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2010年9月25日 (土)

第1回POC 明暗の万華鏡(9月23日、大井浩明氏 於 門仲天井ホール))

----今回はピアノの内部奏法が多用されました。大井さんがいつでも質問を受け付けるとのことです。大井さんのブログからコンタクトをとってみてはいかがでしょう? 

http://ooipiano.exblog.jp/

アップライトでも出来るのか知らん? 前蓋は外せるけんど・・・

で。

うーん、どう綴り始めれば良いのか、まだ迷っています。タイトルも精一杯のごまかしです。

圧倒されっぱなしの演奏会でした。休憩15分を挟んで2時間半、曲の内容からすると大変な長丁場で、大井さん自身が最後に
「とくに最後のは【演奏者にとって・・・聴き手にはそうではないのですが】神経衰弱になってしまうみたいにきつかったので、今日はもう弾けませんし・・・かんにんえ」
と客席に向かって言うくらいの充実ぶりでした。

まとめてしまえば、色合いのまったく対照的な松下眞一作品と野村誠作品を交互に演奏することで、演奏者自身は非常な負担を引き受けながら、聴衆には2色に留まらない、いやそれどころか万華鏡のように変わる色彩と温度と湿度の違いを楽しんでもらう、なる、困難なプロジェクトの遂行であって、そうしたメッセージが(批判的な耳で聴こうと身構えてさえいなかったなら)聴き手のかたに充分伝わった、コミュニケート度の高い会であったと実感しております。・・・実際にお聴きになったかたが休憩時に驚嘆の念(「曲が入れ替わると空気が変わる、それぞれの作曲者の人格の違いまで伝わってくる!」なるご趣旨)をぼそっと漏らして下さいました。

一方の作曲者である野村誠さん自身の日記記事をお読み頂くのが、もっとも宜しかろうと存じます。

http://d.hatena.ne.jp/makotonomura/20100923

野村さんの文を読んで頂きさえすれば、以下の素人感想はお読み頂くのも無用・無駄かも知れませんが、ご容赦頂きたく存じます。あまり細かくならないように致します。

先述の通り、プログラムは、松下作品〜野村作品を交互に演奏する形で進みました。(以下、松下作品=松、野村作品=野)

前半
松:スペクトラ第1番(1964、ウィーンのウニヴェルザル社から出版〜家捜しすると今でも入手可・・・たとえばリンク先)〜「始源」を思わせる作品。ピアノ奏者による内部奏法あり。楽譜によれば三種のマレットを使い分けるところまでは分かりますが、そこから聴き取れる多様さは耳にして初めて明瞭になります。最後まで聴いた後で思い返すと、以降のスペクトラに比べれば松下眞一の個性が強くはなかった(同時代の先鋭的なものと同じ色合いだった)のかも知れませんが、それでも彩りの豊かさは驚嘆すべきものでした。

野:ロシアンたんぽぽ(2004、片岡祐介氏との共著「即興演奏ってどうやるの」執筆の頃)〜次に演奏された野村作品とともに、オリジナルはアコーディオン用。ロシアンなどというから冷気が漂うのかと思ったら、ふうわりあたたかくて、それがたしかに南欧風でもなく、北欧風に乾いてもいなかったので、「なるほどロシアン」でありました。ピアノ版初演。

松:スペクトラ第2番(1967、イヴォンヌ・ロリオに献呈、音楽之友社より『音楽芸術』誌付録として1970出版)〜日本神話(『古事記』)によるタイトルが付せられた6つの部分からなる、ということですが、私の鈍い耳、低い能力では6つを聞き分けられませんでした。ただ、最初の「オノゴロ島」は雫が落ちたところで明るく光るような気がし、おそらく第5曲の「海幸・山幸の物語(海底の国)」であったろう部分には、音でも闇が表現できるのか、という驚嘆をおぼえました。以降のスペクトラに共通する、暗色の背景にときおり激しい閃光が走り、また暗く沈み込んで行く語法の完全な萌芽を耳にし得る作品だったのではないかと思います。私にとってはこの作品は紫の闇に鈍い金色の閃光でした。

野:誰といますか(2004、前作と同時期)〜プログラムノートによれば、再現部のないソナタ形式で、第1主題はハ長調、第2主題は無調とのことでした。展開部のないソナタ形式というのはよくききますが、再現部のないソナタ形式というのは初めてです。「なんちゃってソナタ形式」のようです。まあ、考えないで聴かせて頂きました。相手探しに迷走してそれなりにまとまらない、のは野村さんならではのユーモアであり非計算であり、妙な言い方ですが、優しさです。ピアノ版初演。

松:スペクトラ第4番(1971、音楽之友社より出版)〜すみません、これは私にはよう分かりませんでした。20世紀音楽を聴き慣れていらっしゃる方には「(後半最初に演奏された第3番とともに)ここからが断然面白い」とのことだったようですが、そのあたりは私はツウではなく、聴き取れませんでした。10の断片を自由に組み合わせ可、で、断片7には窓があって下の楽譜を見通せるとか、断片10は上下逆さまにして演奏可能、とか・・・弾けたら楽しい音楽なのでしょう。伝モーツァルト(真作?)の「音楽のさいころ遊び」のようなものなのでしょう。ただ、ムードを聴いていると、ひたすら暗いのでした。傷ついた暗さ、などというものではないのですが。言いようが他にありません。本来なら数回、今回の大井さんによる「確定的ヴァージョン」で聴き直したいところです。聴き直さなければ把握できないのは私の能力の問題であるとして、他の「スペクトラ」同様、これは何度でも聴き直されるべき作品であるとの実感は持ちました。

野:ベルハモまつり(2009/3/25、「大井浩明Beetovenfries」最終公演於京都の為の作品)〜即興演奏の名手だったベートーヴェンについての大井氏からの示唆で作曲された、精神は似てアプローチは全く異なる即興の名人である野村さんが書いた「あっけらかん」名曲ですが、じつは野村さんがワークショップをなさった東京の世田谷区烏山小学校の障害児学級の子供たちの手になるフレーズがふんだんに用いられている由。野村さん自身がプログラムノートでお述べになっている通り、「子供たちは宝の山」を幸せに感じられる作品でした。ただし、オリジナルの即興演奏のテイストは捨て去って組み立て直されたそうで、そこはさすがに「大人の規律」があるのかな?

松:スペクトラ第5番(1973、秘書のレナーテ・グレゴール夫人に献呈、未出版、2009年?に再発見)〜絵模様のような、いや、まったく絵模様にしか見えない「譜面」を用いるのですが、その「譜面」がピアノの蓋に映って見えるのでそれを眺めながら聴きました。・・・どうして、この絵がこんなふうにちゃんとオンガクになるの? と、ただ驚嘆するしかありませんでした。これは大井さんならではのことです。「絵を楽譜と見て音楽に」は野村さん片岡さん「音楽ってどうやるの」にも述べられている作曲方法のひとつですが、松下作品のスペクトラ第5番は、記号性・記号の反復性は通常の絵画に比べれば確定的なものではあったと見えました。でも、第1番に続くピアノ奏者自身による内部奏法(使用マレットは三種)の醸し出す多色の香りは、第1番に比べると振幅がはるかに大きく、まちがいなく松下語の音楽であって、魔法にかけられたような思いがしました。京都公演の際には「譜面」の展示もあったようですが、東京公演ではそれがなかった(スペース的に出来なかったのでしょう)のが残念です。

「譜面」中の一葉は京都公演の時のチラシになっていて、こちらで見ることが出来ます。

http://ooipiano.exblog.jp/12896328/

緑色は鍵盤奏法、赤色は内部奏法、褐色はその積、ということだそうです。

野:DVがなくなる日のためのインテルメッツォ(2001、楽譜CDも容易に入手可)〜今回の会に先立って別記事を綴りました。CDで聴けるものと味の違う演奏でした。起伏は穏やか目の、それでいながら(あるいみでは意外にも)ロマン性の高いゆらぎを加えたもので、野村演奏の切々としたものとまた一線を画した、静かな印象がありました。

後半
松:スペクトラ第3番(1970、未出版、日本で平尾はるな・有賀誠門により初演)〜今回の打楽器奏者としての助演(共演と言ったほうが適切)は、京都公演と同じく宮本妥子さん。語彙が貧弱で赤面ものですが、たいへんに素晴らしい助演でした。基本的に内部奏法を打楽器奏者さんが担当するのですが、途中から鍵盤奏者も内部奏法を行ないます。さすがに2人の奏者を要するだけあって、「スペクトラ」のタイトルを付された一連の作品の中では、もっとも色彩の振幅の大きい音楽でした。・・・あとは言葉になりません。今回のライヴがCD化でもされたら、大変に意義深いと思います。

松:スペクトラ第6番(1984、未出版)〜全12曲のバガテルとして企画されながら、1ヶ月半で最初の6曲が作られたのち、残りは標題だけ残して作曲されなかった(か、未発見の)作品とのことです。・・・この後半6つの標題から、今回野村さんが委嘱を受けて「6つの新しいバガテル」を作りましたので、ここは松下作品が連続演奏されました。静かな昏い第1プレリュード、原義的にトラジディックな激しい第2プレリュードまででも第5番までに比べると具象性の強さを感じましたが、枯れていく空気を感じさせる「過ぎ去りし夏の風のあとに」、松下カラー全開の深い群青に銀の閃光が走る「深い闇の中の開裂」、珍しくユーモラスな、ペトリューシュカを連想させる「器械体操」、花が芽吹いては散る慌ただしさを早送りにしたような「モントルー公園の春」は、1曲1曲はそれとはまったく違うのだ、と思いながらも後期ロマン派的な湿り気をこちらに送り届けてくれた、それまでにない具象性を持った響きでした。

野:6つの新しいバガテル(本年、委嘱作品初演)〜上記松下氏の残した標題だけをヒントに(他の資料は委嘱者の示唆により参照せず)作曲されたもので、第1曲「フーリエ変換」は第3プレリュードとして位置づけられている通り、松下氏の響きを見事に引き継いだものでした。が、これは視覚的な「しゃれ」、フーリエ変換=ふりこ、が取り入れられており、この手の演奏を見たことがない真面目なわたくしにはショッキングでした。演奏者が体を前後に揺すり、前に傾いた時に和音を一つ弾く(単音のときがちょこっとだけある)、しかも、後半はへたくそな口笛まで交え出す・・・大井さん、とうとうきはったん?

第2曲は最終的に「アンダルシアに」との訳を採用していらっしゃいましたが、元はA l'andaluciaというタイトル。第3曲は「月の光」。この2つは他に比べると「純音楽」でありました。「アンダルシアに」は架空スペイン音楽とのことですが、架空性充分。「月の光」は、やはりワークショップで北九州の子供たちが生み出した4つのモードを幻想的に組み合わせた、「シンプルな」と言いながら、それ故に、標題に寄りかかって良いのなら、街灯の少なかった夜道の月明かりを思い出させてくれるような音楽でした。弾きながら「まだ雨降ってますか?」と言ったのは、第3曲でしたっけ、他の曲でしたっけ?やっぱりこの曲ではなかったなあ。記憶が乱れています。ともあれ、うっとり聴いていたところでしたので、びっくりしました。思わず「はい」と応えるところでした。・・・応えても良かったのかもしれません。

第4曲「シャンソン」と第5曲「語れや、君、そも若き折、何をかなせし」は、映像とのコラボ。第4曲映像撮影は泉山朗士さん、第4曲映像編集と第5曲映像は上田謙太郎さん。いずれも反復される映像とピアノ奏者の共演ですが、前者は映像の中の言葉とあるいは同期し、あるいは言葉に応ずるユーモラスなもので、音高が映像の中の声の高さと一致しているのが可笑しさを助長し、第1曲では笑いをこらえていた聴衆が、ここではとうとうこらえ切れずに声をたてて笑いました。後者は映像の老人の手がたどたどしく弾く音階にリアルのピアノ奏者がハーモニーで色付けするもので、表現形態こそ異なるとはいえ、松下氏の意図を野村氏流に見事に結晶化させたものだったと思います。
終曲の「主よ、主よ、そは現し世なり」はピアノ奏者がひとりでしょうぎ作曲による作品を演奏するという、聴き手に天国、弾き手に地獄のもので、これについては作曲者の野村さんが語っている以上のことを一アマチュアが述べるのは不可能です。前記野村さんの日記をご参照下さい。


日本人作曲家の作品を集中的に紹介する大井浩明さん《Portraits of Composers》(POC)、上記第1回2010年9月23日(祝)は満員立ち見客ありでした。以降、2010年10月16日(土、松平頼則・山本裕之作品)、010年11月13日(土)、2010年12月15日(水)、2011年1月23日(土)です。1回券はローチケ(ローソンチケット)で(おおむね前々日までの取り扱い、その後は当日券となります。満席にご注意!)・3回パスポート・5回パスポートはopus55にて入手出来ます。当日演奏される野村誠さん作品の解説こちら

ツイッタでの第1回POC関連ツイートのまとめは、http://togetter.com/li/52350http://togetter.com/li/53145

ヨーロッパ在住の非常に優れた古楽奏者阿部千春さん(Vn.コンチェルト・ケルン等で活躍)による「バロックヴァイオリンコンサート」は10月8日(金)新高円寺のスタジオSKで。

上記の阿部千春さん・大井浩明さんによる「モーツァルト:作品2」昨年大好評の作品1に続きより充実の響きです。10月13日。(リンクでは大井さんの師カニーノとアッカルドの演奏引用で曲のサワリをご承知頂けます。)

その他、10月のコンサートは日が近づいたらまたご紹介します。

野村誠さん・片岡祐介さん「音楽ってどうやるの」「即興演奏ってどうやるの」もっと早く知っていたかった好著でした。ご一読を強くお勧め致します。

oguraooi.jpg 日本で本場のカンツォーネを聴かせて下さることにかけてこれ以上の方はいらっしゃらない、青木純さんの今後のスケジュールは、こちらをクリックしてご確認下さい。

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