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2012年2月18日 (土)

独り言は音楽になるか?〜ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第16番(スメタナ四重奏団、1968年)

自分の再スタートは、独言的内容から始めてみましょう。
それで自分の気が済むだけの話ではあります。
独言をすると、同じことの繰り返しにしかならないんだけどな。
・・・まあ、次からは、それはしません。
・・・作品そのものの中に入っていこう(でいいのかな?)という趣旨にも反しますので。

ふりかえってみれば、
「音楽とは対話である・他者の中での自己鍛錬である」
ということを含め
「研究や創作や演ずるという行為はコミュニケーションである」
みたいな命題が絶対真だと信じて疑わずに生きてきたような気がします。

そんなフィルターを自分に被せて、フィルターをパスできればぬか喜びし、フィルターを通らないものがあれば怒ったり悲しんだりし、を無用に繰り返してきた気がします。

10代の半ばに
「ほんとうにそうでなければならないのか?」
を、すでに音楽作品でもって強烈に問いかけられていたことを、今頃になって思い出しました。

(音楽で言えば楽器という)手段も(音楽で言えば演奏技量という)能力もまったく持ち合わせなかった自分は、合奏の中、人数の多い管弦楽なら何とかなるか、と、子供の頃に図鑑で数を数えたらいちばん多かった「ばよりん」だったら素人でチャンスがあるかも知れないと浅知恵をはたらかせて、家庭の経済状況も許しませんし、音楽をすること自体に親も反対でしたので、それでも頼み込んで、月謝は払ってもらえないから・・・ほんとうは親心で出してもらっていたのを自分も親になってから知ったのですが・・・小6から新聞配達をして3年だけ「ばよりん」を教わって、アマチュアオーケストラに声をかけてもらったのを幸い、高1からはべったりとその世界の中に入って生きてきたのでした。実際には、新聞配達しても雨の日は新聞をぐちゃぐちゃに濡らしてしまってお客さんから苦情が入って配達員はクビ、セールスマンとして就職しても頭の中はいつも古典派ロマン派の名曲が鳴っていて仕事に身が入らず成績は鳴かず飛ばず、の失格人生でした。32でようやく結婚し、運良くも家内には幸せを実感させて貰い続けましたが、15年後の暮れに家内は心臓の病いで急死。もし二人の子供たちがいなかったら、ほんとうにそこで
<<<終わり>>>
だったことだろうと思います。
でも、これもふりかえれば、そこからが始まりだったんだ、と、最近つくづく思います。

子供たちと3人の生活になってから、自分は最初に掲げたような「絶対真?」と初めて正面から向き合わなければならなくなったのかもしれません。
出会う人・出会うことにヒステリックなまでの喜びや怒りや悲しみや反省の感情を、こんなにストレートに抱きながら生きてきたことが、ほんとうに以前の自分にはあったのだろうか、と考え込みます。

「ほんとうにそうでなければならないのか?」
の問いかけを受けてから、もう35年も経ってしまっていて、なにをいまさら、なのでありました。

「ばよりん」が好きで音楽を始めたわけではないので、伝記や言行録の中で

     くだらないヴァイオリンのことなんか考えていられるか!

と怒鳴ったというベートーヴェンが大好きでありました。
それで、10代のうちはとくに、ベートーヴェンの作品が聴ける、となると、地方都市である地元に来る演奏会は、安く聴けるものに限っては一生懸命出向いておりました。

弦楽四重奏曲となると、演奏は4人セットですから<独り言>ではありえません。
それでもベートーヴェンの弦楽四重奏曲の最後の作品である第16番は、とくに最終楽章は究極の独り言を題材に仕上げられたものとして有名で、
「そうか、人間の頭のなかってすごいのね。独り言を同時に4つまで言える」
と捉えて鼓膜に刻むことが出来ます。

その終楽章の冒頭には「歌詞」とでも呼ぶべきものがくっついていますね。

Muß es sein ? --- Must it be? (そうじゃなくちゃいけないの?)

というやつです。

どんどん巨大で長大な作品を連発創作していて、弦楽四重奏曲でも同様だったベートーヴェンは、彼の最後の完成品になったこの第16番では、小規模な、まるでハイドンやモーツァルトにまで戻ったような古典的な枠組みでの彫琢に回帰しています。
高校生の頃だったかな、スメタナカルテットだったかな、実演ではそれで初めて聴いたこの作品は、例の Muß es sein ? で始まる終楽章が、もったいぶったしかめっつらから、さっさと純朴なはしゃぎに乗り移ってしまい、それがまた「でも財布がカラッポなんだ!」と頭をかきむしったりして「まぁなんとかなるさ」に戻って行くプロセスが滑稽で、すぐに気に入ってしまいましたが、まだ安いレコード(LPでした)で聴き直すことは出来ず、当時まだけっこう安かった(150円くらいじゃなかったのかしら?)全音のスコアを買ってきて眺めていたのでした。
期待に反して、尊敬していた諸井三郎さんの解説の文言は、ベートーヴェンを熱狂的に好きだったと思われるこの人の言葉としては冷たいものでした。

「1826年、すなわちベートーヴェンの死の前年に書かれたこのヘ長調四重奏曲は、かれの最後の作品であり、そこには何となく生命の衰えにも似たものが感じられる。少なくとも活気と豊かな楽想にみちたこれ以前の作品と比較する時は、それらのちょうど影(・・・陰、の誤りでしょう)にあたるようである。」

「陰」に当たるものが、なんでこれだけあっけらかんとしたシンプルな音になっているのか、は、それを読んだとき、ちら、と抱いた疑問でしたが、以後、長年それを忘れておりました。

作品の規模は、
第1楽章:193小節(ソナタ形式、ですけれど三部形式の延長みたいなもんです)
第2楽章:272小節(スケルツォなので、実質4小節かたまりとすると68小節分にしかなりません)
第3楽章:54小節(遅いテンポなのでこれでも演奏に7、8分かかります)
第4楽章:277小節(冒頭を諸井三郎さんは「重いグラーベ」と表現していますが・・・重いのだろうか?)
で、ほとんどモーツァルトのスケールです。

終楽章に Muß es sein ? があって、それをベートーヴェンは「困難な解決」と言っているから煙に巻かれるのですけれど、これは冗談がヘタな(ほんとうはそうでもなかったらしいことが会話帳の一部翻訳から読み取れることはあったかと思います)ベートーヴェンの不器用なジョークではないのでしょうか?・・・そんなの身勝手な解釈だと言われればそれまでなのですが、音楽の中身は、第1楽章から終楽章まで一貫して、基本的な音構造は音階の上昇・下降が主流です。これはやっぱり「歌作り」がそう上手だったわけではないベートーヴェンにとって、精一杯「メロディック」なものであったかと感じます。

「困難な解決」は決して終楽章で初めて現れるわけではなくて、じつはとっくに最初の楽章で呈示されていたものの変形です。第1楽章の冒頭は、かけっぱなしの眼鏡、耳に嵌めっぱなしの補聴器を、それと気付かずに探す
「あれ、どこにおいたっけな?」
へのお気楽な問いかけから始まって、すぐ
「まぁいいや、そのうち目っかる」
ということで第3楽章まで好き勝手に日常生活を過ごすのです。
で、やっぱりみつからなくて
「さて困った」
「でもいいか」
「やっぱりよくない、家計簿が読めない!」
「でも家計簿つけたの見たら、差し迫って金がないのを思い出すだけだ」
「カールも独り立ちにおさまったことだし、ま〜ええんでないかい?」
で、めでたく終わる。

今聴き直すと、私にはこの作品のストーリーはそんなふうにきこえます。
それは、日常とはそういうもんだ、と自分が考えるように変わって来たことの反映であるだけなのかもしれません。

でも、ベートーヴェン本人も間違いなくそんな発想じゃあなかったのかなぁ、と思う今日この頃です。

というわけで、時代背景だとかいうことは一切かえりみず、自分の発想=ベートーヴェンの発想、というきわめていいかげんな等式の適用だけでこの作品を捉えておきます。

独言は、受け手が自分の独言に置き換えられる時には、音楽として成立するのかもしれません。

私が初ライヴを聴いたとスメタナ弦楽四重奏団が1968年にスタジオ録音したものは現在もCDで発行されています。今出ているのはこれです(ご教示でリンクを差し替えました、試聴可能です、深く感謝申し上げます)。

http://www.hmv.co.jp/product/detail/126003

 

YouTubeではエマーソン四重奏団の演奏を見つけました。まだぎらぎらしすぎであるように思います。

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