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2011年9月30日 (金)

【音を読む】12音音楽の易しい創りかた~ウェーベルン「子供のための小品」

12音技法による音楽がどんなふうに作られているか、なんて、正直言ってちっとも分かりませんよね。もう90年近く前のものですのに!

でも、作った作曲家さんだってとても迷ったんだろうなぁ、と思います。

ウェーベルンはそれを子供にも分かるようにしたいと思ったのか、「子供のための小品」なるものを1曲だけ書きました。師シェーンベルクが12音技法により創作を始めた次の年、1924年のことです。
12音音楽の最もシンプルな例であるこれを用いて、その創りかたを見ておきましょう。

出来上がりは、このような曲です・・・
「子供のための小品」高橋悠治
「子供のための小品」高橋悠治(2回弾かれています。)

まず、音階に代えて、半音階を形作る音程12音を、半音階そのままではないように、好きなように並べた音列をひとつ作ります。
そのあと、この作品ではウェーベルンは難しいことをしてはいなくて、同じ音列の音の高さ(オクターヴ上の位置)を変更したものを6通り用意して、順に並べているだけです。

ただし・・・同じ<音列>を6回繰り返している、と、書籍・楽譜の解説にありますが、同じ<音列>を6回繰り返しても、12音音楽にはなりません。

たとえばこれは同じ音をひとつも含まない12の音を並べて、6回繰り返したものです。

12音にならない例
12音にならない例

3和音を並べたように聞こえるこれは、明文化されたものがあるのかどうかは知りませんが、いちおう、十二音技法と呼ばれるものの上では「禁則」で(あるはずで)す。調性感(長調とか短調とか)をイメージしてしまうからです。(*1)
でも思いがけずミニマルっぽい・・・ってのは措いとこう。

ウェーベルン「子供のための小品」に用いられている<音列>は次の通りです。

Kinderstucktone_2

子供のための小品」の音列

・・・で、この音列の、音の高さをバラす。
音列を単純に6回繰り返すのではなくて、6通りに音高を変えたものをならべる。(*2、※)

「子供のための小品」の音列の音高配置変更1
「子供のための小品」の音列の音高配置変更1

さらに、同時に鳴らしちゃう音は、ぐしゃっ、とまとめる。(*3)
以上で、どれがその中の「文節」を決めるかも明確にする。

「子供のための小品」の音列の音高配置変更2
「子供のための小品」の音列の音高配置変更2

ここまでのプロセスで、音に色彩感が増していくのがお分かり頂けると思います。

音列は4小節に1、1、2、2の扱いでまとめて、エンディング用に最後の2音をとっておいて、1小節付加したところに用いています。全体で16小節+1小節、という、けっこう「古典的」な収め方にしています。

それにリズムを与えます。第1段を除き弱起で始まり、第2段は特殊で、<音列>の最初に位置づけられているはずの音で終わります。第3段は音列の第2番目の音で開始します。
曲のリズムはそのままに、もとの音列がどんなだったかを思い出すため、音をなるべくベタに配置すると、こんなふうになります。(段落が分かるように、各段のあいだに長めの休止を配置してあります。)

「子供のための小品」リズム付け
「子供のための小品」リズム付け

段落が分かる状態で、ウェーベルンのした通りに音を配置しなおします。
音色効果で印象が豊かになるのが分かります。

「子供のための小品」段落分け
「子供のための小品」段落分け

で、ニュアンスちゃんとつけて、出来上がり。
(再掲)「子供のための小品」高橋悠治
再掲)「子供のための小品」高橋悠治

楽譜つきYouTube

・・・実際にはこの順番で曲が作られたわけではありません。
・・・ウェーベルンの、このシンプルな例を真似してみて下さい。まず12音の音列をどうしようか、と考える時に、それがデタラメに作れるものではなくて、これから響きをどんなふうにしたいのか、と音列作りとが、かなり密接に関わっているのを最初に痛感することになるはずです。

とってもヘタな自作例
とってもヘタな自作例

ウェーベルンの作例とは逆に、最初に和音を鳴らしたい、おしまいは単音で終わりたい、というだけで音列を組みました。
才能豊かな方がおやりになるなら、もう少しいいサンプルも出来るでしょうが、そこはご容赦下さい。
にわか作りであることは言い訳になりませんで、凡人は「古典的」な見本から自由な自由な発想をどれだけ持てないか、の<好例>としてあげさせて頂いた次第です。・・・なんだかおかしいなぁ、と、あとで確認したら、音間違っとった! ま、あかんほうの見本やからそのまんまにします。
さらに、ウェーベルンの例を改めてお聴き頂ければ、彼がいかに周到に
「同じように聞こえるものを排除する」
ことに腐心したかをはっきりお感じ頂けるのではないでしょうか?

「音列は、自動的には作れない。(中略)作曲家は、自ら、音列を創り上げねばならない。あるいは(中略)特別な音列を『見出す』ことが求められているのだ。そこには、明らかに作曲者の意志が反映する。」(岡部真一郎『ヴェーベルン』153頁)

なお、掲載できず申し訳ないことながら、この作品の楽譜は、すべての音にシャープかフラットかナチュラルの記号が必ずついています。これは後の世代、たとえばブーレーズが踏襲する方法となりました。

12音技法はもっといろいろなルールでいろいろな運用が出来るもので、シェーンベルクはもっと多様なものをそこに持ち込んでいますが、それはまた別な作品に応用例で見ていくことにしたいと思います。(*4)


【参考】
松平頼則『近代和声学』(音楽之友社 1655)
岡部真一郎『ウェーベルン』(春秋社 2004)
大竹道哉『ヴェーベルンピアノ作品全集(楽譜)』(ヤマハミュージックメディア 2011)

*1:クシェネック Ernst Krenek が「二つ以上の長または短三和音を三つの連続音によって構成することは避けなければならない」と述べているそうです(上掲 松平頼則『近代和声学』ドデカフォニズムの項、323頁)。

*2:音列の順序を入れ替えさえしなければ、音はどのようなオクターヴ位置でも使うことが出来る、というルールに則ります。これもクシェネックの述べている原則のひとつです。

*3:シェーンベルクが加えたルールで、音列を任意の群の集合と見なしうる、というものに則ります。ウェーベルンは「子供のための小品」で、6回用いられる音列を順に音列1、2、3-4、5-6(3-4、5-6は2つが融合)とみたとき、音列1の最後でおしまい2音(11/12)を1群とし、音列3-4では4の7/8/9音を3音1群・10-11音を2音1群、音列5-6では5の最初の2音(1/2)を1群・4/5音を1群・7/8/9音を1群・10/11/12音と6の1を1群・6の2/3/4/5/6音を1群・最終2音(11/12)を1群として扱っています。すなわち、見なし群を連結部にまで延長して導入しています。

*4:音列の逆行(最後の音から反対に始まる音列)、展開(転回、同等の音程による置き換えをした音列、反行)、逆行の展開(転回・反行)、が認められています。また、伴奏には、主旋律(と呼んでいいなら)としてその場所で鳴っている音以外の音を用いることになっています。また、同じ音程関係を保ったまま位置を半音単位で12通りに上下することも認められています(トランスポジション)。

※音列上のオクターヴ配置は、ある種の規則を設け、それに「ぼかし」を入れて変更しています。原型アイディアにあたるものを最初の2音列について述べますと、偶数位置音のオクターヴ上下についてまず基本ルールを設けています。音列1は偶数位置音をオクターヴ上げ(もしくは4音までは奇数位置音をオクターヴ下げ)、5-6音は位置不変更、9-10音は最初の規則に戻し、7-8と11-12は偶数位置音をオクターヴ下げする。音列2は6音までは偶数位置音をオクターヴ下げ、7-8は元位置を保ち、9以降は奇数位置音をオクターヴ下げ。そこにまた手を加えています。
音列4は4音1群ですが、この音列以降は上記*3により2音列ずつが融合しています。

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