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2011年9月26日 (月)

大井浩明さんのクセナキス(9月23日)

「ヨーロッパ戦後前衛の流れを汲む人々には、クセナキスの作曲技法の非体系性は目障りで、影響力は死とともに衰えるという予想が強かった。だが(中略)強靭な音楽の遺伝子は必ず後世の音楽家に受け継がれてゆくと確信できる。近年は、若い世代の作曲家たちがメルツバウらの音楽に注目し、その祖先としてクセナキスが再発見される流れも生まれている。」(大井浩明「POC」クセナキスの回プログラム、野々村禎彦氏筆)



9月23日(金・祝日)、大井浩明さんの今年のPOCの開幕を飾るクセナキスの演奏会を拝聴しました。

ほんとうにクセナキスの価値、大井さんがそれを演奏する価値を知っている人たちによる評論などは、これから出揃ってくるものと思います。
また、どれだけ素晴らしい会だったか、については、togetterにまとめられていますので、そちらをご覧頂くのがよろしいかと思います。

http://togetter.com/li/191754

私自身にとっては、20世紀音楽に対するこれまでの触れ方を真摯に反省させられ、ちゃんと勉強しなければならない、と思わせて下さった演奏会にもなりました。

事前には漠然と、
「クセナキスは数学などを作曲方法に取り入れた人ではあるけれど、つまるところは古典的ではなくても<音楽の構成としての部分>は作品の中に持たせていて、聴き手はそれを判別できれば充分である」
というふうに考え始めていたところでした。

プログラムの最初に演奏された「6つのギリシャ民謡集」(1950-51)は初期作だからでしょうか、一般にはバルトークの例でしか知られていないトランシルヴァニア系の音響を古典の手法で素朴に美しく鳴らすものであり、同じ音響は「ホアイ」(1976)や「コンボイ」(1981)のなかにも荒ぶる神が踊る神楽のように充満し、また「オーファー」(1989)の中ではそうした青春期を懐かしむかのように漂うものでもありました。
打楽器とモダンチェンバロが共演する「コンボイ」にも「オーファ」にも、打楽器による色彩を織り込みながら、それを目印として音のストーリーの段落は明白に設けてあるかと思われました。
だいたいが、出回っている録音(「オーファ」の録音は聴いてはいませんが)ではこれらに限らず、数式や論理に裏打ちされたはずのクセナキス作品には、沈黙の時間や音流の疎密によって、大きくは3から、やや細かく聴くなら6程度の「区切り」は存在する、と聴き取れるものがほとんどではありました。クセナキスは創作に当たっては、まず<全体像>をどうするか、を入口にした、ときいていましたけれど、聴いてきた録音は、くりかえしになりますが、段落や区分を感じさせるものばかりなのです。

「あ、でも、違う」

そういう聴き方は、クセナキスに身を任せたものではない、という事実を、愕然とするほど知らしめさせてくれたのが、「ヘルマ」・「エヴァリエリ」・「ミスツ」・「ナアマ」等の、とりわけ「ヘルマ」の演奏でした。

「エヴァリエリ」・「ミスツ」・「ナアマ」のそれぞれには、聴いていた限りの録音では、奔流のところどころにふと繊細な音がちらほらスポットで光を放つように感じられます。大井さんの演奏は、しかし、違いました。「エヴァリエリ」と「ミスツ」は骨太に一貫していて、荒々しさが表に立つものだとばかり思い込んでいた「ナアマ」では丁寧に響かせることを主眼に置かれたのか、白色ノイズに限りなく近いはずの不協和音の連なりが「協和音」に聞こえてくる錯覚(?)を覚えさせるものでした。そのかわり、これらの作品の中に含まれる要素も「あ、これと、これだったのか」と悟らせてくれる明晰さをきちんと兼ね備えている所に、大井さんの人並みではないクセナキス理解が浮かび上がっていたようでした。

「ヘルマ」は・・・もう、ツイートしてしまったひとことに尽きます。

大井さんの弾くヘルマは、美しすぎかもしれない。・・・だからこそ、空間がひとつの、疎密のある球体だ、ということが、誰の演奏よりも良く感じられる

そういうことでありました。

なにがクセナキスの音響を統一体としているのか、については、ですから、大井さんの足元にも、その影にもおよばないにしても、なぜこんな球体のような世界を可能にしているのか、まず彼の先に立った人たちの創作法・音響構築法に遡るところから、ちょっと真面目に勉強しなければならないのだ、と、強く思わされたのでした。

まことに、驚愕の演奏会ではありました。

終わって、体の震えをとめられませんでした。

打楽器で共演の神田佳子さんについても、そのすばらしく自然な体さばきを特筆すべきだと思っております。「コンボイ」では、なんと大小の植木鉢を揃えてガムランもどきの音色を聴かせて下さり、それが植木鉢だとは知らなかった私は「新種の楽器か?」と、ただ呆気にとられておりました。優れた打楽器奏者さん(本来はどんな楽器の演奏者も、なのですが)は体を無駄に大振りせず、きれいな円運動でディナミークや音色のコントロールをするのですけれど、神田さんほど多様にそれを実現できる方は、また希有であろうかと感じます。

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