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2015年11月23日 (月)

飯守泰次郎・都響「ワーグナーの森へ」【日本のオーケストラのCDを聞く】

Cd_f9203_wagor 家内死後9年、まだまだ完全に手離れとは行きませんが子供たちも成人にいたり、ここ二、三年で、主に信頼する友の好意で、プロオーケストラの演奏会を聴きに行く機会も少しずつ出来るようになりました。

行けずにいる間、日本のプロオーケストラは長足の進歩を遂げた、と、強く感じる幸せを、都度味わいます。

これは、日本のオーケストラの最近の録音を、もっと聞かなければいけないな、と思いました。
その聴体験のなかで、何が進歩したのかをしっかり聞き取りたいのです。

別の縁で、過日、新国立劇場で、飯守泰次郎さん指揮東京フィルハーモニー管弦楽の『ラインの黄金』を観劇し、大満足で帰りました。
このペアでのヴァーグナーをCDで聴けないかな、と探したら、オーケストラは違うのですが、飯守泰次郎さん指揮東京都交響楽団のものが2つあるのを知りました。
ひとつが、そのものずばり『楽劇「ニーベルングの指環」ハイライト』(fontec FOCD9274 2005年4月22日のライヴ)だったのですけれど、むしろその1年前にやはりライヴで収録された『ワーグナーの森へ』にいっそう驚きと感銘を覚えましたので、そちらのことを少し申し上げます。

この『ワーグナーの森へ』、最初の収録曲である「タンホイザー」序曲からして、もう強烈なインパクトを持つ演奏でした。

ご存知の通り、この序曲では最初と最後の「巡礼の合唱」旋律の背後をヴァイオリンが細かく短いリズムの反復で飾ります。それが
・拍の頭にしっかり揃っている
とか
・旋律とのタイミングがきっちり合っている
とかいう演奏は、録音に限っても、なかなかありません。このこともご承知の通りかと思います。
まず「へぇえ!」と思ったのは、この二つともしっかりクリアされていたことでした。
けれども、それだけなら驚くには足りません。
拍やタイミングがきっちりそろうことだけに腐心した演奏は、往々にしてただ不器用に重く、音楽の流れがせき止められがちです。
ほんとうに驚嘆に値したのは、飯守ー都響の「タンホイザー」序曲が、「きっちり揃いながら、否、揃っているからこそ、威厳のある響きを築き上げている」ところにあるのでした。

あらためて、ウィーンフィルの1960年代・70年代の録音2種を引っ張り出して比べて聴いてみました。

ゲオルク・ショルティと録音した1962年のものは、タイミングの揃いに対してはおおらかですが、幅が広く、華やかで色彩豊かな演奏です。当然、飯守ー都響のような「リズムとタイミングの正確さ」はありません。それが、楽譜の模様通りにピッタリ揃うことが必ずしも音楽を豊かにするものではないことを雄弁に証明してくれてもいます。
カール・ベームと録音した1979年のものは、最初の部分ではヴァイオリンがリズムの正確さをかなり意識しているのがよく分かります。そしてまた全体が、最初の部分は揃うことの律儀さを曲の大事な性格と考えているようで、ショルティとの録音に比べ、ディナミークの起伏に関わらず、静謐感のある序奏をかたちづくっています。ただし、中間の盛り上がりを経た後奏部は序奏部とキャラが異なり、こちらでは、揃うこと自体にはもう意味を求めていない演奏になっています。
二つの演奏とも好きなものだし、素晴らしいものだと思っていますが、曲を捉える上で「これを貫かなければならない」みたいな強烈さは持っていません。そのぶん、おおらかだと言えるかもしれません。

飯守ー都響の「タンホイザー」序曲では、リズム的な正確さ、タイミングの正確さ、が、徹頭徹尾貫かれています。それでいて、音楽が絶対にせき止められることがない、常にいきいきと流れている・・・だから、聴いているほうも、重さに足止めを食らうことは絶対にない。

面白いことに、この『ヴァーグナーの森へ』で都響の作り出している音色は、明るくツヤツヤしたものではないのです。これがまた、アルバムのヴァーグナー演奏を非常に個性的なものにする上で、たいへん大きな意味を持っていると思いました。言ってみれば、「渋い!」のであります。

とくにショルティーウィーン・フィル’62の演奏と比べたとき、飯守ー都響のヴァーグナー演奏は、こうした特徴から、際立った個性で光を放っています。

他の内外の演奏は、先のショルティかベームかの、おおむねどちらかの類型ではないかと思っていましたので、飯守ー都響は私の耳に、たいへん新鮮な驚きでした。
これは、例であげた「タンホイザー」序曲にとどまりません。

古典の演奏で、一つの規範と言うか記念碑的というか、そう呼ばれてしかるべき演奏が21世紀早々の日本でなされたこと、それがしっかり録音に留められ、感銘を与えてくれること、は、私たちの記憶にしっかり刻まれておくべきではないかと思っております。

・・・あ、言い落としていましたが、この演奏の音程の作り方も特筆すべきだと感じています。はじめて聴いたとき、記憶しているショルティーウィーンフィル盤の音程・和声感とピッタリだったので、これにも驚いてすぐ比較したのでしたが、記憶に誤りはありませんでした。こういうことは、意外にあまりないのです。

この次はまた別の、日本のオーケストラの妙技への驚きをお喋りしたいと思っております。

『ワーグナーの森へ』は、Amazonでは出てきませんでした。(;o;)
私はタワーレコードの店頭で現物を見つけたんでしたが、タワレコさんのサイトでも出てきません。(ToT)

HMVではこちら:http://qq2q.biz/poTX

飯守さんのディスコグラフィ:
http://www.taijiroiimori.com/04disc/discf.html

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