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2009年12月16日 (水)

コユンババ

先に「順次ご紹介したい」と申し上げた森田茂さん、増井一友さんのCDに共通曲として収録されているこの作品に、非常に心を打たれました。

そこで、これだけは先に取り出して、お二人それぞれの演奏の特徴について感じたことを交えながらご紹介してまいりたいと存じます。

1949年イタリアに生まれ、ロッシーニゆかりの町ペーザロで学び、さらにベルリン芸術大学(の前身)で勉学を重ねたギタリストで作曲家、ドメニコーニの代表作です(1985年)。
しばらくドイツで活動したのち、トルコに移住して教鞭をとるうちに、トルコの伝統音楽に強く憑りつかれた人なのですね。
「コユンババ」というタイトルは直訳では羊飼いの親父さん、みたいな意味だそうですが、トルコの心を心底知り尽くしたドメニコーニは、このタイトルに様々な思いを込めたようです。
「コユンババ」の言葉そのものが、トルコ南部の荒廃した乾燥地帯との関連が深く、貧困と病魔に打ちのめされる人々の代名詞でもあるとのことです。
しかしながら、この作品、単純に「悲哀」に落ち込んでいるものではないところが、たとえばこれよりずっと以前に当時の東パキスタンの飢餓を歌い込んで話題をさらったボブ・ディランの「バングラデシュ」などとは一線を画しているといえましょう。ドメニコーニ自身がどのような意思を込めたかを超えて、この作品は社会問題の提起とか思想の表明とか、そうした限定的な枠を超え、ある意味で、個々人の中にしか生まれ得ない、それ故に、逆説的ながら、無限大の、無言の「精神の振動」とでも言えるような深みに達しています。日本の著名ギタリストである福田進一氏などが即座に絶賛したのもむべなるかな、と思います。

年代が新しいので、作曲家自身の演奏も入手できるのですが、音楽の「伝承」を検討するときには、他の演奏家による多様な解釈、そこから引き出される言語を超えた「各々のメッセージ」に耳を傾けるほうが収穫が多い、と感じております。

で、非常に面白いのは、森田さんと増井さんの、この作品に対する取り組みが一聴したときには非常に対照的であり、いずれも魅力的だったことです。

森田さんの「動〜多彩色」、増井さんの「静〜淡い色づかい」。

増井さんの作る響きが「風景を優しく霞ませる慈雨」なら、森田さんの構成法は「目覚めよと頬に打ち付けられてくる吹雪」です。・・・これは、演奏そのものの色彩感の差と矛盾するようですが、そうではありません。

対照的なようでいて、実は共通する色彩があります。
「白」です。

だからこそ、このお二方の演奏を聴き比べることには、非常に大きな意味を感じました。

森田さんのが「闇から浮かび上がる白」なら、増井さんのは「薄暗がりに景色の輪郭を溶け込ませる白」、ということになるかと思いますが、大元は、同じ純白だといっていい。
その、基調となる「白」の用い方の違いが、アプローチは異なりながら、同じ「慈愛」に集約されていく世界を築き上げる。

増井さんの「白」は、浮世の苦悩を救い上げるために用いられているかのようです。だからこそ(演奏の音そのものはぼやけることは決してないので、そこは誤解しないで下さい)、描線を「いとおしむようにやわらかくする」方法を採っている。
森田さんの「白」は、枯れ切った世界を埋め尽くし、新しい春に青々とした草木、色とりどりの花々を再生させるために用いられるから、激しいなかに様々な色光を反映させる「白」なのです。

「コユンババ」は4つの部分からなる曲です(増井さんのCDのトラック情報による)。
いま、4つの部分について、お二人の演奏の、唯一物理的に比較できる演奏時間について対照してみます。

1.モデラート (森田さん)3分18秒 (増井さん)4分29秒
2.モッソ (森田さん)1分30秒 (増井さん)1分41秒
3.カンタービレ (森田さん)2分55秒 (増井さん)4分10秒
4.プレスト (森田さん)5分40秒 (増井さん)5分48秒

時間の違いは、お二人のように技術が充分手の内にあり、音楽が心に充満していらっしゃれば、同じ大きさのキャンバスの上に描かれる線の太さや密度の違いであり、画風の違いをそのまま表すものと感じ取っておいても、ブレは少ないのではないか、と思っております。
管弦楽の聴き比べでは、こう明瞭にはいかないことが多いかと思います。

それぞれのCDのお問い合わせ先は以下のとおり。

森田さん:"Fantasie Honrroise" ピスケスアート http://shigeru-m.com
 
増井さん:"Nostalgie" http://www.homadream.com/catalogue/CD/HR1092.htm




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