁寧です。決して天才がひらめきで書きなぐったものではありません。それがもし頭の中だけだったとしても、紙に書き下ろすときには、自分のアイディアを大切に慎重にペンに乗せたように感じられてなりません。

Mozartvn5

以上、ご興味をお持ちになられるようでしたら、実際にお手にとられる事を強くお勧め出来る2点です。


私にとって実は「リハビリ」だったブログ、リハビリのお役目はなんとか終わったように思えて、最近あんまり綴らなくなっていました。でも、やっぱり相変わらずクラシック好きなのよね。
これを期に、能がないのにへ理屈こねるのはさすがにやめて、素人として、あこがれの作曲家の筆跡に触れたとき何が幸せか、を、少しお喋りするくらいにしようかな。

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コメント

こんばんは。先日、リンツ交響曲についてブシツケなコメントをした者です。それでお気を悪くされて、今回の最後のご発言になったとしたら、本当に申し訳ありません。自筆譜などの話題で検索をかけるといつもこちらのサイトが早い順番で登場し、僕をはじめそれだけ多くの方が見ておられるのだなと感心させられます。
今回の「プラハ」の自筆譜の話も、とても興味深く読ませていただきました。新モーツアルト全集の初期の版等との比較は僕も興味があり、ご紹介いただいたファクシミリを手に入れ今調べています(素人なりに自分のサイトでも少し書きましたが)。以前書かれておられた「ハフナー」のブライトコプフ新版の記事も、とても参考になります。
えっ?あなたもおたくですかって?そうなんです。これからも素人は素人なりに情報交換しながら楽しんでいきましょう。今回は本当に失礼いたしました。

投稿: とおりすがり改めおたく2 | 2016年3月16日 (水) 20時20分

とおりすがり改めおたく2さん

重ね重ねありがとうございます!
気を悪く、だなんてとんでもない! 前に頂いたコメントへの返信をご覧下さい・・・と言おうと思ったら、それを公開し忘れているのに気付きました。(>_<)

どうぞ、そちらのサイトについても情報を頂ければと存じます。ここを読んでくれる友人たちにも紹介したいと思います。
なにとぞよろしくお願い致します。
これからも遊んでやって下さいね!

投稿: ken | 2016年3月16日 (水) 21時34分

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