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2013年4月12日 (金)

旋律性のささやかな否定(プッチーニ「私の名はミミ」)

面倒が好きな私でも面倒なのは面倒なのでして、ブルックナー「ロマンティック」第2楽章以下はは先送りです。マニアックに眺めるのは楽しいのですけれど、割ける時間も必要ですね〜

 で、脇道です。


今、余興用にコンパクトにアレンジしたくてプッチーニのオペラをいくつか読んでいます。
で・・・もしかしたら前にも騒いだのかも知れませんが、やっぱりこれは面白いなぁ、と思うのが、『ボエーム』の中の「私の名はミミ(私はミミって呼ばれています)」です。

どこが面白いか。

この歌、オペラを離れて単独で歌われもするのですけれど、聴けば聴くほど、本物の「劇のセリフ」だなぁ、と感じ入ってしまうのです。

「はい、私はミミって呼ばれてます。でも本当の名前はルチアなの。」
と、戸惑いながらつつましやかに始める。
それが、だんだん興に乗って来る部分が、まずこれ(この歌が始まってから15小節目〜25小節目)です。

http://music-hongou.art.coocan.jp/audio/mimi1.mp3

ここでは、歌が音階に沿って滑らかに進んでいるのを確認しておいて頂ければと思います。
そして、いったん、自己紹介を聞いてくれている相手に
「おわかりになって?」
と確かめることで沈静化します。

最初と同じラインで、より詳しい自己紹介が歌い始められますが、ここでミミは聞き手を差し置いて夢見てしまって、ひとりで思いが昂っていきます。
こんなに自分だけで昂られるのを目の前にしたら、実際に
「あ、このコ魅力的」
と思って
「君のこと教えてよ」
と言い出したのがこっちでも、結局はどん引き(死語か)するだけでしょう。
けれどもそこはお芝居の中なのです。プッチーニ自身がそのことをよく分かって作曲していますし、作られた時期の人の感情の起伏も最近よりは激しかったようです。

夢想の昂りがいちどおさまりかけたときに、先ほどの興に乗り始めたときと基本は同じ旋律があらわれます(60〜71小節)

http://music-hongou.art.coocan.jp/audio/mimi2.mp3

ここが、たいへんに良く出来ています。

独立した歌、として聴いてしまうと、実はこの部分の最初の方が不自然なのが、お分かり頂けるでしょうか?
さっきは滑らかに上昇していた旋律線に、断絶があります。
歌詞で言うと、
"Foglia a foglia la spio!"

"Cosi gentil"
の間です。
休符を挿んで2度(C#-D ミ〜ファ)であるべきところを、3度( C#-E ミ〜ソ)跳躍しています。
長音階で言えばたかだか3度なのですが、されど大変に大きな3度で、ここから語られる思いの切なさを強くアピールするのです。

音楽音楽していながら、旋律的な自然さを破って、歌を「語り」化している凄さがある箇所だと思います。

でもって、心のヴェールを大きく開いてみせていながら、最後は慎ましく(レシタティーヴォとして)終える。もはや古典的なオペラアリアではありません。

ですので、
「う〜ん、これはアレンジして単独に歌うようにしてしまっては、なれない伴奏の人たちが苦労するだけだなぁ」
と、ちょっと諦めさせられてしまったのでした。

上の歌の抜粋はレナータ・テバルディの歌唱でしたが、歌詞を理解しながら聴けるYouTubeのマリア・カラスの歌を埋め込んでおきますので、全体を楽しんで頂けましたら幸いです。


*旋律性の否定が調性音楽の中で現れたのは20世紀的現象なのかも知れません。前衛と呼ばれた作品群では大きく否定されるのですけれど、十二音技法は技法そのものが旋法を指向していましたので、旋律的なのです。むしろ調性を守って作られた音楽のほうに旋律否定の片鱗が現れることは、偶然なのか必然なのか、興味が湧くところです。

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