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2011年1月 4日 (火)

でたとこ能見物(2)小段構成の具体例

(1)能の大まかな構成(2)小段構成の具体例(3)能の始まりかた(常座・ワキ座・狂言座)(4)能の臍(5)能のクライマックス


(1)の復習をしておきますと、能の構成について、世阿弥は『能作書(三道)』(応永三十年【1423、世阿弥61歳】)という書物の中で、能の台本(謡曲)は序1段、破3段、急1段の計五つの段から成るのが原則だ、と述べていたのですが、現行の謡曲は、古典の全集では10段前後に区分されているのを目にすることが出来ます。
ただ、それらを観察しますと、各段2つずつが世阿弥の五段のうちの一段を構成する、なる単純なものではなくて、「序」と「急」にあたる部分は大抵は1段のみであり(複数の段にわたることがある)、残りは主として、劇としての演出を作者がどう考えたか、あるいはその台本の素材が劇にどんな流れを要求することによって、「急」の部分の小段配置に工夫を凝らすことから変化と充実がもたらされているかのようです。

今後の「観察」を念頭において、いくつかの例を見ておきましょう。市販の古典全集はどれも親切に分かりやすい傍注を記入してくれていますが、いまは新潮日本古典集成によります。
()内はよく用いられる演出方法とのことです。□は、分類を決め難い構成要素とのことです。
だいたいこのへんかな、というところに<序>・<破>・<急>と入れておきましたが、誤っているかもしれません。
なお、次第、サシ、一声(イッセイ)、問答、クセについては(1)でどんなものかの説明を引いておきました。他に出てくる小段要素については、いまのところは、「こういうことばが出てくるのか」程度にとらえておき、それらの中から特徴的なものについて、今後観察して行くことにしたいと思います。


高砂(たかさご、世阿弥作〜脇能【初番目】物)

<序>
1.(真ノ次第)〜次第〜名ノリ〜上ゲ歌〜着キゼリフ
<破>
2.(真ノ一声)〜イッセイ〜(アシライ)〜サシ〜下ゲ歌〜上ゲ歌
3.問答〜上ゲ歌
4.問答〜クリ〜サシ〜クセ
5.ロンギ
6.問答〜語リ〜問答
7.上ゲ歌
8.(出端)〜サシ
<急>
9.上ノ詠〜一セイ〜神舞
10.ロンギ


頼政(よりまさ、伝世阿弥作〜修羅【二番目】物)

<序>
1.(名ノリ笛)〜名ノリ〜上ゲ歌
2.□
<破>
3.問答〜上ゲ歌
4.問答〜語リ〜掛ケ合〜上ゲ歌[中入り]
5.【アイの】名ノリ〜問答〜語リ〜問答
6.□
7.(一声)〜サシ〜上ノ詠〜一セイ
8.掛ケ合〜上ゲ歌
9.名ノリグリ〜サシ〜クセ
10.語リ〜中ノリ地
<急>
11.ロンギ


井筒(いづつ、世阿弥作〜鬘【三番目】物)

<序>
1.(名ノリ笛)~名ノリ~サシ〜歌
<破>
2.(次第)〜次第〜サシ〜下ゲ歌〜上ゲ歌
3.問答~上ゲ歌
4.クリ〜サシ〜クセ
5.ロンギ[中入り]
6.【アイの】語リ~問答
7.上ゲ歌
8.(一声)〜サシ
9.一セイ〜序ノ舞〜ワカ
<急>
10.ワカ受ケ〜ノリ地〜歌


道成寺(どうじょうじ、作者不詳、観世信光作?〜四番目物)

<序>
1.(名ノリ笛)~名ノリ[ワキ]
2.問答〜触レ
<破1>
3.次第〜名ノリ[前シテ]〜上ゲ歌
4.問答[アイとシテ]
5.問答[アイとワキ連]
6.問答[アイとシテ]
7.アシライ=□〜次第
<急1>
8.乱拍子[乱拍子謡]〜[ワカ]~急ノ舞[ワカ]
9.ノリ地〜[前シテの鐘入り]
<破2>
10.□〜問答[アイ同士]
11.問答[ワキとワキ連]〜問答[ワキとアイ]〜語リ〜問答[ワキとワキ連]〜(ノット)
<急2>
12.□〜ノリ地
13.祈リ=中ノリ地〜歌


船弁慶(ふなべんけい、観世信光作〜切能【五番目】物)

<序>
1.(次第)〜次第〜名ノリ〜サシ〜下ゲ歌〜上ゲ歌〜着キゼリフ
2.問答[ワキとアイ]
<破>
3.問答[ワキと子方]〜問答[ワキと前シテ]〜問答[ワキと子方]〜上ゲ歌
4.問答~掛ケ合〜詠〜問答〜物着アシライ〜[一セイ]〜イロエ
5.サシ〜クセ
6.[ワカ]〜中ノ舞〜ノリ地〜上ゲ歌(中入り)
8.[シャベリ]〜問答
9.□〜問答〜一セイ
10.問答[ワキとアイ]〜問答[ワキとワキ連とアイ]
11.□〜問答[ワキと子方]〜[クリ]〜歌
<急>
12.(早笛)〜名ノリグリ[後シテ]
13.□〜ノリ地〜舞働=ノリ地


何番目物、というのは、元来、能が五番だてで演じられ(世阿弥の絶頂期は三番立くらいだったようですが、その晩年には五番どころではないほどに増えたりし、世阿弥は少々危惧の念を持っていたようではあります・・・で、彼の書き残したものからは、彼がいちおう五番立てに分類される嚆矢をなしたように読めます)、それぞれの順にどんな趣の物語なり内容が演じられるかが決まっていたことから来る呼び名で、初番が神ないし神の化身、二番が修羅道に堕ちた武人、三番が女性もしくは美男、四番が狂あるいは他のどれにも入れ難いもの、五番が異界からの来訪者を、それぞれ扱うのが原則だそうなのですけれど、例外もあります。船弁慶などは四番目物だと記してある本もあります。
段の構成は、上記の謡曲が何番目物であっても、その分類を特段代表するものではなく、物語の要請によって自由に組み合わされています。ですから、上例からは、むしろ、その謡曲が何番目物であっても、かなり似たところがあるのに注目しておけば良いと思います。五番目物の名作、「猩々」(作者不詳、金春系統の能か?)などは、謡曲そのものには殆ど言葉がなく(新潮日本古典集成では3頁足らず、4段)、舞のみが大きな見どころとされています。
作者が世阿弥または世阿弥だと思われているもののシンプルなつくりに対し、能が危機に瀕した頃の功労者だった観世信光の作だと考えられている「道成寺」・「船弁慶」は、もし能が幕で区切られる演劇だったら二幕になっただろう、入り組んだ構成になっています。上では「道成寺」の方は仮にそのような意識で<破1>・<急1>と挟んでみました。本来は<急1>とした「乱拍子」の部分は、まだ<破>の部分に属すると見るべきでしょうが、この「乱拍子」は「道成寺」のみにある小段でもあり、非常に緊迫した静粛による長い間が大きく開くうえに、このあとで前シテが鐘に飛び込むという、これも独自の激しい演出を伴っていて、ここにいったん<急>が来る、と見なしても不自然ではないと感じております。そのあとの、アイの問答が、独立した狂言(ただし話は謡曲本体に密接に絡んでいるため切り離すことはあり得ない)と思ってもよいほどに長いのも特徴ですが、これは「船弁慶」の8〜10段の問答にも似通った点があります。・・・とはいえ、この問答をあまりに長々演じると、能全体が緩みます。

「ロンギ」についてだけ説明を引いておきます。

これは論議の義で・・・多くは地謡とシテとの掛合であるが、稀にはワキとシテ、又はツレとシテでロンギを謡ふ場合もある。(藤波紫雪『お謡ひ稽古の手引』)

三省堂の『能楽ハンドブック』では、「中入の前にあるシテとワキのかけ合い」云々とありますけれど、実践家である藤波師の説明のほうが、謡曲の内容に照らし合わせると正しいのが分かります。

ここまでみておいたところで、小段の要素の特徴などを、また少しずつ見て行きたいと思います。

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