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2012年5月 1日 (火)

「ダニエルの物語」Ludus Danielis 〜ヨーロッパ中世の代表的典礼劇

伝統が生きている、とは言っても、実は日本の能や歌舞伎にしても、江戸時代〜明治時代になって定式化したもの、あるいは新たに開拓された方法で演じられているのでして、「古来のまま」と考えてはいけないのでしょう。まずそれがいつ整ったものか、を見据え、そこに現代にも受け入れられる何ものかが大変な工夫で採り入れられているところを感得しないと、つい理屈先行でものごとを享受しがちになってしまうかもしれません。自戒すべきことなのだろう、と、最近感じるようになって来ました。

西ヨーロッパの音楽劇は、台本や、リズムのパターンがはっきりしない楽譜で残っていて、復元の方針によって、だいぶ趣が違うように思います。

「ダニエル物語」は聖書に題材を求めた「典礼劇」の最も有名な(、かつ私はこれしか見聞きしたことがない)ものです。12世紀後半に北フランスのボーヴェで上演されたと伝えられるものだそうですが、現在は大英博物館に収められている1230年頃の写本を元に上演されます。
日本でもときどき演じられるようで、皆川達夫さん「中世・ルネサンスの音楽」(旧 講談社現代新書)に1970年の草分け的上演の話がちらっと出て来ます。
西ローマ帝国の滅亡以降、演劇の話はヨーロッパ中世史の啓蒙書にはほとんど現れず、この頃の典礼劇がどのようないきさつから生まれて来た由来は私には皆目見当がつきません。内容は以後のオペラにではなく、オラトリオに直結していくような気がしますけれど、それも定かには分かりません。

これを、通しで見ることの出来る映像がYouTubeにありますので、能書きはこれくらいにしてリンクしておきます。Ensemble PHOENIXのひとたちの、2008年の上演です。

Ensemble PHOENIX
http://www.phoenixearlymusic.com/site/

Ensemble PHONIXによる上演(2008年、YouTubeのリンク)~英語字幕付


連続再生
http://www.youtube.com/watch?playnext=1&index=0&feature=PlayList&v=MgkkWyVX3PM&list=PL8A7462173D5AC66F

音楽が、16世紀末にさかんになり始めるオペラとは違い、シンプルこの上ない作りになっているのが印象的です。「誰でも参加出来る」ためにそうしたのでしょうか? ただしテキストはラテン語ですから、教会に属する人、もしくはそこで教育を受けた人、すくなくともラテン語の初等教育を受けた層が享受したものではあったでしょう。
音楽の中に、カルミナ・ブラーナに収録されているので有名な「バッコスよ、ようこそ」(CB200)その他のメロディが聴かれるのが、オリジナルの譜面に由来するのかどうかは、知りません。違うのではないか、と怪しんでおります。Ensemble PHONIXは、劇の最後を「バッコスよ、ようこそ」のオリジナルで締めています。

tracks 1,2
http://www.youtube.com/watch?v=MgkkWyVX3PM&feature=relmfu

tracks 3,4
http://www.youtube.com/watch?v=SXgPf-vhzUY&feature=relmfu

track 5
http://www.youtube.com/watch?v=YC2jRESbfYs&feature=relmfu

track 6
http://www.youtube.com/watch?v=NGSvCZPLcjA&feature=relmfu

tracks 7,8
http://www.youtube.com/watch?v=ZDN4jZKoP3o&feature=relmfu

track 9
http://www.youtube.com/watch?v=fVMAelk0LVg&feature=relmfu

track 10
http://www.youtube.com/watch?v=kK75-rW3oKA&feature=relmfu

track 11
http://www.youtube.com/watch?v=3Wre0b2ZL1c&feature=relmfu

tracks 12,13
http://www.youtube.com/watch?v=FPVCLyiq9zg&feature=relmfu

tracks 14,15,16
http://www.youtube.com/watch?v=B9HLTiN_OU4&feature=relmfu

track 17
http://www.youtube.com/watch?v=fav5A21A9Ns&feature=relmfu

tracks 18,19
http://www.youtube.com/watch?v=i4dGpden2tQ&feature=relmfu

track 20
1) http://www.youtube.com/watch?v=G99S8iL6fpI&feature=relmfu
2) http://www.youtube.com/watch?v=Ezn8BYIOD58&feature=relmfu

track 21
http://www.youtube.com/watch?v=B6Xpm_b721s&feature=relmfu

私自身が初めて「ダニエルの物語」を通しで堪能したのは2004年に発売されたCDですが、これが今は手に入らないようです。mp3ファイルとしてAmazonからダウンロード出来るのは確認しております。
こちらは、中世の上演そのものではたぶんなかっただろう、5度音程での副声部進行があったり、楽器のかなりの多用もありますけれど、味わいという点では、上記リンクの映像よりも
「現代の人が楽しめる」
仕上がりになっているかと思います。

http://www.amazon.co.jp/dp/B0045D0FH6/

New Yorks Ensemble for Early Musicの人たちによるもので、上演自体は1986年だったようです。これは、劇の最後に「テ・デウム」を用いています。こちらのほうが正式なのでしょうね。

「ダニエルの物語」はキリストの誕生に結びつけられているのが冒頭部ではっきり分かる通り、クリスマスに演じられたものでした。のストーリーは、旧約聖書の「ダニエル書」第5章〜第6章と、第14章をもとに構成されています。まず、ダニエルがバビロンの王でユダヤ人を捕囚にしたネブカドネザル【ナブコドノゾル】にその夢解きの才によって重用された(創世記での、エジプト人に重用されたヨセフの話の反映があるのでしょうか?)ことを物語る1〜4章は省かれ、その子バルタザール【バルタッサル】が見舞われた事件・・・宴会中に突然正体不明の手が現れて壁に謎の文句を書いた・・・を解決し賛美され、直後に王はメド人ダリオに殺されてしまう場面を描く5、6章に沿って進みます。このダリオを、聖書上ではおそらく違う人物として扱われている(あるいは文脈の混乱で別人のように読めてしまう)ペルシャの王ダレイオス【ダリウス】と混同し、聖書上はその父キュロス【キロ】が周りに押し切られてやむを得ずダニエルを獅子の穴に落とした事件を述べる14章を、ダリウスがしたことにして物語をまとめています。実際に聖書でお読みになって頂ければ面白いでしょう。

なお、物語は史実とは異なっていることが判明しており、これは、ダニエル書がある意味では歴史を「叙事詩化」していることを物語るもの、と、私は理解しております。(ダリウスの混同と同工異曲ですが、バルタザルは実際にはネブカドネザルの子ではありませんでした。)

物語のキーポイントの箇所には必ず "Rex, in aeternum vive ! "(王よ、永遠【とわ】に生きよ!)とのラテン語句が歌われますので、それによって場面の区切りを知ることが出来ます。シンプルですが、劇を分かりやすくする良い工夫です。

劇の最初の方でバルタザルが悩む、謎の手が壁に描いた謎の文句は、「メネ・テケル・パルシン」ですが、これは中近東で用いられていた目方もしくは貨幣の単位に由来するものらしい、と研究で明らかになっているようです。これをダニエルは「数え、はかり、破る」と読んで謎解きをしたとのことです。(フェデリコ・バルバロ「講談社版 聖書」ダニエル書第5章の注釈)

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 けさ聴いた「ビバ ! 合唱」。なんでも中世の典礼劇「ダニエル物語」だそうで、前回の予告を耳にして以来、どんな作品なのか楽しみにしてました。  畏友の Ken さんのこのすばらしいブログ記事を見ていただいたほうが、はっきりいって手っ取り早いのですが ( 汗 ) 、案…... [続きを読む]

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