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2016年2月 6日 (土)

ペーター・シュヴァルツと札響のモーツァルト【日本のオーケストラのCDを聴く】

あいだに神奈川が入りましたけれど、北日本に戻るのであります。

札幌交響楽団は尾高忠明さん(現 同交響楽団名誉音楽監督)とのペアで昨年とうとうシベリウスの交響曲全集を完結させ、掉尾を飾る第6番第7番で実に印象深い演奏を録音しています。
そちらにも、とても心を打たれています。

4988065900052 が、まずは、やはり札響が昨年出したアーカイヴシリーズから、ペーター・シュヴァルツさん指揮の1970年の演奏(第91、92、94回定期演奏会 fontec TWFS90005)の印象を述べます。

http://tower.jp/item/3968920/

たぶん、自負の強かった大学オーケストラは、少なくとも80年代頃までは、自分たちも後発の地方プロオーケストラになら比肩しうる演奏は出来ている、と信じていたのではないかと思います。
実際に、1970年代でしたら、クラシックを聴き始めた私の耳には、うまい大学のオーケストラと地方のプロオーケストラに、さほど違いがありませんでした。
最近軒並み素晴らしい演奏を聴かせて下さるプロオケを(主に録音でではありますが)拝聴するようになりますと、1970年代あたりが、アマチュアでもプロを超えうると信じられた、最後の時代だったのかもしれない、と感じていました。

では本当に1970年の頃は、とくに地方のプロはたいしたことがなかったのでしょうか。

札幌交響楽団(1961年創立)を1969年から指揮したペーター・シュヴァルツさんは、客席を向いたときの笑顔が静かで「大人っぽ」くて、それが指揮なさっている最中は派手なアクションもなくぴりっとしていて、じかに見た小学生時分の私には、何人か見た指揮者の中で最も大人の魅力を感じさせてくれました。
日本でお噂を聞かなくなってから、どうしていらっしゃるんだろうな、と思っていたら、このCDの解説で初めて確かに、1998年にウィーンで亡くなっていたことを知りました。
これまた知らなかったことながら、CDの解説によりますと、シュヴァルツさんは指揮者としては力が未知数のまま、岩城宏之さんに「失敗すればいいと思」われながら札響のタクトをとるようになったのでした。岩城さんが「失敗すればいいと思った」のは意地悪からではなくて、チェロのソリストとして世界屈指の技術力を持つシュヴァルツさんが脇道に逸れるのを惜しんだからだったと推し量られますが、けれどシュヴァルツさんは岩城さんの期待も空しく、赴任早々真摯に札響を素晴らしいオーケストラへと育てて行かれたのでした。CD解説に経緯が書かれていますけれど、1974年に初めて札響に客演した小澤征爾さんが、札響の出すハイドンの音を聴いて「ああ、これはシュヴァルツの功績だなあ」と言った、というところ、シュヴァルツさんの面目躍如ではないかと思います。

今回、シュヴァルツさん指揮札響1970年のモーツァルトの録音を繰り返し繰り返し聴きましたが、こんな熱心な人の、たぶんかなりキツかった要求を受け入れながら練習を重ねた札響の方々の示している成果は、1970年には地方のプロはたいしたことがなかった、などと思い込んできた私の主観を、がらがらと崩壊させました。

CDの最初には、若くして既に強烈なインパクトを持ってプロコフィエフ(ピアノ協奏曲第3番)を弾くマルタ・アルゲリッチとの共演が収録されています。「10年足らずでよくぞこのアルゲリッチと、まがりなりにも渡り合うまでに成長したものだ」と述べている解説の藤野竣介さんが、「そしてCDの曲がモーツァルトに移ると、その思いは驚きに変わる」と続けている通り、「ハフナー」と「プラハ」の演奏は驚異的です。
モーツァルトが大好きだったらしい山田一雄さん(1991年逝去)指揮でのモーツァルトは1985年のN響とのものが映像で、1990年の新日フィルとのものがCDで聴けますが、テンポが幅広めのスタイルのものです。日本で演奏されるモーツァルトの一般的なスタイルでしたが、山田一雄指揮のモーツァルトは中でも抜きん出て素晴らしいものでした。
が、ペーター・シュヴァルツ/札響は1970年にすでに、キリリと締まったテンポでのモーツァルトを聴かせてくれます。解説の藤野さんが「明らかにウィーンの演奏スタイルが流れ込んでいる」と言っている通りです。
音にはまだツヤツヤさが幾分足りない印象がありますけれど、この「キリリと締まった感」は1970年と言えど既にアマチュアなんか足元にも及ばなかった域に達しています。旧版を使用したものではありますが、「ハフナー」の演奏の方が、シュヴァルツ/札響ペアのモーツァルトの見事さをはっきり伝えてくれる気がします。

残念ながら、これ以上どう表現していいのか、言葉が見つかりません。

最近は古楽風潮に乗ったモーツァルト演奏の方が内外で多く流通しており、日本にも先に聴いた飯森/山響の他に井上道義/OEKの優れた演奏がありますけれど、そちらが一般化して来ると、ロマンスタイルとでも言うべき20世紀のモーツァルト演奏もなつかしくなります。
日本のオーケストラ演奏の歴史を辿って聴くことに興味がある人は、この録音を漏らさず聴いてほしいと思います。

ああ、おいらも生意気なアマチュアやってたなぁ。。。

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