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2010年9月30日 (木)

白銀のうたびと・松平頼則(まつだいら よりつね)(2)

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松平自身は、よく知られるように、親藩石岡藩(常陸府中藩、現、茨城県石岡市)の末裔です。ただし、18歳の時には父が破綻し、以後、経済的には生涯厳しい環境に置かれた人でもあったそうですね。
彼は色合いとしては銀を好んだ人でした。

彼の色合いの変遷と確立の過程については、実例を聴きながら本人の言葉に耳を傾けるのが良かろうと思います。

「私は作曲を始めてから、いつのことか、音と色彩の関係について興味を持ちはじめた。・・・増4度あるいは短7度はセピアを感じるし、長7度あるいは短9度は銀を感じるし・・・従って、ドビュッシーの作品はセピアで、ラヴェルの作品は銀なのである。」(『松平頼則作品集II』ALM RECORDS ALCD-48)

そのような松平は、初期の「南部民謡集」【1930成立、23歳】では、まずセピア色の作品を描きます。(奈良ゆみ【ソプラノ】、野平一郎【ピアノ】)

(牛追歌第1)

それが次第に、松平自身にとってはかなりの時間を経てから、しかし私たちが受けるイメージよりはわりあい早い時期に、違うものへと傾斜していきます。

「主和音以外の終止和音や、異なる旋法の堆積【盆踊り】 bimodalite【旋法を調性とみなして】を使っても飽くまで調性を離れな」かった松平は、『古今集』【1945成立、38歳】で最初の脱皮をなしとげます。

「(第1曲)『谷風に』・・・私の作品は『早掻き』(註:本来、箏のもっとも一般的な奏法のひとつ。雅楽では早拍子の曲の中でもわりあいリズムに勝った部分に用いられている。増本喜久子『雅楽 伝統音楽への新しいアプローチ』67頁、音楽之友社 1968)というピアノのフィギュラシオンで始まり、和音はdo、mi、sol、si…7
の和音であるが、私の作曲上の理論では、1オクターブは二つの同じ形のグループからなっている。つまりdo、re、mi、faとfa#、sol#、la#、siは同型の二つのグループである。従って、do、sol=fa#、do#と見なせば、前述のdo、mi、sol、siはfa#、mi、do#、siで、これは箏の最初の四つの音(盤渉調)と同じ配置となって、雅楽的要素を含むことになる。」(同上)


「谷風に」(奈良ゆみ【ソプラノ】、野平一郎【ピアノ】)

(谷風に)

「・・・『古今集』などを書いているうちに、私はもうひとつの素材『雅楽』に出会った。・・・セピアの方は、私に臨場感(田園の実感)が乏しいことで、一生を共にする自信が持てなくなった。・・・セピアは、成功すれば金色に輝く。(ドビュッシーを考えてみよう。)ひとたびそのような自信喪失に陥れば、テクニックだけで書いてもそれは偽りである。・・・それ以後私は民謡を捨てた。」(同上)

『右舞』【1957、50歳】の急を聴いてみましょう。ベースは舞楽「納曽利 急」です。
(高関健 指揮、大阪センチュリー交響楽団、NAXOS 8.555882J)

(『右舞』の急)

下敷きとなった舞楽「納曽利」の急の部分を対比でお聴き下さい。(東京楽所、KING RECORDS COCF-6196)

(雅楽「納曽利」の急)

「このようにして私は『銀の道』を進めた。銀は白銀[プラチナ]になる。(ラヴェルの道を考えてみよう。)・・・いずれにせよ、『南部民謡』や『古今集』は、ドビュッシーやラヴェルへの私の若い日のオマージュなのである」(同上・・・以上、1998年5月筆)

大変に興味深いのは、今度の大井浩明氏《POC》第2回で併せて採り上げられる山本裕之さんの作風と対比すると・・・山本さんはべつに日本の伝統邦楽を下敷きにしたりはしていないかと思いますが・・・、山本裕之が後年拾い上げる、というよりそれについて徹底的に考えることになる中間的な音のニュアンスは、山本作品とはまったく逆に、松平作品では「点」として描かれているもののあいだから聴き手が感じ取るべきもの、聴き手に感じ取らせるもの、として松平作品に内在するようになっていっていることでして、この光る「点」の効果は、『右舞』で下敷きにされた「納曽利」の原曲と聴き比べることで際立ってくるのではないかと思います。

松平は、先に自作『古今集』の「谷風に」について述べたような自らの発見によって、雅楽の旋法を十二音技法に乗せることに成功します。

間が空いてしまいますが、『春鶯囀』オーケストラのための舞楽による【1992、85歳】の作から第1曲をお聴き下さい。(『松平頼則作品集』fontec FOCD2542収録、小鍛冶邦隆指揮、東京交響楽団)

(『春鶯囀』オーケストラのための舞楽による・・・第1曲、1992、85歳)

「松平頼則は日本における現代音楽の父と見なされている。彼の音楽はシェーンベルク風のドデカフォニーを雅楽に結びつける。彼の音楽はまったく非凡な音楽である。かれの音楽はひじょうに力強い。たとえ十二音音楽や日本の宮廷音楽と結びついているにせよ、私はこのような音楽を未だかつて聞いたことがない。それは素晴らしかった。十二音音楽の語法に新鮮さを取り戻してやったのは、雅楽に関連した、スライドしていく音の存在だった。」(ジョン・ケージ、1983、笠原映子訳 『松平頼則作品集I』ALM RECORDS ALCD-39)

ケージのような人物にはまだそのように聞こえるのかもしれませんし、『春鶯囀』第1曲等はそうした音楽ではありますが、松平の「銀」は、同国人の私には、むしろ音が雫となって自在に散る時に発する光によって、長い生涯の最後に至るまで輝きを増しこそすれ、決してくすんでいくことのなかった、まことに彼の目指した「白銀」への道を、細く長く進み続けたのではなかったか、と感じられます。そのあたりをもういちど考えてみたいと思っております。


ヨーロッパ在住の非常に優れた古楽奏者阿部千春さん(Vn.コンチェルト・ケルン等で活躍)による「バロックヴァイオリンコンサート」は10月8日(金)新高円寺のスタジオSKで。

日本人作曲家の作品を集中的に紹介する大井浩明さん《Portraits of Composers》(POC)昨日レポートの第1回2010年9月23日(祝)は満員立ち見客ありでした。以降、2010年10月16日(土、松平頼則・山本裕之作品)、010年11月13日(土)、2010年12月15日(水)、2011年1月23日(土)です。1回券はローチケ(ローソンチケット)で(おおむね前々日までの取り扱い、その後は当日券となります。満席にご注意!)・3回パスポート・5回パスポートはopus55にて入手出来ます。当日演奏される野村誠さん作品の解説こちら

ツイッタでの第1回POC関連ツイートのまとめは、http://togetter.com/li/52350http://togetter.com/li/53145

上記の阿部千春さん・大井浩明さんによる「モーツァルト:作品2」昨年大好評の作品1に続きより充実の響きです。10月13日。(リンクでは大井さんの師カニーノとアッカルドの演奏引用で曲のサワリをご承知頂けます。)

野村誠さん・片岡祐介さん「音楽ってどうやるの」「即興演奏ってどうやるの」もっと早く知っていたかった好著でした。ご一読を強くお勧め致します。

oguraooi.jpg 日本で本場のカンツォーネを聴かせて下さることにかけてこれ以上の方はいらっしゃらない、青木純さんの今後のスケジュールは、こちらをクリックしてご確認下さい。

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