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2009年2月 3日 (火)

「作品98」・・・作品番号の意味するもの:聴き手のための楽典005

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http://savedm.web.fc2.com/
・・・是非、お目通し下さい。


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http://ken-hongou2.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/sony-play-youcm.html


ブラームスの「交響曲第4番 ホ短調」には「作品98」という番号がついています。これを「作品番号」ということは、ご存じかもしれません。
でも・・・クラシック音楽には、なんでこんなものが付いていることが多いのでしょう?
そんな話、「楽典」の教科書には載っていませんよね。・・・当然といえば当然、音楽作品の内容には全く関係がないからです。

ですけれど、「聴き手」としては、やっぱり知りたいですよね、この番号に何か意味があるのかどうか。
残念ながら、探ってみた限りでは、webサイト上には(Wkipediaを含め)印刷物の事典に盛り込まれている記事はありませんでした。雑学としては面白くて情報も豊富なサイトもあるのですが、起源の追求がなされていません(「情報豊富」にリンクを貼ったこのサイト、なかなか面白く、よく調べていらっしゃると脱帽しましたが、遺憾なことにバッハ以前についてお調べになる気はもとからなかったようです)。・・・もちろん、そんな追求は私自身もできないので、大口は叩けませんが、「ネットの上でも、脇道にそれない情報が欲しいんだけどなあ」という寂しさを感じました。


まず、これまでブラームスの本作品からトピックを取り出し続けてきたのですから、彼の交響曲第4番がどうして作品「98」なのかを、ちょっと調べてみましょう。・・・といっても、おおまかな推測しかできないのですけれど。

彼の作品表の、楽譜の出版年まで分かるものが手もとに用意できれば、そのおおまかな推測ができます。
音楽之友社、作曲家○人と作品シリーズの『ブラームス』(西原稔 著、2006)の作品表と年表は、この点、非常に今の目的にかなっています。さまず、年表の方を参照すると、「作品」の欄には、若干の逆転はあるものの、作品がほぼ番号順にそろっているのが分かります。続く作品一覧で「初版」の年を参照すると、作品番号が、ほぼ作品の出版順に並んでいること、初演の年は、にもかかわらずかなり後である場合もあることが分かります。(早い時期に出版された例では、「作品6」は6曲からなる歌曲集なのですが、初演は1862年に1曲、1863年に1曲なされたのが最も早い方で、残りは1881年以後の初演となっています。ところが、出版自体は1854年。すなわち、演奏ではなく、出版の方が優先されて番号付けされていることが判明するのです。ついでですから、それ以前の作品番号の出版年を記しておきますと、作品1=1853年、作品2=1854年、作品3=1853年、作品4=1854年、作品5=1854年です。作品2と3の間の年の前後逆転は、出版社の事情が絡むかどうかは精査しなければ分かりませんが、おそらくそうではないかと推測しても不自然ではありませんよね。

すなわち、
・作品番号は、出版された作品に、出版(が手配)された順番で付けられたもの
と思ってよさそうです。


では、番号付けは誰がやったのか、というのが次の話ですが、19世紀以降は作曲家がやることが一般的になっていたそうで、近代的な意味での嚆矢はベートーヴェンであることが分かっています。ただし、かなり早い例外として、ハインリッヒ・シュッツが自分の意志で作品番号を振っていることが知られており、その「作品1」は1611年のマドリガル集です(白水社「図解音楽事典」参照)。

ベートーヴェン以前は、ハイドンにしてもモーツァルトにしても、作品番号付きの作品がいくつか存在するのですが、出版業者側が付けていた、とのことです。(モーツァルトの作品1は、7歳の時にフランスで出版されたK【ケッヘル】6、7のソナタですが、出版社に関連することとしては「ヴァンドーム夫人版刻。国王により充許。」の言葉があるとのことです・・・海老澤敏「モーツァルトの生涯」による。)この当時は、同じ曲を違う出版社が争って人気曲を印刷したため、作品番号に混乱が生じる場合もあったようで、読んだ限りの手元資料では確認しきれなかったものの、ヨーゼフ・ハイドンの作品にはそのような例が見られるそうです。モーツァルトの作品1は、先ほどあげたものの他に、22歳で出版したヴァイオリンソナタ集にも重複して付けられています。

いずれにせよ、「作品番号」は、楽譜の出版と密接に関わっており、基本的に出版の手配ができた順番で付けられたものだったのでして、これが付いている作品については、番号の近い他の作品の出版年と近い時期に「出版」されたことが分かる、ということになります。
気を付けなければならないのは、原則として「出版順」の番号ですから、必ずしも「作曲された順」にはなっていない点でして、ベートーヴェンでも作品136以降は作曲者没年後に付番されたものですし、今年が生誕200年のメンデルスゾーンになると、没後の出版作品に付けられた作品番号がかなりあるため、かなり初期に作曲された作品であるにも関わらず、作品番号80番台以降の番号が付せられたものが少なくありません。(たとえば交響曲第5番「宗教改革」は1829-30年に作られましたが、その出来に不満足だったメンデルスゾーンは生前にはこの曲を出版しませんでした。そこで、死後出版されたこの第5番の作品番号は107となっています。ちなみに交響曲は第2番から第4番までが第5番より後に作られており、それぞれ、作品番号は52、56、90・・・第4番の創作・出版事情については日本人の女性研究家による優れた文献がありますが、高価なので遺憾ながら手にしていません・・・です。)


では、作品番号が付けられていない曲に独自の番号が付いているケースがありますが(先の例のモーツァルトやハイドンのように)、これってなんなのでしょう?

web上の情報でいちばん不満だったのは、作品番号とこうした独自番号の混同です。

独自の番号は、その性質からして、むしろ「整理番号」と呼ぶべきものです。

整理番号には次のようなタイプがあります。

・特定の作曲家を詳しく研究して作品を整理した人の姓を呼び名としたもの
 (シューベルト=ドイッチュ、モーツァルト=ケッヘル、ハイドン=ホーボーケン、などが代表例)

・ドイツの作曲家について、作曲家のイニシャルの後にWV(Werke-Verzeichnis 作品目録)と付したもの
 (バッハ=BWV、ブクステフーデ=BuxWV、ヘンデル=HWV、シュッツ=SWVなど)

・やはりドイツ系で、作曲家を問わず、WoO(Werke ohne Opuszahl 作品番号のない作品)と付けたもの
(私個人はベートーヴェンとブラームスの例を見ました。他の作曲家でも使われているはずです)

その他のタイプも、もしかしたらあるかもしれません。


話は戻りまして、では、いつ頃から作品番号なるものがどこで付けられはじめたか、なのですが、これはルネサンスで活版印刷が盛んになったイタリアでのことでして、16世紀末から17世紀初頭(先ほどのシュッツの作品番号が付けられた頃)に登場し、流行るようになったとのことです。

平凡社音楽大事典にあげられている初期の例は、
・ヴィアダーナ(1564-1627):モテット集 "Motecta fesrorum..." op.10 (1657)
・パンキエーリ(1568-1634):"La barca da venezia per Padva" op.12 (1605)
・マリーニ(1567-1665)ソナタ集 "Affetti musicali" op.1 (1617)
でした。最初の2人はボローニャで、最後の1人はヴェネツィアで活躍した音楽家です。

ソナタやコンチェルトを3、6、12曲まとめて一つの作品番号として出版する例は初期のベートーヴェンまで継続して見られることですが、この習慣は17世紀後半に始まったようです。こうして付番された作品は、同じ事典によりますと、アルビノー二には作op.9まで、コレルリにはop.6まで、ヴィヴァルディにはop.13ないし14まで、ヘンデルにはop.7まで、クリスチャン・バッハにはop.22まで見られる、とのことです。クリスチャン・バッハのみ、作品番号の有無をすぐに確認できる資料をすぐに取り出せましたが、上の記述通りで、曲集でないもの(歌劇が代表例)には作品番号が付されていませんでした。

以上、今回は「楽典」からははずれた話になりました。

今後はいよいよ、曲の「形式」の話に触れていかなければなりませんので、やっと音楽自体をもお聴き頂きながらの説明となるかと思っておりますが・・・どうなることやら。


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コメント

こちらでは、はじめまして、お邪魔致します。
いつもJIROさんのサイト経由で、興味深く拝読しております。
ブラームスの交響曲第四番、つい先日演奏したばかりで
思わず、ぐぐっと引き込まれました。
作品番号ですか...我々、演奏する側としては
あまり意識していないのが正直なところです。
何番だろうが、出版社の都合だろうが
実際に曲を演奏するには関係ない、という感じでしょうか。
でも、そういうアプローチもあるのですね。
恐れ入りました、以後気を付けてみます。

投稿: ふっこ | 2009年2月 4日 (水) 18時48分

ふっこさん、コメントありがとうございます。
跳びあがるほどうれしいです!

作品番号は・・・演奏そのものには全く関係ないし、現状では出版にも「関係なくなった」ので、20世紀以降は付番する作曲家も急速にいなくなっていきました。ですので、この記事も音楽そのものには全く関係ないですね (^^;

でも、日本人は、ヨーロッパ音楽が入ってきた時、この「作品○番」というのには魅力を感じたのでしょうね。クラシックファンだった宮沢賢治は、詩に作品番号を付けたりしています。・・・もちろん、これは出版とは何の関わりもなく、だから、賢治のふところをあっためはしなかったんですけれど・・・心があったまればよかった、ということなのでしょう。

ブラームスは4曲ともいい交響曲ですね。練習しながら「この人はなぜもう1曲、交響曲を作ってくれなかったんだ!」って叫んじゃった指揮者は、サヴァリッシュさんでしたかね?

投稿: ken | 2009年2月 4日 (水) 20時07分

蛇足で申し訳ありません!
付けて下さったコメントで思い出しました。
ワタクシ、高校時代は文芸部所属だったのですが
書いた詩に、一時作品番号を付けていたことがあったのです!
本当に、今、正に、思い出しました。
恥ずかしくもあり、嬉しくもあり、ちょっと頭をかかえております。
ありがとうございました。

投稿: ふっこ | 2009年2月 5日 (木) 13時35分

ふっこさん、ありがとうございます。

詩に作品番号・・・いいですね!

音楽そのものは言葉では現せませんけれど、音楽の言葉が文学の中で「うまく」使われていると、独特の味が出てきて・・・上田敏の訳詩集『海潮音』なんかでも「ヴィオロン」なんていう響きがすてきだと思われたから、愛されたのでしょうね。

恥ずかしながら、私も中学時代には詩を書いていましたが、これが営利目的でして、入選すると景品がもらえるから、という不純な動機からでした!
ですので、中身がありませんでしたし、今では何をどう書いたかも思い出せません。(T_T)

投稿: ken | 2009年2月 5日 (木) 19時12分

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