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2013年3月28日 (木)

ロマンチックを止めたのね・・・ブルックナー第4(1)

(1)(2)


さて、西洋クラシックに戻ります。(;^_^A

自分たちのアマチュアオーケストラが今度ブルックナーの交響曲第4番(ロマンティック)をやりますので、そのネタです。

「ロマンティック」はブルックナーの交響曲の中でいちばん知られていますのに、いま読めるクラシックの国内書籍でブルックナーのトピックをたてるときには、いちばん採り上げられることが少ないという、不思議な運命の作品でもあります。

4109022126 もし採り上げられにくい理由があるのだとしたら、それはなんでしょう?
他の交響曲に比べて、古典的に非常に均整がとれていて、クラシックマニアな人たちには奥を覗き見たいと思わされる魅力に欠けるからなのかも知れません。
第1楽章572小節、第2楽章247小節、第3楽章主部259小節トリオ54小節、第4楽章541小節・・・実は、第1楽章はそのまま、第2、第3楽章主部は1を足し、第4楽章は1を引けば、すべて4で割り切れる小節数になります。おのおのの楽章を聴けばいっそうはっきりしますが、どの楽章も、4小節1フレーズを基本に作られています。(*1)
古典派とされるハイドンでもモーツァルトでも、ここまで執拗に4小節1フレーズ主義ではなく、奇数小節で区切る例が少なからずあるものの、音楽の根元が4小節1フレーズではありましたので、ブルックナーにおいても、第4番は古典的である、と言って差し支えがないでしょう。

・・・ですが、これはあくまで、いま専ら演奏される第2稿での話です。

今年偶然に、教えて下さる人があって、YouTubeにある第1稿の演奏というのを聴いて、あたしゃヒックリけぇってしまったのでした。
第1稿は、ちょっと違うのです。
小節数こそ、第1楽章と第3楽章以外は、むしろきれいに4で割り切れます(第1楽章630小節、第3楽章主部362小節。4では割り切れません。以下は割り切れます。第2楽章244小節、第3楽章トリオ132小節、第4楽章616小節)。これが何を隠そう、かえって怪しいのでありまして、第2楽章、第3楽章は、余韻部分のために1小節付け足して理解するのが自然なのではないかと思っておりますが・・・まぁ異論もあるかも知れませんから強くは言わないでおきます。第2楽章以下は4小節1フレーズであることは否定しません。
でも、第2楽章以下でも聴いてビックリなのは、第1稿でブルックナーが「ロマンティック」に与えた色合いは、第2稿に比べてずっと多彩で華やかな点です。
第3楽章は、第2稿ではすっかり書き換えられたために、譜づらを眺めたり軽く聞き流したりする限りでは、第1稿のものはまったく違う音楽です。・・・これは後日、第3楽章に突っ込んでみるとき改めて観察しましょう。
第2楽章、第4楽章も、第1稿と第2稿では、似て非なるものになっています。とくに、第4楽章が、いま普通に演奏されるものよりも明るいもの悲しさで満たされていることには、耳になさったらきっと仰天されるに違いありません。・・・これも後日の楽しみにしましょう。

第1楽章の相違は、双方を比較する上で、もっとも分かりやすいものです。
ためしに最初の部分を聴いてみて下さい。

第2稿・・・普通に演奏され、私たちも演奏するもの。
http://music-hongou.art.coocan.jp/audio/Br4/Br4-1-1-2ndEd.mp3
(ハインツ・レグナー/ベルリン放送交響楽団 ETERNA 1983年)

第1稿
http://music-hongou.art.coocan.jp/audio/Br4/Br4-1-1-1stEd.mp3
(ケント・ナガノ/バイエルン国立管弦楽団 SONY SICC10078 2008年)

第2稿に比べ、第1稿には次のような特徴があるのが、耳でも充分判別出来ます。

・冒頭からの光の広がるような響きの演出が、第1稿の方が早く明るさを増し、多色刷りになる。

・全体が出揃ってから(力強い響きが続くようになってから)、管楽器と弦楽器が、第1稿では運動が入り組んだものになっていて、第2稿では整理されて同じ動きにされている。

・第1稿は奇数小節数のフレーズがある。第2稿では同じものを2回繰り返して偶数小節数のフレーズに整えている。・・・数えなくても、安定した感じに聞こえることで分かります。

つまり、「ロマンティック」というタイトルは、第1稿の方がよりふさわしい。
第2稿は、「ロマンティック」であることを止めてしまったようにさえ感じられます。

「ロマンティック」という標題はブルックナー自らが付けたものです。
第1稿は、全体に、この「ロマンティック」というタイトルにふさわしい叙情が溢れています。末尾にYouTubeのリンクを貼っておきます(*2)ので、今後だらだらと記事を連ねていくのには耐えかねもし待ちかねもするようでしたら、どうぞお聴き下さい。管楽器と弦楽器が、不安定なほどに異なった動きで重なりあいます。
それが、現在私たちがごくあたりまえに聴く「ロマンティック」では、同じ動きになるように整理されています。どこがロマンティックなんだ、と思うくらい、それは無骨でもあります。第1稿を聴いて初めて、彼がなぜこの作品を「ロマンティック」と呼びたかったか、やっと分かるようになっています。第1稿を聴くことに縁がなければ、永遠に分からないのでもあります。

ブルックナーは、なぜ「ロマンチック」を止めてしまったのでしょう?

「ロマンティック」が最初に完成したのは、1874年です。
出来上がって、このときの第1稿で演奏されるかも知れない話もありました。ですが、それはうやむやになってしまいます。試演はなされたようですが、ブルックナー自身は聴いていなかったかも知れません(根岸一美「ブルックナー」73頁参照、作曲家○人と作品シリーズ 音楽之友社 2006年)。
現在一般に演奏される第2稿は、四年後の1878年暮れに基本的な改訂作業が終えられたものです。初演はさらに約14ヶ月後の1781年2月で、この間にも初演の半年前までブルックナーが手を加え続けたことが明らかになっています。この初演は、聴衆が退場して行く悲惨さに見舞われた第3初演とは違い、楽章ごとにお客の喝采を受ける大成功のものでした。
「ロマンチック」を止めてまでも、ブルックナーは、この喝采のために執念を燃やし続けたとは受け止められないでしょうか?
1878年10月の手紙に、彼は
「どの曲も外国で演奏されるようになるまで・・・」
彼の地元のウィーンでの演奏は願い出るつもりがない意図を語ったとのことです(前掲85頁)。ウィーンでは先に第3交響曲で痛い目にあわされています。ウィーン移住前、既にミサ曲などでドイツでは小さくない成功を収めた経験のあるブルックナー(彼自身は生粋のオーストリア人)には、これは、外来の名声には右習えするウィーンの聴衆の弱みを突いた精一杯の戦略だったのでしょう。しかし、結局ドイツでの初演は実現せず、その間にも改訂作業は進み、年月が「ロマンティック」をどんどん「クラシカル」に変えて行き、結局は第4交響曲はそのかたちで人々に記憶されることになったのでした。
このあたりの精神史を覗くのも興味深く思われますけれど、充分な材料がありません。書簡集でも当たれれば面白いのでしょうけれど、手を出すと際限もなくなります。
次回以降、なるべく楽譜と音響に即して「彼は何を止めたのか」を見て行きたいと思います。

「ロマンティック」のふたつの稿は、練習番号(アルファベット)のつけられかたが揃っていますので、すっかり作り替えられた第3楽章までをも含み、全体の骨組み自体は大きくは変えられていないのが、すぐ理解出来るようになっています。そのことは、次回、第1楽章をやや細かく見て理解して頂こうと思います。
その、そんなに異ならない骨組みの上に付けられた肉がどれだけ違った色合いか、あるいは、骨の硬さにどれだけの違いがあるか、は、冒頭部分だけでも察しがつくのではないでしょうか。それは他の楽章でも同様です。
そういうあたりから見て行きたいと、いまのところは考えております。


第3交響曲については、以前、3つある稿の差異を眺めてみたことがあります。
その際、彼の各交響曲の改訂履歴に付いても触れました。
ご興味がおありでしたら、そちらもご一瞥下さいね。
ただし今度はこのころとは目のつけかたを変えたいと思っております。

(1)・(2) 入口だけなのでリンクしません。
(3)http://ken-hongou.cocolog-nifty.com/blog/2006/06/post_9ec9.html
   (各交響曲の改訂履歴)
(4)http://ken-hongou.cocolog-nifty.com/blog/2006/06/post_1d51.html
   (比較素材について)
(5)http://ken-hongou.cocolog-nifty.com/blog/2006/06/post_b551.html
   (規模比較)
(6)http://ken-hongou.cocolog-nifty.com/blog/2006/06/post_f257.html
   (長短比較)
(7)http://ken-hongou.cocolog-nifty.com/blog/2006/06/post_c435.html
   (簡単なまとめ)


*1:もちろん、第1楽章冒頭、第3楽章トリオ冒頭、第4楽章冒頭にみられるように、微妙に調整部分はあります。第3楽章トリオは単純な作りなので、初めの2小節が前奏としての付け足しであることがいっそうきわだち、その2小節を差し引いてフレーズを理解して良いことがはっきり分かります・・・すると4小節1フレーズになります。

*2:https://www.youtube.com/watch?v=YLtCeOwsaXQ 

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