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2013年4月 4日 (木)

優しい方がお好き?【第1楽章】ブルックナー第4(2)

(1)(2)


初稿の第1稿と、実質的な決定稿である第2稿ブルックナー「ロマンティック」(交響曲第1番)第1楽章を見て行きましょう。

全体を俯瞰した時に、第2稿は全部の楽章が「4の倍数」の小節数プラスマイナス1の小節数であることに触れました。

第1楽章の各セクションの練習番号(記号)は第1稿と第2稿が概ねきちんと対比出来ますので、それを表にしたものを載せておきます。
これによって細かく見るならば、
・4小節フレーズのセクションが圧倒的に多い
・第2稿が結果として4で割り切れる小節数になった理由は、余りが2となるセクション(ピンクに塗ったセクション)が8つで計16小節を形作るところに求められる
と知れます。

表を掲げる前に聞いて頂きたいのが、次の音声です。
第1稿における、第1楽章の、とある部分です。どこだか、ピンと来ますか?
唯一のヒントは、終わりの方にあります。答えは後ほど。
音声の典拠は前回の全体俯瞰のときと同じですので、表記しません。

http://music-hongou.art.coocan.jp/audio/Br4/Br4-1-1-NtoO.mp3

全体の構成小節数対比表を掲げます。クリックで拡大します。

Br4_1_all

この表を見ての通り、第1稿・第2稿とも、同じ骨組みのソナタ形式で出来ています。
ただ、全体のバランスが大きく変わっています。長さも、第2稿はほぼ9割に縮んでいます。

第1稿:呈示部190 展開部188 再現部252(3対3対4)
第2稿:呈示部216 展開部148 再現部209(3.5対3対3.5)

すなわち、第2稿は、各部分がほぼ同じ長さになるように整えられ、中でも展開部は規模を小さくしてあります。これはハイドンやモーツァルトのソナタ形式楽章の展開部の比率よりやや長く、ベートーヴェンの交響曲のソナタ形式楽章程度の比率なのではないかな、と思います。
第1稿は再現部が長く、聴いていると冗長な感じがまったく無いとは決して言えません。第2稿における構成比率の改善は、「聴き手に優しい」改変をしたものだとみなせるでしょう。

こんな具合で、現行の第1楽章は、「優しい方がお好き?」と私たちに問いかけているのですね。

細部の面白い特徴は、第2稿は終結部(S)を除く全てのセクションが偶数小節数(全22セクション)なのに対し、当初の第1稿は奇数小節数【オレンジ色に塗った部分】のセクションが4ヶ所もある点(全26セクション)で、ここには第1稿がブルックナーの「思いのまま」に近い形で仕上げられたことを読み取れるのではないかと思います。

また、展開部で3セクション削減、再現部では1セクション削減で2セクション統合を行なっていながら、第2稿は単純な「縮小版」ではないことは、数字では兆候を発見しにくいかも知れませんが、次のようなところで判明します。

・呈示部全体は第1稿より14%増しに拡大している
 (細かくは、冒頭部を除き、セクションB、Cのみ2小節ないし4小節縮小、他は全て数小節延長)
・展開部 I は第2稿では続くセクションを削減したが、削減部分を含め第1稿では2セクション40小節あったものを統合して全体で6小節削減したに過ぎない
・再現部第1稿T〜U合計36小節は、第2稿Qに32小節に統合・整理されたものである。
・同じく第1稿XYZ全66小節は第2稿S全41小節に整理されているが、これは全くの書き直しとみなせる。

統合・整理を行なった部分がいかに分かりやすくなったか、を音の例で上げたいところですが、統合に伴い変成岩化していますので対比しても分かりにくいかも知れません。
あとでとられた改変方法が比較的よく分かる、第1稿Lの部分を、代わりにお聴き下さい。

http://music-hongou.art.coocan.jp/audio/Br4/Br4-1-1-L.mp3

これが、第2稿では、まるまるKの部分となります。数としては6小節減っているのが表で分かりますけれど、この削減は、この箇所でヴィオラに置かれた極めて平明な対旋律が、第2稿で断然メロディらしいものに改善された結果であることが明確に理解出来ます。(それに伴い後続部のファンファーレ的なコラールもディナミーク等に改造が加えられています。)

http://music-hongou.art.coocan.jp/audio/Br4/Br4-1-2-K.mp3

第2稿になるとまるきり削られるのが、展開部のN・Oのセクションです。
ブルックナーがなぜ削ろうと考えたのか、は、この部分の音声を聴けば推測が可能です。
すなわち、最初に上げた音声は、この第1稿N・Oのセクションである、というのが正解なのです。
突然「ロマンチック」に動きが入り乱れ、第1稿ではこの部分だけが浮いて聞こえます。
・・・とはいえ、捨てたのがあまりにもったいない、面白い響きがするとは思いませんか?
   ずいぶん絵画的だなぁ、と、私などは印象づけられています。

第2稿が1差し引くと4で割り切れる小節数になるることについて、少し付言しておきます。
セクションの記号は第2稿のものです。
・1小節の余分は終結部の最後に付け足された1小節によります。
・2小節余分のセクションの内、冒頭部は序奏として2小節付加されたもの(第1稿も同じ、ただし第2稿では再現部では前奏2小節を置かない)、他もNを除き基本4小節フレーズを次のセクションへのつなぎなどで2小節延長したもの(2小節に圧縮した別フレーズではない)になっています。
・Nの2小節余分だけは例外で、これはNの冒頭部が3小節フレーズを2回繰り返しているため、結果として最初に6小節付加されているせいです。

以上、ご精査の上、不備誤り等お気付きの際は、いつも通りですが、なにとぞご助言ご指摘乞い願い奉ります。

本来はこれも見ておきたいオーケストレーション面には触れませんでしたが、第1稿のほうが、別の動きをするもの同士の重なり合いが圧倒的に多く、その結果、響きが華やかになっている点を述べるにとどめます。これは他の楽章についても言えます。よりヴァーグナーに近い音色がします。第1楽章の場合は、「ローエングリン」・「マイスタージンガー」色が強いように思います。これらは、第2稿では消えてしまいますけれど、同時にいまの私たちがブルックナー的だと感じるものへと整ってもいるので、一長一短でしょうね。

なお、第2稿の第1楽章最後にある有名なホルンのユニゾンは、第1稿にはありません。

なお、スコアは、第1稿は全集版とオイレンブルク版が入手可能で、私は安い方のオイレンブルク版を参照しています。校訂者はノーヴァク(旧訳ではノヴァーク)です。第2稿も、安い音楽之友社版(ノーヴァク校訂)です。Doverからペーパーバック大型判のハース版が出ていますが、素人目にとっては目立つ差異がなく、使うメリットを感じませんでした。(ノーヴァク版の方がより新しい発見成果を反映している、との前書をいちおう信用しておきますし、おそらくオーケストレーションの問題以外では特徴的な差はまったく無いものと推測します。)

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