« フルート&ギターコンサート(野津巨貴博さん&増井一友さん) | トップページ | 11月23日(祝):大井浩明さんPOC#8  ブーレーズ全ピアノ作品演奏会 »

2011年11月19日 (土)

【音を読む】いっそ絵にしてみる~メシアン「鳥のカタログ」第1曲

初歩の「十二音」簡単なバランス崩し同じものをつかいまわす伸ばして重ねる畳んで開く


スキャナを使っていませんし、まともなデジカメもいま持っていません(子供たちに取られた【泣】)ので、ケータイで撮ったらピンボケ画像ばかりになりました。お許し下さい。

図柄になる楽譜の・・・手っ取り早いのは図形楽譜でしょうが、そうではないものとして・・・サンプルに、このまえはまたもウェーベルン作品を取り出してみたのでした。

http://ken-hongou2.cocolog-nifty.com/blog/2011/11/post-90f8.html

「いや、図を描くくらいならいっそのこと音の絵を描こう!」
とでもいえる試みをしたのが、オリヴィエ・メシアンの『鳥のカタログ』だ、ということにしておきましょう。

その最初の<絵>を眺めてみます。

00chocarddesalpes

・・・あ、これはメシアンの描いた絵ではありません。@MasakiKawamura

作曲家ですから、音で絵を描いたんですね。

こんな感じ。
第1曲:キバシガラス←クリックで聴けます。(*1)

ウゴルスキというピアニストさんが録音したCDの日本語盤には、石田一志さんと村上美佐子さんがタイムテーブルに沿って絵の中身をまとめて下さったリーフレットがついていました(*1)。
これの大枠を引用させて頂き、楽譜例を幾つか掲載して、目で確かめてみましょう。上の演奏を追いかけながら、音も対応をとってみて下さると、よく分かると思います。

00"00 ラ・メージュの氷河への登り

01montant

以下、岩場を表すときは、これと類似のセットが出てきます。(A)(*2)

00"58 キバシガラス(の叫び声)・・・最初の絵の鳥です。

02chocarddesalpes1
03chocarddesalpes2

・・・こんな声で鳴く鳥なんでしょうか?(B)(*3)

01"22 イヌワシの飛翔(「音も立てずに堂々と」!!!)(C)(*4)

01"53 ワタリガラス(の、しゃがれた獰猛な鳴き声、だそうです)

07grandcorbeau2

05grandcorbeau1

・・・キバシガラスとは別なので、上下ともヘ音記号すなわち低い音域を使って、ちょっと音の色分けをしてあります。(D)(*5)

02"12 キバシガラスの飛翔(横滑りや宙返りや急降下)(E)(*6)

06vif

またキバシガラスが鳴いて(B)・・・(*7)
ちょっと洒落た鳴き方もしてみます。

03chocarddesalpes3

・・・基本の鳴き声(B)に比べて見た目もスッキリ(F)

で、もう一回飛び跳ねます。(E’)

02"52 また岩場が来て(A’)
サン・クリストフ山、だそうです。

04"28 キバシガラスは基本の鳴き方がひっくり返って(B’とでも言うべきでしょうか)

04"57 イヌワシさんがまた飛んで・・・と思ったらキバシガラスさんが悠々と、なのでした。

04ascension
・・・ここ、16分音符ですけど、とてもゆっくり。16分音符にしたのは、鳥の飛翔のあとを飛行機雲みたいに見せるためなのかしらん? (C’)

05"36 したらばまたワタリガラスがわめきます。(D’)

06"13 以降、またまたキバシガラス君の活躍。(B”)(E”)
・・・いい声の別ヴァージョン、「もっといい声」が出てきますが画像載せてませんスミマセン。

07"27 最後はまた岩場。(A”)
エクラン山塊・ボンヌ=ピエール圏谷

同じものが繰り返し現れるわけではないのですが、音型で「同じものの絵姿なのだ」と分かりますし、それは音になったときも明確に聴き取れます。

この第1曲が、『鳥のカタログ』の中では、絵としていちばんシンプルだと思っております。

どうでしょう、絵としてイメージできそうでしょうか?

ちなみに、楽譜の表紙にはこんな(目で見る)絵が描かれています。

Picture

音楽のほうの情景の順番をまとめて確認しますと、

(A)(B)(C)(D)(E)ー(B)(F)(E’)

(A’)(B’)(C’)(D’)(B”)ー(E”)

(A”)

という具合になるでしょうか?
これを、それぞれの情景音から受けたイメージに基づいて、視覚的な絵画に置き換えてみることが出来るかも知れませんね。ちょっと、絵巻物的にかなりの横長になるかも知れませんが。
音楽としては響きが古典から逸脱していますけれど、「形式」は上に見た通り、岩場を表すモチーフ(Aの系列がそれ)を枠にしている点、続く鳥の鳴き声や動作を表すセットの順番がほぼ同じように反復して現れる点で、案外古典的なのがはっきり浮かび上がると思います。

『鳥のカタログ』は全7巻13曲で、第1曲はカラス属の声だけだし、まだ作りがシンプルなほうです。2曲目以降にきれいな鳴き声の取りが登場しますから、それをお聴きになってみて下さいね。


蛇足の余談です。

音楽は、良く言われることですが、音が流れてなんぼの世界です。ですから、音で描いた絵なるものは、目で見ることの出来る絵とは違って、一瞬で
「おお、こういう絵なのか!」
なんて捉えることは不可能です。
耳に聴こえた印象を記憶して、そこに視覚イメージその他の経験から
「まぁ、こんなカタチや手触りや色合いだろう」
なる類推を加えることで初めて、音の絵は私たちの胸の中で像を結びます。 で、17世紀から21世紀の今に至るまで、音で絵を描いた(つもりになった)作品はいっぱい出来ました。

ヴィヴァルディの『四季』やラモーの『めんどり』やベートーヴェンの『田園(交響曲)』なんかは有名な例ですね。(このなかで『田園』だけは、な ぜか「標題音楽ではない」つまり「音の絵ではない」と学者さんたちに言われ続けて来ています。なんでそうなるのか私には分かりません。)そのものズバリ 「音の絵」なんてタイトルがついた作品まであります。

けれども、そうした「音の絵」は、だいたい、物語的な要素がくっつくのが常ですから、管弦楽の場合は、だんだんに「交響詩」と呼ばれるジャンルを形作っていたのでしたね。

 

メシアンの『鳥のカタログ』はピアノソロ作品ですし、交響詩にあるような物語性は帯びていません。視覚的な絵だってストーリーがある場合も少なくはありませんから、純粋に絵画的、と言うのは語弊があるかも知れませんけれど、それでも風景画的ではあるかと思います。

 

ではこの音の絵を目で見られないのか、となると、それは可能です、となるわけでして、そうです、楽譜の書き方がやっぱりどこか絵のようなのです(独断)。ただし、絵の具に当たるものは響き具合なので、それは模様から読み取るしか術がない、との話ではありました。


この作品自体は「総音列」ではないでしょうけれど、楽劇におけるヴァーグナーが主観的な要素をリズムと 旋律線で定型的に記号化したのに対し、メシアンは本来具象であるものを準定型的可変リズムと和声とディナミークの総合で記号属とでも言うべき系列的なもの を使用することで描こうと試みているところに、ロマン派音楽に比較した場合・・・ひいてはバロック期に遡っての記号化にはなかった「視点」を持ち込んだ新 奇さ、面白さがあると思います。

楽譜はAlphonse Leduc。

以下、上っ面な読みであることに予めお許しを請いますが・・・

*1:Anton Ugorski(Pf.) Deutsch Gramophone POCG-1751(1994)
日本語盤は現在入手出来ませんが、日本語盤附属のリーフレットが有用です。
   http://www.amazon.co.jp/dp/B00005FI0L
リーフレット中のテーブルの項目は、楽譜にフランス語で書き込まれているものが大半で、あとはストロフ【各曲の前に付いた標題的詩句】から情報を 付加したものではありますが、楽譜は高価なので、鑑賞する際にはとても助かります。なお、同盤には、楽譜の各曲の冒頭についたストロフの翻訳が鳥のイラス トに添えて訳されている冊子もついています。
メシアンの奥さんイヴォンヌ・ロリオが演奏した録音もありますが、輪郭の明確なほうの演奏で引いておきます。・・・なお、音声はモノラル化してあります。

*2:この音型は原則として1小節(2/4拍子)に12音すべてを使用しています。(A')のところでは小節あたり(16分音符を1拍と見た場合 に5拍子や7拍子9拍子11拍子など奇数拍子になるように・・・ただし1音符あたりの速度は4分音符を1拍と見た場合の4倍)の単位を16音ないし20音 に延長しています。その際、小節内で12音を一巡した後は新しいセットを次の小節とまたいで使用しています。(A")も同様です。

*3:キバシガラスの鳴き声の根底アイディアは完全5度と減5度もしくは完全5度同士の累積でしょう(その反転としての各4度音程を含めます)。 それを、上声部と下声部で短2度でぶつけあう作りになっているかと思います。上声部下声部に見かけ上の長2度や完全4度、長6度その他がみられたりします が、これはどこまでいっても見かけ上のものにみえます。これは、鳴き声のパターンが変わっても基本的に変化していないことです。メシアンはこの鳥の鳴き声 成分をそのように分析したということなのでしょうか。

*4:飛翔は、さまざまな3度音程を基本色として、あえて拍節を感じさせたい(それは飛翔が直線ではなくて曲線を描くのだということを主張した かったのかどうか)箇所では、音が低音域にあるあいだは4度ないし5度で上昇したあと3度下降するようにし、高音部に上昇しきると、拍節感を薄めるべく、 5度跳躍の後に2度下降する等により、線をなだらかにしていきます。聴覚絵画的であると言えるかと思います。

*5:ワタリガラスは、キバシガラスよりも狭まった4度ないし3度を使用しますが、*7と同様になる印象を避けるため、ひとつには音域を低めに集 中させ、もうひとつには(リズムパターンそのものは共用しながらも)ワタリガラスよりも細かい音価での動きや刺繍音的パターンへの変更、同一和音の3連続 以内での連打(あとに必ず8分休符が続く)を採用しています。パターンのヴァリエーションはキバシガラスよりも少なくし、骨太の構成にしています。

*6:「横滑りや宙返りや急降下」の表現は、譜づらの如何によらず、拍節的な書法によっていて、リズミカルな印象を意図的に創り出していると考えられます。即ち、とくに最後の登場時にはわざと崩してもありますが、登場箇所すべてで基調として3/16拍子をとっています。

*7:*3参照。なだらかな連打の中に、3度を交えることで、艶なり愛嬌なりを出している、とでも言えるでしょうか?

 

|

« フルート&ギターコンサート(野津巨貴博さん&増井一友さん) | トップページ | 11月23日(祝):大井浩明さんPOC#8  ブーレーズ全ピアノ作品演奏会 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 【音を読む】いっそ絵にしてみる~メシアン「鳥のカタログ」第1曲:

« フルート&ギターコンサート(野津巨貴博さん&増井一友さん) | トップページ | 11月23日(祝):大井浩明さんPOC#8  ブーレーズ全ピアノ作品演奏会 »