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2010年3月19日 (金)

興味深かった「2台のピアノによるモーツァルト協奏曲」第1回

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2台のピアノによる「モーツァルトピアノ協奏曲全曲演奏会」(東京3月18日、終了:小倉貴久子さんと大井浩明さん、京都4月3日・4日:河野美砂子さんと大井浩明さん、各々30名様限定です)詳しくは記事中のリンク先をご覧下さい。バナーをクリックすると大井浩明氏のブログ記事を閲覧出来ます。
なお、大井さんの新譜(ベートーヴェン:ヴァルトシュタイン・アパッショナータ)が発売予定日より遅れましたが入手容易になりました。HMVにリンクを貼ってあります。Amazonではまだ入手できないようです。



Sonatina東京の第1回を拝聴しました。

予告をきちんと読んでいなくて、小倉貴久子さんがお弾きになったヴァルタータイプの方は小倉さんのご所有だということに気が付いておりませんでした。(^^;
これが、明るくて広がりのある素敵な音色でした。
大井浩明さんがオーケストラパートを弾いたシュタインタイプのもの(ルイ・デュルケンモデル、オリジナルのメカニズムがシュタインに似ているため最近までシュタイン作だと信じられていたとのこと、ルイはフランダースの名チェンバロ製作者ヨハン・ダニエル・ドゥルケンの孫、1781年にミュンヘンに招かれた由。彼の制作楽器がシュタイン作と信じられてきた簡単な経緯は渡邊順生「チェンバロ・フォルテピアノ」p.619参照。東京書籍)は、対して渋めの音色で、対比が絶妙の、良い組み合わせとなりました。

フォルテピアノ、と呼ばれている楽器でもそれぞれこんなに音色が違うのか、と驚かれたお客様も少なくなかったように感じました。まして、双方ともウィーン風アクション(シュナーベル【鳥の嘴】型と呼ばれる)のものですから、
「ここまでちがうもんなのか!」
と感慨深く思われた方もいらっしゃるのではないかと存じます。
それぞれの楽器の詳しい中身までは浅学にして存じませんが、デュルケン(シュタイン系)のアクションがバックチェック--打鍵後のハンマーが跳ね返るのを防止する着地グラウンドみたいなもの--を備えていないものであれば、ヴァルター式(こちらにはバックチェックがあるはず)に比べ慎重な打鍵が必要となりますので、大井さんの、決して手首が高くならない演奏はこの楽器向けだったと言えますし、まさにそのことが功を奏して、ときにオーケストラそのものの色合いを鮮やかに感じさせながらも決して「派手ではない」ことが、小倉さんのヴァルターの明るさを引き立てる上でも大変に素晴らしかったと感じております。面白かったのは、第9番「ジュノーム」の終楽章の中間部、メヌエットになるところ、オーケストラでは弦楽器がピチカートだったはずですが、ここをハンドレバーを操作して(これはミュート効果でもあるものなのでしょうか、あるいはチェンバロのパフストップ的なイメージで装備されたのでしょうか)いかにもピチカート風に聴かせて下さってことでした。そうでなくても、全体に、この楽章はデュルケンモデルがモーツァルトのオーケストレーションそのものの響きを聴かせてくれ、やはり4協奏曲中の白眉であったと思います。

とはいえ、「ジュノーム」だけが特別、というのでなく、モーツァルトの自作第1作となる第5番、続く第6番、第8番「リュツオウ」とも、すでにモーツァルトの音楽スタイルが完成していることを思い知らせてくれる名作なのでして、ふだん聴くチャンスが少ないのが残念なくらいですから、いらしたお客様は非常にラッキーだったと言えます。今回演奏された協奏曲は、すべてザルツブルク時代の作ですが、クラヴィア協奏曲はこの時代の作品群の中でも「完成期」を迎えた熟練の手法で書かれているからです。

中で、「リュツオウ」はオーケストラがバックですと6番より地味ではないかとの印象を受けるのですが、今回の2台のフォルテピアノの演奏でその理由がちょっと分かった気がします。4作の中で、もしかしたら、もっとも古風な作風を保っているのが「リュツオウ」なのではないか、ということです。終楽章にメヌエットを置く(「ジュノーム」終楽章はあいだにちょっと洒落っ気で挟んでいる)方式が、ドイツの、モーツァルトよりちょっと前の世代の作風に通じるものがあるのです。結果として、「リュツオウ」はフォルテピアノ2台の方が華やかに聴こえる、室内楽的な性格を強く持っているのでした。

すべての協奏曲において、日本モーツァルトコンクール第1位(第3回、1988年)の実績を持つ小倉さんの雄弁な独奏は、各曲の中に大切に記されている「物語」をくっきりと際立たせ、感情表出を巧みに演出しながらも絶対にくずおれない確かさで、聴き手を魅了し尽くしました。
おでかけになった方々のなかから代表的な感想が、すでに小倉さんの頁に載っておりました。

http://www.h2.dion.ne.jp/~kikukohp/wadai.html

うーん、余分な付け加えを許さない感想ばかりです!

アンコールでは、モーツァルトがウィーンに出てから第5番を聴衆に披露した際のロンドが演奏されました。

ザルツブルク時代のクラヴィア協奏曲は、コンチェルトで使えるようなフォルテピアノが当時かの地になかったことから、チェンバロで演奏されたと考えられています。ですが、確かにどの協奏曲も、フォルテピアノによく似合うのは、そもそもモーツァルトの頭のなかにあった「響きの設計」が、いまの私達の聞き慣れているバロック盛期のチェンバロのものとは既に大幅に違っていたことを物語っており、なかでも第5番と第9番は演奏する楽器を制約しない、がっちりした構築がなされています。
それでもなお、1782年作のこのロンド(K.382)に至って始めて、モーツァルトの作り上げた響きは、フォルテピアノという楽器にピッタリ寄り添ったのだなあ、との感慨を深くした次第です。

日程未定ですが、3ヶ月に1回くらいのペースであと6回に分けて残る作品の演奏がなされるはずです。

非常に楽しみであり、日程があうかぎり拝聴し続けたいと存じております。

・・・それにしても、一晩に4つのコンチェルト! 演奏者にはたいへん! でも聴衆にはこの上ない贅沢です。しかも、最上の演奏でした。

最初に掲げた写真は、小倉さんの出されたCD「ソナチネ・アルバム」です。教材化したソナチネに本来の息吹きを取り戻した素敵な演奏です。書籍「カラー図解 ピアノの歴史」ともども、小倉さんの出されたもののなかでは最初にお聴き頂くのにふさわしい、親しみ深いものでもあります。お勧め致します。



日本で本場のカンツォーネを聴かせて下さることにかけてこれ以上の方はいらっしゃらない、青木純さんの「おすし de イタリア」は満員御礼、しかも定員オーバーでの終了でした。
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青木さんの今後のスケジュールは、こちらをクリックしてご確認下さい。

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コメント

Kenさん、18日のコンサートは素晴らしかったですね!
演奏会の情報を下さったことに本当に感謝しています。
一緒に聴きに行った母もとても感動していました。

フォルテピアノの柔らかな音、楽しそうに表情豊かに弾かれる小倉さん、
幾何学的なのに温かなライトの建築、何もかもが完璧に溶け合って
夢のようでしたね~。

モーツァルトの曲の楽しさを改めて感じた、というより、初めて
その神童の真の才能に気付かされたというか・・・
今まで持っていたモーツァルトに対するあいまいなイメージとは一線を画す、
各曲を彩り鮮やかに見せ付けてくれた、衝撃に近い演奏でした。

後半、Kenさんの勧めもあり2階席で拝聴でき、楽器の近くで聴くのとは
また違った新たなアンサンブルの魅力も堪能しました。
2台のフォルテピアノの構造的な違いについて休憩中に説明下さっていたおかげで
より興味深く聴くことができました!

私も次回もぜひ伺いたいと思っています。本当にありがとうございました。

☆小倉さんのページに掲載されたアンケートに、私の感想も混ざっていました。。
 何だか恥ずかしいものですね(^-^;

投稿: yukirche | 2010年3月23日 (火) 01時45分

yukircheさん

喜んで頂けて私も大変嬉しく存じます。
ぜひ、7回シリーズをやり遂げて頂きたいなあ、と願っておりますので、yukircheさんのアンケートの一文が載ったことはまた大変な喜びです(あ、これ絶対そうだ、と思っているのが目に入りましたもの!)。
モーツァルトの初期(じつは決して初期とは言えないのですが)作品の息吹きを活き活きと伝えてくれる演奏には、そう簡単に巡り会えるものではありません(表現過剰で崩れることが多いです)。そのあたり、バランス感覚もじつに上質な、しかもお客さんにそんなコントロールを気どらせないで流麗に演奏なさった小倉さん、堅実に受け止めた大井さんには、あらためて大きな拍手を送りたいと存じます。

今後とも応援して差し上げて下さいね!

ありがとうございました!

投稿: ken | 2010年3月23日 (火) 23時05分

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