« 入手しやすいスコアのこと【楽譜の問題】モーツァルト「ハフナー交響曲」(1) | トップページ | スタッカートについて »

2014年2月23日 (日)

新旧印刷譜の相違点:【楽譜の問題】モーツァルト「ハフナー交響曲」(2)

0:前置き1:入手しやすいスコア2:新旧印刷譜の相違箇所3:20世紀の演奏から4:校訂者泣かせの自筆譜5:ブライトコップフ新版前書き(上)6:ブライトコップフ新版前書き(下)7:旧校訂系の楽譜成立への小さな推測  


(1)の後半では、いま日本(というか私の近所)で手に入りやすい印刷譜のリストを作りました。
そして「ハフナー交響曲」には旧校訂系・新校訂系の二つの系統がある、ということだけ述べました。
系統は、繰り返しになりますが、

(旧):旧校訂系=第1楽章が2分の2拍子(Cに縦線)、第4楽章が4分の4拍子(C)になっている
(新):新校訂系=第1楽章が4分の4拍子(C)、第4楽章が2分の2拍子(Cに縦線)になっている

で見分けることが出来ます。

では、もっと詳しく新旧の違いを見ていくとどんなことがあるか。

誰でも最初に気づくのは、
1:(旧)の強弱等の記号はイタリック体であること。(新)はブロック体である。
2:(旧)のスタカート記号は点1種類のみである。(新)は楔形記号も採用している。
3:(旧)では反復される音型の省略記譜が(新)に比べ圧倒的に目立つ。
あたりですね。
これは、ハイドン、ベートーヴェンも含め、二十世紀中葉に新校訂が行なわれた有名作曲家の、どの楽譜でも概ね当てはまる特徴なのではないかな、と感じています。
このへんは印刷楽譜に採用された記号の変遷史でも眺められたら楽しそうですが、私の力量ではおよびませんので、眺めません。(>_<)

さて、「ハフナー交響曲」の音符としては、(旧)と(新)ではどんな違いがあるでしょう?

すべてではありませんし、主にヴァイオリンばかりになってしまいましたが、図を切り出して並べてみました(すべての楽器に相違があるのですが、記譜のみの問題である場合が多く、煩雑になりますので、図での対比は行ないませんでした)。
図はネットから落とせる楽譜を用いて切り出しました。
(旧)はブライトコップフ&ヘルテル旧版(1880年)
(新)は新モーツァルト全集版(1970年)

以下、記述部分が面倒くさそうだったら、記述部分はとばして、図を見て「ふむ、なるほどそうなのか」と感心して下さい。


【記述ここから】
どの楽章にも共通して言えるのは、次のようなことでしょうか。ただし、まだ何故かをひとことも述べてきていないのですが、(新)がモーツァルトの自筆譜を主に参照して、(旧)で施されていた改変を正す方針で編まれている、との前提でモノを言います。

4:フレーズの捉え方が(旧)では小節をまたがない傾向が強い。(新)では連桁表記であるため一瞥では分からないが、フレーズが小節をまたいでいると捉えている箇所は(旧)より圧倒的に多い。
【下に掲載していく図では、第1楽章19小節、同48小節、第2楽章22小節がその具体例。】

5:(旧)では、(新)にスタカートがあるおなじ箇所で、スタカートがないところが多々ある。
【下に掲載していく図では、第1楽章19小節第1ヴァイオリン(上段)、同25小節以下第1ヴァイオリン、第2楽章25小節第1ヴァイオリン、同30小節第1ヴァイオリン、第4楽章62小節の音のあるすべての楽器(図は弦楽器のみを抽出)】

6:5に並行して、(旧)にはレガート化の傾向も見られる。
【下に掲載していく図では、第1楽章19小節、同33小節、同47小節】

7:(旧)には演奏・合奏上の面倒を回避する傾向があるように見受ける。
【下に掲載していく図では、第1楽章24〜26小節ファゴット(図では最上段)をバスと揃えている。第3楽章メヌエットの終結部(後述)。第4楽章63小節ヴィオラにfpを他パート同様に付けている。同223〜227小節の第1ヴァイオリンの装飾音省略(不思議なことにブライトコップフ&ヘルテル旧版でも1965年印刷の第1ヴァイオリンパート譜では装飾音が省かれていません)。】

モーツァルトによる自筆譜との兼ね合いもありますので、それを見てからでないときちんとしたことは言えません。が、4〜7も含め、(旧)にはモーツァルト自身の狙いたかったこととは別の、「時代の都合」とでもいうようなものが、校訂という名の改変のうえで支配的だったのではないかなぁ、と感じます。・・・そのあたりは後日もうちょっとゆっくり考えたいと思います。
【記述ここまで】


具体的に、各楽章の図を見て頂くことにします。図が見づらい時はクリックすると独立ウィンドウで開きますから、それでご覧になって下さい。

おのおの、図の前に簡単な説明を加えておきます。

(第1楽章第1図)
・19小節(1st Vn.):(旧)では冒頭の16分音符も以下の音符とスラーで一体化されている。(新)ではこの音が前フレーズの最終音でもあるため、スタカートを付してある。
・24〜26小節(Fg.):(旧)ではファゴットをバス(チェロとコントラバス)と同じにしている。(新)ではファゴットは24・25小節はバスを受けて3拍目から上行音型となり、26小節はレガートの二分音符。

2_1_1
(第1楽章第2図)
・33〜35小節:(新)ではスラーがない16分音符分散下行型に旧)では3つ単位でスラーがついている。また、35小節目は(新)ではバス第1音にfp表記は無く、第2音以下でpになる。
・47〜49小節:ヴァイオリンは47小節三拍目以降48小節第1音まで(新)ではスラーがつかない。(旧)は48小節は第1音から新フレーズと見なしているに等しいスラーの付けかたである。
・149〜151小節(Vns.):149、151小節第1音は(新)ではスラーのつかない音である。(旧)では次音符以降とスラーで一体化させている。
2_1_2

(第2楽章)
・2小節:1stVn.による主題、(旧)では最初は付点四分音符、続く三連符は16分音符(新)では最初は副付点四分音符、続く三連符は32分音符。
・13/15小節:Vn.、冒頭音符は(旧)では付点付き、(新)では付点なし。
・25小節(1stVn):2音目からのスタカート、(旧)では無、(新)では有。
・30小節(1stVn):5音目からのスタカート、(旧)では無、(新)では有。
2_2_1

(第3楽章)
・メヌエット終結部(24小節):バスは(旧)では繰り返した後も3拍全部を演奏する。(新)は繰り返し後はフェルマータのついた1拍目だけを演奏する。
2_3_1

(第4楽章)
・55小節:1stVn. 2ndVn.(次小節から)共、(旧)はp始まり、(新)はf始まりである。
・62小節:(旧)は管弦全パート、スタカートなし。(新)ではファゴット以外の管楽器と2ndVn.2拍目意以降にスタカートなし。(図には管楽器部分掲載せず。同様のことが206小節にある、ただし(新)では2ndVn.はこちらはスタカートがつく。)また、63小節ヴィオラには(新)はfpなし。
・226小節:228小節1拍目まで、1stVn.(旧)は前打音なし(新)は前打音あり
2_4_1

他に御存じの箇所、気づいた箇所で「ここは大事そうで面白い違いだ!」みたいなのがありましたら、なおご教示頂ければ幸いです。

この次は(旧)・(新)の音の例もわずかばかりお聴き頂ければいいなぁ、と思っております。

|

« 入手しやすいスコアのこと【楽譜の問題】モーツァルト「ハフナー交響曲」(1) | トップページ | スタッカートについて »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 新旧印刷譜の相違点:【楽譜の問題】モーツァルト「ハフナー交響曲」(2):

« 入手しやすいスコアのこと【楽譜の問題】モーツァルト「ハフナー交響曲」(1) | トップページ | スタッカートについて »