« 最近のショパン演奏会のエピソードから:バッハ・モーツァルトのフォルテピアノ問題(1) | トップページ | 3.18、池袋にて:2台のピアノによる「モーツァルトピアノ協奏曲全曲演奏会」 »

2010年3月16日 (火)

クラヴィア協奏曲におけるバランス:バッハ・モーツァルトのフォルテピアノ問題(2)

oguraooi.jpg

2台のピアノによる「モーツァルトピアノ協奏曲全曲演奏会」(東京3月18日:小倉貴久子さんと大井浩明さん、京都4月3日・4日:河野美砂子さんと大井浩明さん)詳しくは記事中のリンク先をご覧下さい。バナーをクリックすると大井浩明氏のブログ記事を閲覧出来ます。
なお、大井さんの新譜(ベートーヴェン:ヴァルトシュタイン・アパッショナータ)が発売予定日より遅れましたが入手容易になりました。HMVにリンクを貼ってあります。Amazonではまだ入手できないようです。



自分の勉強の途上のトピックとして、が基本ですが、3月18日に小倉貴久子さん(独奏部)・大井浩明さん(オーケストラ部)が二台のフォルテピアノでモーツァルトの協奏曲を弾くシリーズの第1回目をなさるのにも関連して。その2。

3月18日に始まるシリーズは、フォルテピアノ奏者として実績と高い見識を誇る小倉さん・クセナキス弾きとして著名でありながら鍵盤楽器の古楽に過剰とも言える探究心を発揮し続けている大井さんによる、
「2台のフォルテピアノによるモーツァルト協奏曲全曲演奏」
という、非常に面白い試みであり、その幕開けです。(第5番〜モーツァルトの自作としては最初のクラヴィアコンチェルト、第6番、第8番、第9番「ジュノム(ジェナミ)」)

協奏曲を2台のピアノ用(ソロパートとオーケストラパートをそれぞれ1台とする)として出版された楽譜は豊富にあり、モーツァルトのピアノ協奏曲もそうした中に含まれているのですが、私は楽譜はチラ見程度しかしたことがないため、その来歴を知りません。
ピアノ(フォルテピアノと呼ばれているものもモダンピアノと呼ばれているものも包括して)のためにこうした楽譜が産み出されるようになたのがいつなのか、は大変興味深いトピックであり、もしかしたらそうした楽譜を豊富に手に取れば、なにか手がかりはあるのかもしれません。が、こんにち音大生のレッスン用として使われている、という以外に、過去それがどのような需要から発生したのかが分からないのです。
ただ、実際に、ピアノ協奏曲を2台のピアノで弾くというのは、レッスンだけで聴くにはあまりに勿体ない楽しさを持っていることは間違いありません。

他のケースで明白なものの典型はリストによる多くの独奏ピアノ・2台のピアノ用編曲なのですが、大半が有名交響曲やオペラ・歌曲関連のもので、協奏曲は含まれていないようです。
現在の2台ピアノ用編曲はだいたいはヘンレ版あたりをおおもとにしているのでしょうが、ヘンレ社は1948年の創立です。そこまで時期を待たなければならないのか、というと、非常に極端に遡りますが、J.S.バッハやF.バッハには2台のクラヴィアだけのための(一方がソロ部に当たり、もう一方がオーケストラ部に当たる)作例が存在しますから(ただしオリジナルが管弦楽伴奏版の編曲、というわけではなく、あくまで2台のプラヴィア用としてのオリジナル作品です)、出版事情はともかく、協奏曲を2台の鍵盤楽器で演奏するという享受のされかたの淵源は案外古いのかもしれません。・・・古譜のご事情に詳しい方から是非ご教示を頂きたいところです。
ともあれ、今回のコンサートの試みは、レプリカの元となった年代からしても、これは決して「モーツァルトの音を歴史的に再現しよう」なるものではなく、ある種斬新な・・・つまりは「古楽器」を用いながらも「歴史を追いかけるのではない」・・・方向性を模索する意欲的なものと言えるでしょうから、その新鮮さを聴き取るべきではないかと考えております。

使用楽器はヴァルター1795年のレプリカとルイ・デュルケンモデル1780年代(シュタインタイプとされていますから、アクションがシュタインに近いのでしょうか)のレプリカとのことですから・・・独奏部の方はヴァルターの方を使用するのでしょうか? であれば、表現の繊細さを重んじたシュタインの響きが、柔らかい上にも音量に幅のあるヴァルターのソロを際立たせ、音色もそれぞれの特徴が活きて千変万化する面白い演奏になるものと思います。(デュルケンのメカニズムは分かりませんが、モーツァルト生存当時のシュタインのメカニズムは素早い打鍵の実現を独自のエスケープメント機構で行なっていること、いっぽうでバックチェックがないためハンマーが弦を叩いた後再び跳ね上がって弦を2度打ちするリスクが避けられず、したがって大音量での演奏を想定していなかったことが想定される旨、渡邊順生氏『チェンバロ・フォルテピアノ』にメカニズム図とともに詳しく記されています。

フォルテピアノ、と呼ばれている楽器群は作られた時代にも・・・コンサートの実演向きという意味では・・・18世紀中庸から19世紀後半までと幅があり、アクションのメカニズムも現代のピアノより多様でしたから、シュタインとヴァルターでも音色が違いますし、そのあとの世代であるシュトライヒャーやブロードウッドもまた違った個性を持っていますし、プレイエルやエラールもまた全く異なった性格を示します。後に行くほど、音量もあります。

で、プレイエルでの録音例を室内楽との共演でしか見つけられませんでしたので、「フォルテピアノ2台」という今回の試みの産み出すものが何か・・・これは伴奏側をオーケストラに置き換えたときに、そのまま独奏部とオーケストラの音量バランス等に対し問題提起をなすものと捉えても良いはずですから・・・についてイマジネーションを膨らましておくために、こんな例をお耳におかけしておきたいと存じます。

モーツァルトのクラヴィア協奏曲第5番の最初を、まず、(モダン)ピアノとオーケストラでお聴きになってみて下さい。

Mozart K.175から(現代のピアノ)
モダン
デレク・ハン/パウル・フリーマン/フィルハーモニア管(1992) BRILIANT 92112/6

これが、独奏楽器をフォルテピアノにすると、バランスに対して配慮すべきことがこれだけ変わります。

Mozart K.175から(フォルテピアノ〜ヴァルタータイプとのことだが詳細不明)
フォルテピアノ
ロバート・レヴィン/クリストファー・ホグウッド/エンシェント室内管 PRDA-166

で、モーツァルトの初期のクラヴィア協奏曲は(ザルツブルクには1775年までピアノがなく、75年に大司教が入手しモーツァルトも気に入ったそれは、スクウェアピアノでしたから、協奏曲で使えるようなものではありませんでした)チェンバロ用に書かれたと考えられています。残念ながら初の自作協奏曲である第5番の音源は見いだせませんでしたので、他者のクラヴィア作品を編曲したものから第1番の冒頭楽章で、楽器がさらにチェンバロに変わった場合のバランスイメージを掴んで頂いておきます。

Mozart K.37から
チェンバロ
ロバート・レヴィン/クリストファー・ホグウッド/エンシェント室内管 PRDA-165

さて、モーツァルト以前にはカール・フィリップ・エマヌエル・バッハもクラヴィア協奏曲を数多く作っていますし、J.S.バッハにも作例があるのはご存知の通りです。
では、そうした協奏曲も含め、とくにJ.S.バッハのクラヴィア作品をいまのピアノで弾くことが「正当」なのかどうか、という、いまでも言い争いが耐えない話題があるのですが、その話は小倉さん・大井さんのプロジェクト第1弾を拝聴した後のことにしましょう。
もしゆとりがあれば、モーツァルトの時代とショパンの時代の「ピアノ」にどれだけの差があったのか、ということについては、あらためて触れておきたいと存じます。



日本で本場のカンツォーネを聴かせて下さることにかけてこれ以上の方はいらっしゃらない、青木純さんの「おすし de イタリア」は満員御礼、しかも定員オーバーでの終了でした。
oguraooi.jpg

F9120周年記念 ナーシャムジカマンドリンコンサート(川口雅行氏を迎えて)、大好評終了です。マンドリンアンサンブルにチェロとコントラバスが入るとオーケストラみたいな響きがする、との反響もあった模様です。

|

« 最近のショパン演奏会のエピソードから:バッハ・モーツァルトのフォルテピアノ問題(1) | トップページ | 3.18、池袋にて:2台のピアノによる「モーツァルトピアノ協奏曲全曲演奏会」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: クラヴィア協奏曲におけるバランス:バッハ・モーツァルトのフォルテピアノ問題(2):

« 最近のショパン演奏会のエピソードから:バッハ・モーツァルトのフォルテピアノ問題(1) | トップページ | 3.18、池袋にて:2台のピアノによる「モーツァルトピアノ協奏曲全曲演奏会」 »