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2012年2月12日 (日)

「モーツァルト:ヴァイオリンソナタシリーズ」阿部千春さん大井浩明さん、最終回でした

久しぶりに、自分の好みに偏して3つの演奏会を立て続けに拝聴でき、それぞれにそれぞれなりの楽しい勉強をさせてもらって帰って来ました。
で、本当は、それをいったんひとまとめに振り返ってから個別の「収穫」を申し上げるつもりでした。

が、特に大井浩明さん絡みの演奏会は、現代音楽のほうはツイッタでいっぱい感想が入るのですけれど、古典系のほうは(東京の聴衆の特性なのか)たぶん来られる方もそんなにネット人間じゃなかったりして、なおかつ基本的に現代音楽系とお客さんがダブりませんから、この演奏会については先になにか言っとくべきかと思いますので、拙い文を綴ります。ただ、ちょっと、いや、だいぶ偏った中身になりますので、もっと素直なところはまた別途にしなければならないかとも思っております。予めお許し下さい。

モーツァルトのヴァイオリンソナタ全曲演奏は、なんでも全曲やっちゃう大井さんのシリーズの中では珍しく4年間で3回分割、という長期サイクルでなされたものでしたが、それはヴァイオリンを担当した阿部千春さんがドイツ在住で古楽の名門コンチェルトケルンの重要メンバーでもあり、そのスケジュールと、そうでなくても忙しい大井さんのスケジュールが合うところで地道に取り組まれてきたイベントだったからです。

3回目で最終回の今回はモーツァルトの円熟した後期の傑作が演奏されるというので、会場の新宿区:淀橋教会は補助席も出る盛況だったことを、まず報告しなければなりません。
モーツァルトのヴァイオリンソナタは青春期のマンハイムやパリでのものはよく聴かれるのですが、後期のものはなかなか耳に入るチャンスがありません。でも、モーツァルトをこよなく愛する人達にとっては、ヴァイオリン曲としては最も密度の濃い作品群で、アルフレート・アインシュタインも有名な著作『モーツァルト その人間と作品』(浅野真男訳書は2006年第三刷、白水社 352-355頁)で絶賛しています。(余計なことですが、私の好きな録音は、大井さんの恩師ブルーノ・カニーノがサルヴァトーレ・アッカルドと共演したものです。従来型の演奏ではあるのですけれど。)
それを「古楽」の響きで聴けるチャンスとなるとさらに希少なわけで、演奏はこの二人の組み合わせで過去2回聴かせてもらっていたものからまたいっそう充実した響きに広がってきていて、いらしたお客様たちが大満足で帰った様子を拝見できたことは、それを傍観していた私にとっても大変幸せなことでした。初めてこの響きで聴いたかたは、古楽用に調整されたヴァイオリンや、フォルテピアノという楽器が、ライヴだと思いのほか豊かに響くことに驚いていました。フォルテピアノは素晴らしい製作家である大田垣至さんの手になる名器で、終演後まわりに人だかりが出来ていた上に、ご来臨の演奏家さんが「これ自分も弾いてみたいなぁ」と溜息をついていらしたりして、これがまた面白い見物でした。
最終回であるのが残念で、もう一巡やってもらえたらさらに幸せなんだけれどなぁ、とも思いましたが・・・それはお忙しいお二人のことを考えますと我がままな望みかも知れません。

日ごろはさほどの難曲も手掛けられないくらいの一アマチュアオーケストラで(あ、一緒にやってる人達ゴメンナサイ!)、
「う〜ん、こっから先は何調に転調しとるんや〜?」
と拙く悩み、転調をやっと読み取っても
「こんな電信柱の高い音、よう弾かん!」
と匙を投げてばっかりの低能力な第三ばよりん弾きの私には、ほんとうは何の生意気も言えないのです。
でも、お二人の演奏を拝聴していると、その<アンサンブル能力>が人並み優れているのはぜったいに間違いないと断言できるだけの最低限の耳は持っているつもりでおります。

アンサンブル、とは「合わせる」ことだから、人と人が対峙して行われるものだ、というのが普通の見方だとは思います。
が、人と人、とはなんであるか、をよくよく見つめた時には、それは「演奏者と演奏者」の関係だけではなくて、「作品(を書いた人)と演奏者」の関係の中にも生まれなければならないものだと考え直すべきではないか、と、最近強く思っています。
それは、じつは大井さんのソロコンサートに何度か伺わせて頂き、以前は自分にはまったく縁のなかった現代音楽作品に取り組むお姿を拝見しているうちに学ばされたことでした。ある意味ではまだ陳腐化していないだけに、新しい作品の演奏からは「この<音>とどう会話するのか?」をどう考えて音を響かせるか、が、著しく現れますし、そのあたりは私のようなズブの素人は一生懸命耳を傾けないと作品の楽しみ方が分かりませんから、ああそうなのか! と新鮮な印象を持ち得る点ではむしろ詳しい人たちよりよかったのかな、と、今になって<錯覚>にひたりきっております。
ジャンルの話は措きまして、とにかくまず鍵盤楽器の演奏自体は「自分ひとりでアンサンブルしてしまわなくちゃならない」典型で、そのくせふつうは有名ピアニストさんやチェンバリストさんでもなんだか「楽譜よりも、そこから受けたイメージ!」みたいな思い込みが強い演奏をいっぱいなさっています。以前から何度も綴りましたが、大井さんの弾くベートーヴェンを初めて録音で拝聴したとき、
「この人はそうではない」
と大変に驚いたものでした。
それから何年か経ち、そのころは全く存じ上げなかった大井さんの現代音楽での活躍も、「作品とアンサンブルする」根本姿勢が貫かれているのだから当然のことなのだ、と、すんなり感じられるようになりました。同時に、大井さんが現代物も古典やバロックも分け隔てなく高品質で仕上げられるのは、他でもない、作品とアンサンブルする訓練をご自身に常に課し、身につけていらしたからだ、と、今回あらためて確信した次第です。

いっぽう、阿部さんは普段は本場の古楽オーケストラや小編成のアンサンブルで、これもたいへんな訓練を重ねて、作品と対峙することを、どちらかというと集団の中で達成する方法についてしっかり身につけていらっしゃいました。彼女も文献や資料までをきちんと研究するひとで、ある時代の作品をどう演奏したらよいのか、となるとヨーロッパ現地の人たちでも彼女を頼りにするくらいですが、素晴らしいのは彼女はそれで博識を誇るわけでもなんでもなくて、ポイントを押えて実践に生かすという以外には、研究成果の開陳などでムダなときを過ごすなんて愚は一切犯さない点かと思っております。
モーツァルトやベートーヴェンの頃までの「ヴァイオリンソナタ」は「ヴァイオリンの助演付きクラヴィアソナタ」と称されていたくらいにクラヴィアに重点が置かれており、それでいてこれら古典派の作品になるとヴァイオリンに要求される技巧が格段に高まり、必然的に、演奏困難でありながらクラヴィアにしっかり寄り添わなければならない宿命を負うことになります。20世紀作品で音符がこんがらがっているようなものでも器用に弾ける人ですから、音を拾うという一般的に賞賛される類のソリスト的技術ではもともと何の問題もありません。大事なのはそこから先で、相手がこんな音のかたち・・・音楽での音は物理の実験の純音のように一定のかたちをいつまででも続けることは基本的にありません(それを使って意図的に創作する場合は例外であることを念のために付け加えて述べておきます)・・・、自分の外で自分と同時に音を出している人が、その音をどう発音し始め(子音のようにか、母音のようにか、その鋭さ柔らかさ)どの程度の長さ(持続時間)で、どの瞬間にどの程度量を増やしたり減らしたり(ディナミーク)、を瞬時に判断するトレーニングをきちんとしてきたこと、それを手の内にしていること、を演奏からはっきり知らせて下さいます。
ご自身に伺うと、フォルテピアノと1対1のアンサンブルは(彼女の普段のお仕事上そうなりがちではあるのだろうと推しはかられますけれど)まだまだ機会が不足だとのことで、この4年、(たぶん)厳しくてうるさ型の大井さんと一緒にやれたことは彼女にとって新たな大きい財産になったことだろうと嬉しく感じましたし、併せて、この3回にわたったシリーズ演奏の中で、会を重ねるごとに音響も充実して行くのを目撃できたことは、外野の私にとっても「いい冥土の土産」になりました・・・いや、まだまだ数十年は死にませんが、死の瞬間にはこの日の響きがきっと天井から再び降りそそいでくれるでしょう。

大井さんの安定度の高い姿勢での奏法、阿部さんの顎でヴァイオリンをはさまない奏法、という、演奏家としてのおおもとの訓練成果部分も充分に大向こうを唸らされるものなのですけれど、自分も楽器を奏でて行きたいと思いながらふたりの組み合わせでの演奏を堪能なさった方々には是非、このあたりを振り返って頂けるようでしたら、たいへんに有り難く存じます。

阿部さんの次の日本での演奏会は未定ですが、そう遠くない日に実現することを期待しております。

大井さんは幸いもうほとんど日本拠点で活動して下さっていますので、大井さんとしてはまたちょっと角度を変えたこんな企画があります。日が近くなったらまたご案内したいと思っております。

大井浩明「ピアノで弾くバッハ」シリーズなぜかシュトックハウゼン付き。
・4月21日(土)15時〜平均律クラヴィア曲集第1巻(全24曲)
・7月28日(土)15時〜平均律クラヴィア曲集第2巻(全24曲)
・11月3日(土)15時〜シュトックハウゼン「自然の持続時間(2006)」(全24曲)東京初演
(いずれもタカギクラヴィア松濤サロンにて。)
 問合せ先:株式会社オカムラ&カンパニー 03-6804-7490
      http://okamura-co.com

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