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2010年10月 2日 (土)

マンハイムの華「ヴェンドリング作品集」小川隆さん(CD)

マンハイム楽派の最も優れた音楽家であり、レオポルト・モーツァルトが絶賛した人物、

Johann Baptist Wendling(1723-1797)

の、いまでもなかなか耳にすることの出来ない作品集の、たいへんに暖かくて丁寧な演奏です。

C6056Floetenmusik der Mannheimer Schule(SIGMA BM 31.9264)

日本レーベルではないので輸入盤での入手になりますが、ムラマツフルートのHPから購入できます。

http://www.muramatsuflute.com/shop/g/gC6056/

また、iTunesから音楽ファイルとしてダウンロード購入も可能です。

Johann Baptist Wendling:Floetenmusik der Manheimer Schule

という名称になっています。

演奏はドイツ・マンハイム在住のフラウト・トラヴェルソ奏者、小川隆さん(カールハインツ・ツェラー並びにペーター・ルーカス・グラーフ門下、国立マンハイム歌劇場オーケストラの主席ピッコロ奏者、18世紀オーケストラをはじめとする数多くの古楽先鋭オーケストラでも活躍、室内楽ライヴ活動も活発に展開)をソリストとし、アッティツオ・モッフォ(Vn.)、山崎さゆり(Vn.)、スタース・スウィールストラ(Vla.)、ディミトリ・ディヒティアール(VC.)、野田一郎(CB.)、ギー・ファン・ヴァース(Cmb.)といった面々で編成された"HOFFMUSIC MANNHEIM"によります。
ソロとアンサンブルがお互いの息をきちんと読み取りあっている点でも、近年希少な価値の高いものです。

収録曲は、

コンチェルティーノ ト長調(フルートとヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための)
ソナタ ニ長調(フルートと通奏低音のための)
コンチェルティーノ ホ短調(フルートとヴァイオリン、ヴィオラ、バスのための)
ソナタ ニ長調(フルートとヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための)
三重奏曲 変ホ長調(フルートとヴァイオリン、チェロのための)
フルートと弦楽オーケストラのための協奏曲 ト長調

です。

なによりも驚きなのは、ヴェンドリングという、私たちにとってW.A.モーツァルトの伝記で名前を見かけるしかなかった「優れた音楽家」の音楽が、おそらくはアマデウス・モーツァルトに強烈な印象をあたえたのだろうな、ということを本盤の音からはっきり知らされることです。
最初のコンチェルティーノと最後の協奏曲は、バロック直系を感じさせながら(ト長調コンチェルティーノの中間楽章は、コレッリ的な歌う短調です)疾風怒濤の劇的な転調を孕んでいたりしますし、ホ短調ソナタの顔つきは激しいながらも大人の抑制の利いた響き(この演奏だからこそ認識させて頂けるものではあります)は、アマデウス・モーツァルトがフルート作品ではついに実現できなかった、フルートという楽器本来の豊穣さを、私たちに強く印象づける音楽となっていたりします。

CDで購入したほうが、輸入盤でありながら、ちゃんと日本語解説もありますので、CDでの購入をお勧め致します(解説の日本語訳は、やはりドイツ在住のリュート奏者、蓮見岳人さん)。



以下は、あくまで私の個人的な感慨です。

ふりかえってみれば、この30年でCDが出回るようになり、録音技術が格段に手軽になってから、かつは交通のネットワークがより稠密になってきてから、音楽を聴く環境が劇的に変わって来たのだなあ、と、つくづく思います。

かつてはタイトルや作曲者、演奏者名を目にし耳にするたび、
「どうしてもこの音楽を聴きたい」
と、それが聴ける場所に届かぬ思いを馳せることも少なくなかったのでした。

それが、CDの普及で初めて、手軽なものになったのでした。
「クラシック」ジャンルに限りませんで、日本国内の例で言えば、今昔物語等の古典で、文字でその題名にしか触れ得なかった「流泉」とか「啄木」といった

<秘曲>

の類いも、探せば耳に出来るのです。
それに限らず、冒険心に満ちあふれた人が素朴な機材でかき集めて来てくれた世界中の民族音楽も、私たちはエアコンの効く部屋で夏は涼しく冬暖かく、安穏と楽しめるのです。

いまのところまだ、日本において、それは「平和」という錯覚のおかげ、ではあるかと思います。

もしかしたら崩れ去るかもしれない「平和」の恩恵に、私たちはまだどっぷりと浸かっています。

だから、これだけ恵まれた状況にあるのに、たくさんの音楽の中から、私たちは意外にもまだ、決まりきった「名曲」の「定盤」にしか目がいかず、新録音もそうした「名曲」演奏のリメイクばかり量産され、若手の演奏には「定番」作品だけが繰り返し乗せられ、

<創造的な世界>

は、太平洋戦争直後からの30年に比べると、流通市場の上では逆に停滞していると見なすべきでしょう。

これは日本の社会の状況とかなり密接に連繋しているのではないか、とも強く感じる今日この頃です。

そんなマンネリに敢然と立ち向かう音楽家さんもたくさんいらっしゃるようなのですが、主要メディアは仮にいったんそんな人たちの活動にスポットライトを浴びせても、日々の「新規さ」に目を奪われたり、あるいはこの景気低迷の時代にはジュラルミンケースの札束を相変らずバブル期同様に追いかけ回して収入の確保を優先させたり、というていたらくで、すぐに梯子をはずし、貴重な存在を忘却の彼方に追いやってしまって平然としています。ネット上の個人も、そんなメディアに追随するなり、あるいはメディアに先んじてメディアに乗っかりそうな若手を見つけては鼻高々となったり、という、お粗末な状態にあるケースを時々見かけて苦笑いさせられたりします。・・・頼もしいのは、一方で絶対にそうではない個人のかたもたくさんいらっしゃることです。
世情からすると、私たちが次世代に<希望>を手渡すことははなはだ困難に見えます。ですが、決然とした個人のかたとの出会いを大切にしていけば不可能事ではないのだ、と前向きに思い得るのは、そのようなかたの存在があってこそ、です。

必ずしもマンネリを見越して、ということではないのですが、はなから「日本在住日本人」の目から離れた場所で、厳しく本場の研鑽を重ねて来られた方もまた、少なからずいらっしゃいます。

小川隆さんは非常に素晴らしいフルーティストですが、ご自身をこのように位置づけて活動していらしたおひとりでもあります。

日本国内ではまだまだつかみどころのない楽器扱いであるフラウト・トラヴェルソの、世界的に卓越した演奏者でいらっしゃいながら、日本人の方がその存在を知らないのではなかろうかと思われます(し、そういうかたは思いのほかたくさんいらっしゃるので、こんな表現が失礼にならないことを切に祈ります)。

音程のコントロールがたいへんに困難だ、と言われているフラウト・トラヴェルソを、そんな困難さを全く感じさせず、しかも名手ヴェンドリングの手になる故に、この楽器の最低音から最高音まで華やかに駆け巡る、かなり条件の厳しい音楽を、聴き手にそんな困難さなどまったく悟らせない滑らかさで聴かせて下さる小川さんは、昔の日本なら「ヨーロッパにお住まいでありながら私たちの国の宝!」と叫ばれていただろう存在ではないかと思います。

今の日本がそういう風土ではないことは、日本人にとっては不幸ですが、小川さんにとっては幸福、なのかもしれません。


ヨーロッパ在住の非常に優れた古楽奏者阿部千春さん(Vn.コンチェルト・ケルン等で活躍)による「バロックヴァイオリンコンサート」は10月8日(金)新高円寺のスタジオSKで。

日本人作曲家の作品を集中的に紹介する大井浩明さん《Portraits of Composers》(POC)昨日レポートの第1回2010年9月23日(祝)は満員立ち見客ありでした。以降、2010年10月16日(土、松平頼則・山本裕之作品)、010年11月13日(土)、2010年12月15日(水)、2011年1月23日(土)です。1回券はローチケ(ローソンチケット)で(おおむね前々日までの取り扱い、その後は当日券となります。満席にご注意!)・3回パスポート・5回パスポートはopus55にて入手出来ます。当日演奏される野村誠さん作品の解説こちら

ツイッタでの第1回POC関連ツイートのまとめは、http://togetter.com/li/52350http://togetter.com/li/53145

上記の阿部千春さん・大井浩明さんによる「モーツァルト:作品2」昨年大好評の作品1に続きより充実の響きです。10月13日。(リンクでは大井さんの師カニーノとアッカルドの演奏引用で曲のサワリをご承知頂けます。)

野村誠さん・片岡祐介さん「音楽ってどうやるの」「即興演奏ってどうやるの」もっと早く知っていたかった好著でした。ご一読を強くお勧め致します。

oguraooi.jpg 日本で本場のカンツォーネを聴かせて下さることにかけてこれ以上の方はいらっしゃらない、青木純さんの今後のスケジュールは、こちらをクリックしてご確認下さい。

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