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2013年2月11日 (月)

化粧のあとさき(ストラヴィンスキー)(たのくらしっく8)

1)落語で聴く「ピーターと狼」 2)クリスマスのおとうちゃん(シュッツ) 
3)コップも鳴らしたモーツァルト  4)まずは何でもやってみよう(山田耕筰)
5)いたりや〜ん・ばっは 6)あれんじあるんぞ(グリーク/モーツァルト/ヘンデル)
7)挽肉ロマン、ロッシーニ


Pulcinellaん十年ぶりに中学時代の同窓会なんぞに行ったりしますと、女性はトクですね。

野郎共は、頭が見るカゲもなく一点の曇りもなく輝いていて、あんまりまぶしいので
「おめぇが誰だか、良く見えねぇ」
なんて始末になったりします。
でも、女性ってのは、歳を重ねれば重ねるほど、美しさが増したりするんですよね。
なんせ、化粧という武器があたりまえに使える。
「う、こんなにまぶしい美人、おいらの同級生にいたっけ?」
まぶしくても、女性はよく目に入るんですねこれが。
「なに言ってんのよ、あたしよ〜」
「え〜? うそ! お前、15でもうあんなババア顔だったのに!」
「大バカやろう、蹴っ飛ばすぞ!」
「いてぇ!」
なんて不躾も、いまのご時世では、かつての同級生だったから出来るんではあります。
まあしかし、普段スッピンの、年期の入った古女房なんかが分厚く白粉(なんて言い方自体が化石ですかね)を塗ったくって、真っ赤な口紅なんかして
「今日、同窓会なの、うふふ〜」
なんて出掛けて行こうとしているのを見た日にゃあ、背筋がどっと寒くなるもんです・・・って、あたくしのカカアは鬼籍に入りましたので、こんなことを言ったらこっちが地獄に行ったとき金棒で殴り倒されます。
いや、あんたは化粧しなくてもきれいだった。おいら好みだったんだよ。

なんてね。

すっぴんどころか、ずっと忘れられていた音楽に、最先端のお化粧を施すのが、20世紀以降のひとつの流行だったかな、と感じております。
イタリアの場合ですと、レスピーギという人は、詠み人知らずみたいなリュート曲をオーケストラで鮮やかに彩りましたし(「リュートのための古代舞曲とアリア」第1〜第3組曲、その他「鳥」など)、そうしたやりかたをさらに歪めて、とちゅうからドロドロに溶かしてみせるなんていうやりかたをベリオという人がやってみせたりしていて((シューベルトの未完の交響曲稿による)「オーケストラのためのレンダリング」他、多数)、化粧も極端になって来ると、もう、「東海道四谷怪談」の世界になってくるんですね。
もう、最先端のお化粧のなにがきれいなんだか、は、女心がわかんない無粋なおっさんには、理解しきれませんね。面白いからいいんだけどさぁ、って、開き直るしかありません。

ロシア、と言っていいのか、フランスと言うべきなのか、でも素材はイタリアに取って、「ふつうに奇麗」と「これってどうなの?」の境目のお化粧を施して見せてくれたのが、ストラヴィンスキーというおじさんでした。
「プルチネルラ」という、バレエ音楽です。「プルチネルラ」は、イタリアの伝承に良く出て来る道化師です(って、私はその伝承はパスタにまつわるものの他には知りません)。

この音楽、美しい「スタバート・マーテル」以外はほとんど忘れられていた天才、ペルゴレージ(1710〜1736)の作品だと信じられていたものを、ストラヴィンスキーなりに色付けし直したのでした。

たとえば第1曲の元ネタはこんな感じ。
http://music-hongou.art.coocan.jp/audio/Sonata1-1.mp3
Parnassi musici  (SWR 999 717-2 1999年録音)

ストラヴィンスキーがお化粧した後は、こんな具合。(ピッチの違いはご容赦下さい。)
http://music-hongou.art.coocan.jp/audio/Stravinsky-PulcinellaSuite1.mp3
ストラヴィンスキー指揮コロムビア交響楽団(CBSソニー)

楽譜を当たってみると、元ネタの素顔にはほとんど手を加えていないことが分かります。
ちょこっと広めな眉(リズム)の間隔をペンで描いて埋めてみたりして、新しいバランスを作ったのです。あるいは、古風で整った顔立ち(和声)に、キツめのアイラインを引いたりしているのです。
どっちがお好みか、は、聴き手の趣味によるのでしょう。

さて、ところが、いまでは、この第1曲を含め、元ネタの半分以上はペルゴレージの作品ではないことが分かっています。
結果的に、ペルゴレージなんかよりもっと忘れられかたが甚だしかった「隠れた美人」に光を当てることになりました。

組曲版で挙げておきますと、こんな感じです。

第1曲:ドメニコ・ガッロ:トリオソナタ第1番第1楽章
第2曲:ペルゴレージ:「イル・フラミニオ」第1幕第1場のアリア
第3曲:ガッロ:トリオソナタ第2番第1楽章
    〜ペルゴレージ:「イル・フラミニオ」第3幕第10場のカンツォーナ
    〜ガッロ:トリオソナタ第2番第3楽章
    ~ペルゴレージ:「妹に恋した兄」第1幕第17場のアリア
    〜ガッロ〜トリオソナタ第8番第1楽章
第4曲:ヴァン・ヴァッセネア:コンチェルト第6番第4楽章
第5曲:モンツァ:「クラヴサンのための当世風小品集」から
第6曲:同上
第7曲:ペルゴレージ:チェロとバスのためのシンフォニア
第8曲:ペルゴレージ:「妹に恋した兄」第1幕第2場
終曲:ガッロ:トリオソナタ第12番第3楽章
(典拠:"Stravinsky's Pulcinella  A Facsimile of the Sources and Sketches" edited by Maureen A. Carr, A-R Editions,Inc 2010)
・・・なお、第3曲はぜひ、ストラヴィンスキー自身の指揮による演奏をお聴き下さい。チェロのフラジオレットのピチカートでどんな効果が欲しかったのは、その録音以外ではおざなりにされています(技術的にむずかしいからではありますが、ちょっと残念に思っております。)

・・・全曲が演奏される時には、イタリア古典歌曲として有名な"Se tu m'ami"も入っていますが、これもペルゴレージの手になる歌ではありません。

ほとんどが、ガッロという人のトリオソナタだったわけですが、これは楽譜の出版自体が18世紀後半(1780年代)にロンドンでペルゴレージの名を冠してなされたことに由来しているそうです。これらのトリオソナタの真の作曲家だと判明したガッロという人については、残念ながら、1730年にヴェニスで生まれたヴァイオリン奏者だったという以外、ほとんど伝記的なことがわかっていません。彼の作品はいくつか、ちゃんと彼の名前で、ロンドンやパリで1750年代から60年代にかけて出版されていたそうです。

なお、バレエ音楽「プルチネルラ」はロシアバレエ団のために書かれた音楽で、初演時の舞台美術は、かのパブロ・ピカソが担当していました。

・・・そろそろ、同窓会、やらんかなぁ。。。

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コメント

ken hongou様
はじめておじゃまいたします。よろしくお願いします。

「プルチネッラ」の原曲は何だろうと思っていましたが、大変参考になりました。
それにしても、ガッロというひとは音楽史にはまったく出てこないのに、こんないい曲を作っているのですね。他にもいい音楽を書きながら、それが残らないで消えてしまった作曲家がいるにちがいない、と考えると惜しい気がします。

「プルチネッラ」のバレエを一度見たいと思っていますが、なかなか取り上げて公演してくれる団体がないのは残念です。
ストラヴィンスキー自身がヴァイオリンとピアノ用に編曲したという「イタリア組曲」で聴くのも悪くないですが。

投稿: koh da saitama | 2013年2月11日 (月) 13時45分

koh da saitama様

気づくのがおそくなりました!
深くお詫びもうしあげます。

本当にありがとうございます。

素敵なかくれた作曲家さん、まだまだいらっしゃるでしょうね。
楽しい情報があったら、ぜひ教えて下さいね!

取り急ぎ御礼まで。

投稿: ken | 2013年2月12日 (火) 09時34分

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