« プレイエルのピアノによるショパンリサイタル(2010.10.05) | トップページ | 白銀のうたびと・松平頼則(まつだいら よりつね)(2) »

2010年9月28日 (火)

白銀のうたびと・松平頼則(まつだいら よりつね)(1)

(1)(2)(3)



大井浩明さんは、本当に忙しいお兄さんです。

こないだ東京でのPortaits of composers(POC)第1回で難曲の松下眞一作品・ちょっと聴くとそうでもなさそうでいながら独奏だとまたとんでもなく大変な野村誠作品を披露したかと思ったら、こんどは10月6日に京都で

ピアノ演奏と詩の朗読「これはしまった、檻を嚙みくだく」 --鈴木陽子作品展:オトとコトバ--

だそうです。

2010年10月06日(水)
開演19:00 (開場18:30)
京都府立府民ホールALTI
(地下鉄烏丸線「今出川駅」6番出口より右手(南側)へ徒歩5分)

Alti_map1

でもって、10月13日には、ケルン在住のバロック・クラシカルヴァイオリニスト阿部千春さんと、モーツァルトの作品2のヴァイオリンソナタ演奏会、間をおかず10月16日にはPortaits of composers第2回、です。

私は残念ながら京都へは伺えず、子持ちやもめの身では東京も居住地から両方行けるか、危惧しています。

とにかく、まず人にCD(フォルテピアノによるベートーヴェン演奏)を紹介されては、《月光》ソナタの自筆譜と照らし合わせた時の適切さに仰天させられ、実際に昨年のモーツァルト・ヴァイオリンソナタ(クラヴィアとヴァイオリンのための・・・作品1)を拝聴してまた卒倒、と、私にとっては先に古典演奏から接した音楽家さんではありましたが、もとはといえば現代作品への造詣の深さで注目を浴びた存在であり、フルートの木ノ脇道元氏と「ドゥオ・ドーゲン」で<1993年の第2回現代日本の室内楽演奏コンクール>第1位を獲得してのち、同時代作品を積極的に採り上げ続けて来た貴重な存在なのです。音楽はドイツのバッハから日本の野村誠まで(野村さんは著書『路上日記』で窺われるように、路上パフォーマンスなどをゲリラ的に行なう個性的な活動で人との出会いそのものを作曲する、主義や慣習にとらわれない創作家であることが『日本戦後音楽史』下318-9頁に記載されているのを見落としていました)、楽器はチェンバロ・クラヴィコード(「フーガの技法」のCDあり)・オルガン・フォルテピアノ(ベートーヴェンのソナタを順次発売中)・現代のピアノ(大井さんの名を広く知らしめることになったクセナキス『シナファイ』のCDあり)に通暁していることについては、私などよりはるかにご存知の方が沢山いらっしゃると思います。

で、私は現代作品には疎いので、だいたいバロックのコンサートと同程度の会場でも、まさか20世紀作品以降の独奏会で客席が満杯(新ウィーン楽派の会でもPOC第1回でも立ち客までいました)になるとは想像もしていませんで、あらためて度肝を抜かれました。

そんな大井さんがどんなヴィジョンから全5回のPOCの組み合わせを考えたのかは、保守的な洋楽観しかもたない私にはまるきり推測も出来ず、第2回以降もそれぞれの会がびっくり箱になっていくのだろうな、と、ますます興味津々となって来ております。

素人目に、第1回は気風作風の対照的な理系出身作曲家が従来の音楽の殻を破って自由なはばたきをみせるという共通項でのセッティングであったかのように思われましたが、第2回についても芯のあるコンセプトで作曲家が組み合わされているようです。

第2回は、POCのチラシ裏面に文章を寄せている石塚潤一さんが日頃から再評価のために意を砕いていらっしゃるという松平頼則(よりつね、1907〜2001)氏と、「一つの音とは何か?」という問いを発し続けていらっしゃるのだという山本裕之氏という組み合わせですが、石塚さんがチラシに寄せている言葉を引きますと、
「(松平頼則のピアノ組曲)『美しい日本』に組み合わされるのは、いわば『あいまいな日本』を探求する山本裕之である。繊細かつ厳格な記譜によって『あいまいな』音素材を構造化していく山本の志向は、音列技法を駆使して雅楽由来の『捉えどころのない音の群』へと肉薄した松平頼則のそれと相通じている」
のだということです。
山本裕之さんが、私たちの入手し得る唯一のCDで
「たとえば楽譜を書くとき、音を一つの音符という形にデフォルメしようとすると、その際に削り取られる魅力ある曖昧な部分、つまり数える事が出来ない、音符には書き表せない様々な要素がこぼれ落ちてしまう」「カンティクム・トレムルム」2003年8月)
と述べているその取りこぼし感は、上記の石塚さんの説明を裏付けるもの、すなわち、雅楽はもちろん、より端的には能楽にみられる音の連続感を引き継いでいるとみなし得るものだと言うことが出来るでしょう。

山本裕之作品についてはひとまず措くとします。

松平頼則は、先に記した生没年から分かります通り、息の長い作曲活動を繰り広げた人だったようです。「ようです」と曖昧にしか言えない自分を残念に思いますが、私はその作品を僅かしか知りません。それも、つい最近知ったものです。松平氏の生前は、その存在をまったく存じ上げませんでした。つまるところ、コマーシャリズムに順調に乗った音楽以外には私の耳には入っていなかったわけです。

調べて行きますと、松平頼則という人は、じつにくねくねと、どんな茨の道でも厭わず分け入って生きた作曲家だったようです。
創作活動の開始は十代後半からのようで、フランスの新古典主義の影響をうけ、国家主義やセンチメンタリズムを厭い、日本の素材としては集団的でにぎやかな近世邦楽ではなく、まず民謡から入って雅楽に傾斜し、それから生涯、雅楽のアイディアを咀嚼し続け、壮年期に達してそこに十二音技法を巧みに取り入れていくことになります。

太平洋戦争後は清瀬保二・早坂文雄らと共に「新作曲派協会」(1946発足、松平39歳当時・・・会の存続は経済的には早坂文雄の映画音楽での稼ぎに負った由)に属しましたが、当初は同協会の作曲者たちの例に漏れず、まだ新古典派的な作風をみせていたかと思われます。

NAXOS発売のCD「日本作曲家選輯 松平頼則」(野平一郎ピアノ、高関健指揮、大阪センチュリー交響楽団 58.555882J 2001年収録)には1951年〜1959年の管弦楽曲が収録されていますが、その最初の作品、「ピアノとオーケストラのための主題と変奏」(1951)は、新古典主義的作風の掉尾を飾るものであり、国際的にはカラヤンが指揮した唯一の邦人作品であることが売りにされています。

(以下、私の主観による誤り偏り等がありますので、【追記】として末尾に補足します。誤りは誤りのままとして置いておきますことをご寛恕願います。)
主題は、三調のヴァージョンがある「越天楽」のうち、盤渉調のものを用いています。本来は、「黒田節」の元となった平調越天楽が、越天楽としてはもっとも篳篥の音域に合うため(篳篥は1オクターヴ程度の音しか出せないが、その音域はE音を主音【終止音】として持つ平調でもっともよく自由度を発揮するのだと思われます)、越天楽のメロディの代表となっているいるのでしょう。が、そこであえて盤渉調越天楽を用いたところに、反骨粘り腰・松平頼則の面目が躍如としているのですが、しかし、作曲された1951年当時ではまだ、長い生涯だったこの人は、その細くて柔軟な、あたかも蛇身のような音楽肉体の尻尾をちらりとみせているに過ぎません。それは、「主題と変奏」の主題部と、オリジナルの雅楽を聴き比べてみると感じられることです。

「主題と変奏」自体、時代を反映して途中にブギウギが採り入れられたりしている平明な作品ですが、いまは主題のみを聴いてみましょう。雅楽そのものと松平編の主題を比べますと、先の山本氏の言う「数える事が出来ない、音符には書き表せない様々な要素」がおもいきり切り詰められているのが分かります。

盤渉調越天楽は、こんな感じの雅楽です(終止音はH。ちなみに、盤渉調は平調と同じく律旋に属する)。(宮内庁式部職楽部「越天楽 三調」コロンビアCOCG-7653)

盤渉調越天楽


松平編「盤渉調越天楽」

主題と変奏〜主題

・・・盤渉調そのもの、というより、どうしても平調の有名な調べも覗き見えてしまう自らのこのような編作方法に飽き足らなかったであろう松平頼則は、十二音技法と雅楽を融合した筆法を開拓し、1950年代後半には「蛇を見つけて喜ぶ、蛇を食する習慣のある」西域の民のさまを描いたとされる「還城楽」(唐楽)を下敷きにした<左舞>(1958)、おなじく雌雄一対の竜の戯れを描いた「納曽利」(高麗楽)による<右舞>(1957)をものにしていくことになります(前記CDに収録)。

【追記】
お詳しい方に様々ご教示頂きました。三調ある「越天楽」は、実は平調のものが最も特殊なのであって、むしろ盤渉調の方が基本である、等々、ご教示はいくつかの点に及びました。ここでは「越天楽」についてしか補足しませんが、深く御礼申し上げます。盤渉調、黄鐘調の「越天楽」の方が正規のものであることは、増本伎共子(喜久子)『雅楽入門』旧版ですと208-213頁に詳述されています。現在は新版が出ていますが、私は所有しておらず、旧版でのご案内で申し訳ございません。


日本人作曲家の作品を集中的に紹介する大井浩明さん《Portraits of Composers》(POC)昨日レポートの第1回2010年9月23日(祝)は満員立ち見客ありでした。以降、2010年10月16日(土、松平頼則・山本裕之作品)、010年11月13日(土)、2010年12月15日(水)、2011年1月23日(土)です。1回券はローチケ(ローソンチケット)で(おおむね前々日までの取り扱い、その後は当日券となります。満席にご注意!)・3回パスポート・5回パスポートはopus55にて入手出来ます。当日演奏される野村誠さん作品の解説こちら

ツイッタでの第1回POC関連ツイートのまとめは、http://togetter.com/li/52350http://togetter.com/li/53145

ヨーロッパ在住の非常に優れた古楽奏者阿部千春さん(Vn.コンチェルト・ケルン等で活躍)による「バロックヴァイオリンコンサート」は10月8日(金)新高円寺のスタジオSKで。

上記の阿部千春さん・大井浩明さんによる「モーツァルト:作品2」昨年大好評の作品1に続きより充実の響きです。10月13日。(リンクでは大井さんの師カニーノとアッカルドの演奏引用で曲のサワリをご承知頂けます。)

野村誠さん・片岡祐介さん「音楽ってどうやるの」「即興演奏ってどうやるの」もっと早く知っていたかった好著でした。ご一読を強くお勧め致します。

oguraooi.jpg 日本で本場のカンツォーネを聴かせて下さることにかけてこれ以上の方はいらっしゃらない、青木純さんの今後のスケジュールは、こちらをクリックしてご確認下さい。

|

« プレイエルのピアノによるショパンリサイタル(2010.10.05) | トップページ | 白銀のうたびと・松平頼則(まつだいら よりつね)(2) »

コメント

松平頼則はどこまでも高く評価されていい作曲家だと思います。

投稿: キンキン | 2010年9月29日 (水) 00時28分

聴けば聴くほど、そう思います!!!

投稿: ken | 2010年9月29日 (水) 00時41分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 白銀のうたびと・松平頼則(まつだいら よりつね)(1):

« プレイエルのピアノによるショパンリサイタル(2010.10.05) | トップページ | 白銀のうたびと・松平頼則(まつだいら よりつね)(2) »