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2011年11月 3日 (木)

【音を読む】まんなかで折って開いてみる(ウェーベルン「変奏曲」第1曲)

初歩の「十二音」簡単なバランス崩し同じものをつかいまわす伸ばして重ねる


15世紀からまた時計を400年ちょっと戻して、ウェーベルンに還ってみます。

(楽譜の不揃いなのはお許し下さい。ソフトの使い方に不慣れでヘタでありながら、あんまり時間を割けないものですから。*のついたところは、面倒な話は下のほうに綴りました。興味がない場合はスルーでどうぞ。)

これは、ひとつの絵だと思って下さい。
音符を読もう、と思わないで、模様として横の位置の高さだけを眺めるのがミソです。ホントです。

【1】

Variation11_2
掲載した絵(=楽譜。少しでも分かりやすくしたいので、元の通りではなくて変形してあります。以下同様・・・注の*0に続く部分を参照)、真中の小節で二つ折りすると、音符がピッタリ重なることがお分かりになりますね?

・・・ハタや記号も裏返しに出来たら、もっとよかったんですけど・・・

「同じ線の上や同じ線の間の場所にある音が同じ高さである」ことだけ分かっていれば、すくなくとも、グラフとしてみることは出来ます。(*0・・・*2も参照)

まるで、紙半分に絵を描いて、絵の具が乾かないうちに真ん中で折って、そぉっとひろげてみたようです。

ウェーベルン(Anton Webern 1883-1945)は、この、二つ折りにすると重なる像だけを組み合わせて1曲仕上げました。
全体は3つの章からなる「変奏曲」という作品の第1曲です。
知る人ぞ知る。知らない人は知らない。知ってて得するわけでもないけど、知ってると楽しいかもしれません。(あたしは知りませんでした。 )
・・・「変奏曲」なのに3章あって、昔ながらの意味での変奏曲は最後の3章目だけです。そのあたりは、今回は観察しませんので、スルーします。(*1)

これも「子供のための小品」同様、12音技法というやつで書かれていて、さらにもっと複雑なことをしているのですけれど、そのへんは押しやっておいて、絵柄だけ見ましょう。(*2)

先に上げた楽譜が、「変奏曲」第1曲の最初の部分です。(*3)

続く部分も、同じように二つ折り出来ますが・・・

【2】

Variation12_2

ちょうどまんなかのところが分厚い和音になっていて、そこの左と右で絵姿がちょっと違っています。まちがいさがしみたい。

で、その次はまた二つ折りに出来ます。(*4)

【3】

Variation13

・・・この部分、ただ折って重ねておんなじ~ぢゃあつまんねぇ、とウェーベルンが(たぶん)思ったので、実際の曲では、最後のほうは音の位置をオ クターヴ単位で変えちゃってます。音程は同じです。【6】も同様です。(こちらでは描きませんでしたが、【6】のほうは音を移動したあとの譜例も描きまし た。)

で、次で一旦締めくくられますが、これは【2】とまったく同じです。(*5)

 

【2’】

Variation14

・・・うそです。
・・・最後の小節に、休符が1個余計にあります。

このあと、曲はちょっと細かい動きになります。ここでは複数の折り重ねられる部分が糊付されたみたいになっていたりして、上で見て来たようにすっ きりいかない作りになっているのですけれど、基本はやっぱり二つ折りで重ねると重なるものばかりの連続です。見た目がぐちゃぐちゃするので、省きます。ぜ ひ原曲の楽譜を見て下さい。

で、また、上で見た、最初の部分と似た感じに戻ります。(*6)
ここからの骨組み自体は、最初の部分と同じです。ですから、「再現部」と呼びます。(現にそう呼ばれています。)

はじまり。

【4】

Variation31

最初となにかが違うでしょう?
実は、最初のときと、音の動きの関係を上下ひっくり返してあったりします。(*7)

2番目の部分

【5】

Variation32

つづき。

【6】

Variation331

3と同じような、音の配置換えをしています。こちらは譜例も載せておきます。

【6’】

Variation332

しめくくりも二つ折りではつまらないので、折り返してからは音の場所をちょっとズラしてみたりしています。音の高さ(いまはこのことばを音程の意 味で使っています)は変わっていませんが、絵柄としてみる時には違って見えてしまいます。それは、絵ならば色合い(彩度のほうでしょうか?)を変えてみ た、ということになろうかと思います。

【7】

Variation34

「え~? こんな《お遊び》で、本当に曲が出来るの~???」

で、こんなふうに聞こえます。

「変奏曲」作品27 第1曲 (高橋 悠治)

面白いでしょう?
そうでもない? (><)


*0:厳密には#だとかbだとかも同じについていれば同じ高さの音ですね。

以下、音の配置は楽譜の対称性をみるために変更している箇所がいくつもあります。さらに、音符はすべて16分音符にしてしまっています。ウェーベルンは実際には響きを考慮して音を長く引き伸ばしたりしています。

*1:ウェーベルンの「変奏曲」作品27(1937年初演)は基本音列とその反行(音度の移動を反転させたもの)、それぞれの逆行の4つの音列を用いた3曲からなり、第1曲は上例のようにそれを線対称点対称・・・この場合の点対称とは数学的な厳密さを持たず、ある点を中心に正負の領域を異にして音響の同一フォルムがおかれていることを指します、以下同じ・・・に配置したものの列挙で構成、第2曲は強弱とアーティキュレーションをも音列化し(「総音列主義」の嚆矢)、第3曲が「基本音列~反行音列~基本音列の逆行」の連なりを主題とした<5つの変奏曲>となっています。第3曲の変奏は、しかし、変奏部で音列の入れ替えを行なったりしているため、実際には古典的な意味での変奏曲ではありません。

*2:音列については末尾の図参照。中に反行・逆行・移高が現れますが、これらは五線譜にではなく12×12升のマトリックスに書くと読み取りがラクになります(慣れないとしんどいことに変わりはありませんけれど)。その際、マスを音名で埋めるより、基本音列の開始音を基準にして数字化(ピッチクラスとして読むために)したほうが、より便利です。五線譜は、とくにE-F音、B-C音(ただしBはドイツ音名のHに相当する)の半音音程も他の全音音程と同様に描かれるため、ピッチ関係の読み取りに苦労する場合があり、数字化することで五線譜の欠点が解消されます。このあたり、やり方はコープ『現代音楽キーワード事典』(石田・三橋・瀬尾訳 春秋社 2011年9月・・・タイトルの直訳は「音楽における新しい方向性」で記述もこのタイトルに沿っていますし、ちっとも事典じゃない気がするんですけど、事典との邦題がついています)第2章参照。

*3:冒頭部は最初の1拍分の休符を省略して描きました。ちなみに、古典的な拍節感で言いますと、冒頭部7小節は最初の休符を加味しなければ5拍子で、そこからあとようやく3拍子となります。・・・なお、ディナミークは全く無視しています。これは【1】~【3】までのセクションでは7小節目までpp、8-10の3小節間はp、11-14の4小節間はf、15-16小節がp、17-18小節がppとなっています。ディナミークについては非対称であるものの、第2曲のディナミークの音列化をちょっとだけ伺わせるようになっています。これは中間部がfないしffをメインのでディナミークにするために、【4】以下の部分(すなわち再現部)では同じセットとしては再現されませんけれど、【4】以下では46-47小節目を境界にpp-pが線対称的に配置されています。

*4:本当は2拍目から始まります。1拍ズラして描いてあります。

*5:本来は2拍目から始まります。

*6:以下、リズムの読み替えは、最終部分を除いて第1部と全く同じ

*7:下図を見て分かるように、再現部は音列の配置を冒頭部(17小節目まで)とは全く変えておらず、ただ音列の位置(ピッチ)を変えているだけです。ただ、これは曲そのものの楽譜を見れば一目瞭然である通り、冒頭部が右手でやっていたこと左手でやっていたことの役割分担をすっかり入れ替え、運動も上向きだったものを下向きに反転させていて、音列とはまた違う「反行」をとりいれています。全体に、楽句の始まりと終わりを7度で、音が広がって行く部分を9度で統一した響きにすることが曲の一貫性を保たせるとともに、9度から音程が狭まった7度で終結させることにより段落感を明瞭にし、さらにこの再現部での運動の反行で曲が落ち着いて終わるように、巧みに設計されているのが分かります。こんな音列・・・どんだけ時間かけて考えついたんでしょう? おもろいです。

<図>「変奏曲」第1曲の音列
・1段目~基本音列とその反行
・2段目~基本音列の逆行とその反行
・3段目~【1】(曲の7小節目まで)での基本音列の使われ方
・4段目~同じく【1】での基本音列の逆行の使われ方
・5段目~【4】以下の基本音列とその反行。長3度上に移動(移高)。
・6段目~【4】以下の基本音列の逆行とその反行

Variation1reihe

3段目と4段目が点対称になっています。
即ち、第1セクションは基本音列とその逆行で出来ておりさらに、それが点対称的になるよう配置されています。以下のセクションにおいても同様の観察が出来ます。
5段目6段目は長3度上に移高していますが、じつはこちらがこの作品全体をみたときの正式の音列のピッチだそうです。

 

楽譜は大竹道哉校訂「ウェーベルン ピアノ作品全集」(ヤマハミュージックメディア 2011)を参照しました。

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コメント

私の楽譜をお使いいただき、ありがとうございます 大竹道哉
こちらもご参照ください
ヴェーベルン ピアノ曲に関する考察-演奏家の立場から「変奏曲」作品27 を中心に-

投稿: 大竹道哉 | 2015年10月 8日 (木) 22時10分

大竹様

論文のご紹介ありがとうございます!
リンクへの問い合わせでご教示頂き、重ねて感謝申し上げます。
同時に教えて頂いた、ここでの使用楽譜へのリンクもここに載せておきます。
http://7net.omni7.jp/detail/1106061583
今後とも様々ご教示宜しくお願い申し上げます。

投稿: ken | 2015年10月18日 (日) 09時35分

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