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2009年2月12日 (木)

テンポ備忘録(聴き手のための楽典:番外)

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・・・是非、お目通し下さい。



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「テンポ」のことにつき、メトロノーム以前にはどう捉えられていたかを、自分のために若干、ここにメモしておきたいと思います。



クヴァンツは「フルート奏法」の第17章「当時のリピエーノが注意すべき義務について」のなかでテンポの重要性についても言及していますが、その§51においてAllegro系統とAdagio系統の諸テンポ(AllegroにしてもAdagioにしても、他の発想記号同様、原点は音楽の雰囲気を表わすものでしたが、クヴァンツの時期には既に速度標語としての意味合いも獲得していたことが、ここでの記述から伺われます)について脈拍数を用いて測っています。なお、脈拍は1分間に80程度を標準に考えているようですので、4/4拍子の方にはメトロノームに換算したらどれだけの速さになるかも併記します。

4/4拍子では
Allegro assai      半小節ごとに一脈拍(♩=160)
Allegretto        各四分音符に一脈拍(♩= 80)
Adagio cantabile    各八分音符に一脈拍(♩= 40)
Adagio assai      各八分音符に二脈拍(♩= 20)
 
アッラ・ブレーヴェでは
Allegro assai      各小節に一脈拍
Allegretto        半小節に一脈拍
Adagio cantabile    四分音符に一脈拍
Adagio assai      四分音符に二脈拍

・・・なんか、凄い極端な気がしなくもないんですが・・・私が計算を間違えたかなあ。
ちなみに、「聴き手のための楽典」と称して来た記事の2回目で自分自身を尺度に計算したAllegroは、私の一分間の脈拍数76を基準にした時、1分間に111くらいでしたから、assaiがつかないAllegroは脈拍を80に補正すると、117くらいになります。

繰り返しになりますが、Allegroがもともとはテンポ感ではなく、「気分を楽しく、明るく」という意味を持っている(現代のイタリアでも日常会話の中ではその意味で使われる)ことは、先の記事に記した通りです。
Adagioは、「ゆとり、くつろぎ」の雰囲気を表わすものだそうです。あるいは、慎重を要する時に高かけ声をかけられるようです。
assaiがつくと、それがどうして倍にまでテンポが加速され、あるいは引き延ばされるのでしょう?
この語自体は、英語で言うとveryに相当するものです。それを、もしかしたら、クヴァンツは、少々端折り気味に解釈して(何せイタリア人ではありませんから!)、機械的にassaiがつけば倍テンポ、と決めつけてしまった可能性はあります。
彼はこのあとさらにこまごま書いているのですが、省略します。(全音出版社の訳書268頁に書いてありますから。)ただ、上の数字を列挙したあと、
「特に4/4拍子にはいわば中庸の速さのAllegroがあり、これはAllegro assaiとallegrettoの中間である。そしてしばしば声楽曲やパッセージがあまり速くないほうがよい器楽曲に用いられる。これはPoco allegroとかVivaceと書いて示されることもかなりあるが、Allegroとだけ書かれることが最も多い。この際は3つの八分音符に対して1拍が当たり、第4番目の八分音符のところに2拍目が当たる。」
と記していますから、これによれば、クヴァンツの考えているAllegroの速さは120で、私の脈拍からの換算値と近い値になります。
難点は、クヴァンツのこの記述ではAllegroとVivaceには速度の違いがないことになってしまうことでして、気分を表す言葉としてのVivaceは「陽気に」とは異なりますから、物理的な速度だけが同じで雰囲気が違うだけだ、と捉えるのが適切だと言わんばかりです。Vivaceは「活気」のニュアンスを持つ言葉で、同時に(Allegroとは異なり)スピード感も含意していますから、ちょっとこの件は保留です。
プレストについての説明も別途ありますが省略します。・・・今日はもう、そこまで頭が回転していませんので!

なお、エマヌエル・バッハの著述も読んでおきたかったのですが、残念ながら未見です。



レオポルト・モーツァルトは、「ヴァイオリン奏法」で、数字ではなく、文章表現で速度を示しています。
第一章第3節§27に全部で(発想記号とこんにち言われているものと混在させて)33語あげていますが、速度に関わるものから幾つかだけ抜粋しておきます(同出版社 訳書36頁以下)

・Prestissimoは最も速いテンポを示し、Presto assaiはこれと殆ど同じです。
・Prestoは「速い」という意味で、Allegro assaiとほとんど違いません。
・Allegroは、活気があるが、とても速いというわけではなく、特に、形容詞や副詞で加減されている場合は急ぎません。(後略)
・AllegrettoはAllegroよりやや遅く、普通は快く、魅力的で、かっこうがよく、ふざけたがる感じがして、Andanteと共通点があります。(後略)
・Vivaceは生き生きという意味で・・・(中略)速いテンポと遅いテンポの中間ぐらいです。(後略)
・Andanteは歩くようにという意味です。この言葉自身が、曲が自然な進行をしなければならないことを示しています。(後略)
・Adagioは遅くという意味。
・Largoはさらに遅いテンポ(後略)
・Graveは悲しい気に、おごそかに、従ってとてもゆっくり弾きます。

これくらい、かな?
ちなみに、Andanteはイタリア語の会話の中では「歩く速さ」なる意味はもっていないそうで、レオポルトの説明で行くと、後半部分のニュアンス、すなわち、レオポルトの言葉をそのまま借りるなら、「自然な進行」を表わすだけだそうです。これに「歩く速さ」なる意味を付加したのはドイツ人ではないか、というのが、「これで納得! よくわかる音楽用語のはなし」(これまた全音楽譜出版社)のご著者の見解ですが・・・なんと、父ちゃんモーツァルトの記述の中にありました!(訳書なので原書もそうなのかどうか、は確認したいところですが。)



以上の二人も含めての、18世紀中葉頃のテンポ設定がこんにちのメトロノーム記号でどれくらいに当たるのかの詳細は、橋本英二『バロックから初期古典派までの音楽の奏法』(音楽之友社 2005)第3章に事典的に一覧表化されて載っています。
また、上記のクヴァンツの数字も含めて、ですが、バドゥラ=スコダ『バッハ 演奏法と解釈』(全音楽譜出版社 2008)第3章は「バッハの正しいテンポを求めて」とのタイトルでまとめています。ただ、その中に、「テンポに関する注意事項」という節があって、数字的なもの、当時の言葉の翻訳だけでは捉えきれないことが現代人向けに書かれていて、重要です。その中から・・・

2)18世紀におけるアンダンテは”前進する” 流麗な演奏を示し、しばしば”適度に速い”テンポだととらえられていました。したがって「モルト・アンダンテ」は「より速く」と言うことを意味します。(後略)

3)ヴィヴァーチェは本来テンポを指示する用語ではなく、「生き生きと」という意味の形容詞でした。

5)メヌエット(Menuett, Menuet, Minuet, Menuetto, Minuettaなど)は、フランスでは”適度に速い”テンポから”とても速い”テンポの舞曲です。テンポは♩=160(クヴァンツ)から(フォントがないので)付点二分音符=70(ラフィラール)の間と考えて下さい。(後略。バッハやヘンデルでより遅いメヌエットがあることをも示唆。)

こうした記述は貴重です。

迂闊にも付箋を貼っていなかったので探し出せませんでしたが、フランスの「バロック」舞曲を取り扱った書籍に、類似の記述があります。

してみると、余談ですが、ベートーヴェンの第1・第4交響曲の「メヌエット」は、スケルツォの前身なんかではなくて、やっぱりメヌエットなのです。(時代背景的にも、フランス革命期に重複しますから、メユールの音楽などから類推しても、まだまだ常識化している、フランスの影響を受けたはずのドイツ音楽の「遅いテンポ」は、おそらく時代考証をした場合には非正当なものなのではないかと思われます。



思ったよりいっぱい綴っちゃいました。
・・・備忘録、に過ぎないんですけれどね。スミマセン。

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コメント

迷ったのですが・・・ご連絡の手段がわからずsweat01
コメント欄に私信をすみません。不適切でしたら削除くださいね。

バッハの「音楽の捧げもの」のことでちょっと調べ物をしていて
偶然このページにたどり着き、とてもとてもびっくりしています。
同じビルで働いている者です。。と言ったらお分かりになってしまうかも?

今、ちょうど「これで納得!よくわかる音楽用語のはなし」を読んでいたところで。
去年から、クヴァンツのトリオを合わせたり、フルート奏法をぱらぱら覗く機会があったり。
ここ3年くらい古楽にとても惹かれていて、モンテヴェルディなどなど・・・毎日聴いていたり。

あまりに豊富な情報量にまだ一部の記事しか読めていませんが、
興味ある、しかも今の私とつながりの多い記事ばかりのページ・・・
つい興奮してしまい、一言お伝えしたくてコメントしてしまいました。

近々ぜひゆっくり音楽話、聞かせてくださいnotes
ブログも過去のものから少しずつ読ませていただきますね。

また改めてご挨拶に伺いますgemini

投稿: yukirche | 2009年2月14日 (土) 02時29分

うわあ、ヤバイ、見つかっちゃった!・・・って感じです (^^;
仕事は真面目にしてますからねー!
折にふれてノートにメモを取っておいたり、本に付箋を貼ったりして、それをもとにワープロ打って原稿にしてます。
・・・自分の精神回復剤として綴っています。
・・・なので、「ご内密に!」、ただし、後ろめたいことはしていません!

って、自分で弁護するところが怪しい!

記述に間違いがあれば遠慮なくご指摘下さい。勉強になることは何でも有り難いです。

お会いしてお話するのも愉しみにしております。

本当にありがとうございました!

投稿: ken | 2009年2月14日 (土) 12時12分

こんばんは。
テンポのお話、とても興味深く読ませていただきました。
この問題に関しては僕もいろいろと考えたことがあるですが、
いまいち不透明だったので今回の記事、とてもありがたいです。

テンポに関しては、評論家の安田和信さんによると
「曲中で頻繁に使用される音価を基準にテンポを決定する原則」
というものも18世紀にはあったらしく、
例えば4分の4拍子のAllegroでも8分音符が主体のものと
16分音符が主体のものでは速度が違うことがありうるそうです。
(弦楽四重奏曲ニ短調K421の第一楽章とか。)

総合すると、テンポを考える際に重要なのは
「拍子、発想記号、音価」
というところでしょうか。


>18世紀におけるアンダンテは…しばしば”適度に速い”テンポ

モーツァルトにおける「アンダンティーノ」が
「アンダンテよりも遅い」とされるのもそのためですね。
(逆に「ラルゲット」は「ラルゴよりは速い」)


>ヴィヴァーチェは本来テンポを指示する用語ではなく

これは少なくともモーツァルトには当てはまりそうです。
彼が器楽曲で「Vivace」とだけ指示している楽章の
例はなかったように記憶しています。
(ハイドンでは結構ありますが。)

この「Vivace」の発想記号は、
もうじきKenさんが考察されるであろう、
モーツァルトのパリ交響曲の第一楽章の異稿問題にも
とても影響してくるのでは、と少々ワクワクしておりますです。
(べ、別にプレッシャーをかけているわけではないですよっ。)


>ベートーヴェンの第1・第4交響曲の「メヌエット」は…

同感です。
特に第一番のメヌエットの本来のテンポは
現在、一般化している(?)テンポ設定より
かなり遅く感じられる可能性もありますよね。

投稿: Bunchou | 2009年2月21日 (土) 23時05分

Bunchouさん、こちらのほうこそ、間があいてしまって住みません。

>例えば4分の4拍子のAllegroでも8分音符が主体のものと
16分音符が主体のものでは速度が違うことがありうるそうです。

これは、クヴァンツの方だったかな、読んだ何かにはその旨記してありました。
記憶が曖昧でスミマセン。探しておきます。

ともあれ、時々断片的に
「ああ、あの本にこんなことが書いてあったなあ」
なんてもい出すことはあるんですが、ただそう思っているだけではなくて、時々、基本的なことについては、こんなふうに纏めておくべきもんだなあ、と、自分では痛感しました。
クヴァンツが脈拍で表わしているものと、レオポルドが文で表現しているものって、結構一致しているんだなあ、ということも、思い知りました。

>総合すると、テンポを考える際に重要なのは
「拍子、発想記号、音価」
というところでしょうか。

図星だ、と思います。

イタリア語彙の語尾には、気をつけないといけないですね
「イーノ」も縮小語なので、現在では「アンダンテより速く」に意味が転じていますが、古典派までは仰る通りですね。

>パリ交響曲の第一楽章の異稿問題

うわあ・・・ごまかして逃げたいとこだなあ! ヤバいっすよ。
・・・「どんどん先に延ばそう」戦略しかないなあ。。。

投稿: ken | 2009年2月24日 (火) 13時20分

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