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2009年1月23日 (金)

書籍紹介:玉木宏樹『クラシック埋蔵金』(多様な曲に出会いたいときに)

心臓移植への応援の願いサイト「大樹君を救う会」
http://savedm.web.fc2.com/
・・・是非、お目通し下さい。



大宮光陵高校管弦楽部がSONYのウォークマン"Play You"のCMに12月13日から出演しています!

先日、ご著者本人から旧ブログの方へ本書発刊の趣旨をコメントに入れて頂きましたので、せっかくですから拝読の上ご紹介しようと思います。

おそらく世の中にいくつもある「クラシック音楽」をメインに好き勝手を綴っているブログを一生懸命お探しになって上記コメントを入れてくださるに至ったのだと思いますが、肝心の実物を拝読した上ででなければ、そのご熱意を無にすることになります。

で、現物を拝読しました。



51mypgolgdl_sl500_aa240_結論から簡潔に申し上げますと、そこいらにゴロゴロころがっている「クラシック音楽入門」みたいな本よりは、良い印象を受けております。
「いい曲に出会いたい」
と思うときに、最初に手にとってもいいかもしれない本です。
とくに、

・その曲がどこの国の人によって作られたか、へのこだわりがない
・(近代以降の作品が主ですけれど)日本人が知る既存の西洋音楽史教科書へのこだわりがない
・「長い作品は全部聴かなければならない」などという無益な価値観へのこだわりがない

の、三つの「非こだわり」が本書の最大のメリットではないかと受け止めております。

そう、
「あのさあ、いい曲聴きたいんだけど・・・」
「どんな?」
「オレ、J-POPしか知らないんだけどさあ、あの、NHKなんかで流すみたいな、歌が付いてないけどいいムードの曲」
「そうか・・・ボクはJ-POPに無知なんで、それはおまえが教えてくれる、って条件付だけどな・・・」
なんて会話をしながら、この本をめくって
「これなんか、いいぜ!」
と薦めるにはふさわしい作品リストになっています。

私は通常CD紹介ばっかりの本は嫌って読まないのですが(CD評が面白くないからで・・・これは玉木さんも同じようなことを思っていらっしゃるんだなあ、ということが本文から伝わってきて嬉しく思いました)、この本ばかりは玉木さんがCDまで載せてくれていないと、いざ聴きたいときに困るものばかりなので、このことでも一般の音楽紹介書籍とは一線を画しているのではないでしょうか?
とくに(ちょっとマニアックに走りますが)、マショーの「ノートル・ダム ミサ曲」で選んでいるCDは、この作品の録音としては実験的な、当時の世俗音楽を交えて時代の雰囲気へのイマジネーションを膨らましてくれるものでして、珍品であると同時に、通常の「古楽」録音ではもうマンネリだ、と思っているかたにもお聞かせしたいものでした。

もっと平明な紹介はsergejOさんのブログでされていますので、併せてご参照下さい。



ただ、玉木さんが、頂いたコメントで(後掲)宣伝の謳い文句に
「不当に埋もれた」
というお言葉を使っていらっしゃるのは、まず

「これから<クラシックなるもの>を聴いてみたい」

と思っている人の手に取られるためには枷(かせ)となってしまうのが惜しいですし、一方で、選ばれた曲を拝見しますと、20代から40代までのマニアックファンならもう聴いているだろうな、という曲も、少なくとも3分の1ほどみいだせます。(たとえばカリンニコフは10年近く前にアマチュアの主に学生オーケストラでは爆発的に流行したことがありますし・・・これはご著者はお知りになっているようですが・・・、これも熱狂的なファンが多いショスタコーヴィチに関連してロシア音楽にのめった人ならば、ショスタコーヴィチ自身の「タヒチ・トロット」は間違いなく聴いていますし、ショスタコーヴィチファンの面白いところで、彼の周辺を巡る人々の作品、すなわちグラズノフやミャスコフスキーのものも結構聴いている。(グラズノフについては、所属オーケストラでその交響曲を演奏する際、資料がないので、私自身、グラズノフのオーケストラ作品のCDを探しまくってその解説を読み込んだり、恩師筋や弟子筋の伝記を読み漁ったりして、彼の伝記をまとめたことがあります。)
北欧関連では、私の所属するアマチュアオーケストラでもスヴェンセンの交響曲を演奏会で採り上げたことがあったりし、前出のショスタコーヴィチだけでなくシベリウスを専門に演奏する団体も存在することは結構知られていて、<自分の収入を気にしないで、みんなが気に入った曲を演奏できる>アマチュアのほうが、この点、プロオケよりも自由度の高い、あるいは自分達で決めたポリシーを貫き通して選曲をしているという実体もあります。
すると、こちらは「マニア」に対してもややインパクトが弱い。

何より、玉木さんの前説には、私は違和感があるのです。

クラシックファンがターゲットであるならば、そういう人たちがなお
「三大Bとドイツ音楽」
ばかりを聴いている、と思っていらっしゃるのかしら?
私は数年前に、尊敬していたプロのオーケストラ奏者に「ベートーヴェンは採り上げられることが少なくなりましたね」と申し上げたら「そんなことは無い!」と叱られて、「えー、ウソー!」と感じた経験があります。なるほど、国内プロオーケストラでは確かにベートーヴェンはまだまだ採り上げられる頻度は低くはないようです。ですが、10年前、20年前と比べても同じ割合を保っている、というわけではないはずです。いずれ統計でもとってみましょうか?
アマチュアの団体は、常時トロンボーンのメンバーをかかえることが多くなり、ベートーヴェンは勿論、ハイドンもプログラムに採り上げにくくなっています。クラリネットの入った作品の少ないモーツァルトは、なおさらです。

「年末の第九」はそんなに不愉快ですか? 違う世界の話だ、と思えばなんてこたあないじゃないですか? かつ、なぜ日本人に年末の「第九」が定着したのかはお調べになったことがおありでしょうか?・・・理由は明確とは言えないものの、定着への過程は、手に入り易い古書を含めて辿って行けば分かることです。

ベートーヴェンはロッシーニ嫌いだった、その影響でドイツ人作曲家もロッシーニに対抗心を燃やした・・・ですか? いえいえ、ベートーヴェンはロッシーニはホンネでは好きだったし、ベートーヴェン死後のドイツ歌劇運動はロッシーニへの対抗心がもたらしたものとは、正確には言えないはずですが?(ドイツオペラが直接対抗したのは、ベルリーニやドニゼッティ、マイヤーベアだったはずです。)

・・・と、最低、3点のひっかかりを感じました。
(もうふたつ言うなら、近代だけを取り出してイギリスが「音楽後進国だった」と明記してしまうのも、長い音楽史のスパンでものをみたときにはどうかと思いますし、「第九」は確かにナチに利用されましたが、ベルリンの壁が崩壊したときもチェコが独立を果たしたときも、記念すべき音楽として演奏されたのは「第九」だった、という事実もあるのでして、そのことを無視して「第九」を語るのは偏見です。)
そのあたり、もしこの本のような前説を設けられるのでしたら、時代時代の状況については、もっと客観的に捉えたものにしていただければよかったのだけれどなあ、と思っております。

以上、率直に感じたことですが、失礼を綴り、申し訳ございません。



なお、玉木さんが採り上げた作品(アルバム)151を、数の多い順に国別にまとめると、次のとおりですね。(複数の国にわたる作曲家については、メインと考えていいのではないか、と主観的にとらえた方に含めました。)

1位:アメリカ=25、2位:ロシア=22、3位:ドイツ=14、4位:イギリス=12、5位:ノルウェー・日本=8、7位:フランス=7、8位:スウェーデン=6、9位:ポーランド=5、10位:イタリア=4、11位:オーストリア・スペイン=3(但し、1つは古代ギリシャを題材としたもの)
以下、2曲の国はオランダ(フランドル時代を含む)、デンマーク、ベルギー、アルメニア、フィンランド、エストニア、ラトヴィア。
1曲の国はメキシコ、ペルー、アルゼンチン、アイスランド、グルジア、スイス、チェコ、ハンガリー、ブルガリア、トルコ、台湾、韓国、オーストラリア。
オムニバスまたは国が不明なもの6。



具体的な作品(アルバム)紹介にある安部幸明さんとのエピソードは、ちょっとジンとくるかも。


旧ブログに入った、玉木さんのコメントは以下のとおりですので、併せてご紹介しておきます。

作曲とヴァイオリン演奏の玉木宏樹です。
私儀、このたび「クラシック埋蔵金、発掘指南書」(出版芸術社¥1800)を上梓致しました。
不当にも埋もれてしまった名曲150曲を紹介していますが、今回、
http://8724.teacup.com/justint/bbsの掲示板を建て、作曲家名と作品名をお知らせしています。
一度ご覧になられてご意見,感想を賜れば幸甚でございます。

NPO法人 純正律音楽研究会のホームページもリニューアルしました。
http://just-int.com/
以上,よろしくお願い致します。
玉木宏樹

http://8724.teacup.com/justint/bbs


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sergjOさんの記事の便利なインデックスも是非ご活用下さい。


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