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2008年12月21日 (日)

曲解音楽史50)エリザベス女王の時代

Tokiomusikfroh200812
特別演奏会東京ムジークフロー演奏会(12/27)、是非お越し下さい。
(バナーはsergejOさんがご好意で作って下さったものです。)
http://ken-hongou2.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/1227-22d9.html



心臓移植への応援の願いサイト「大樹君を救う会」・・・是非、お目通し下さい。
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大宮光陵高校管弦楽部がSONYのウォークマン"Play You"のCMに12月13日から出演しています!
http://ken-hongou2.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/sony-play-youcm.html

前の回:1)音という手段 2)リズムの成立 3)音程から音階へ
    4)言葉と音楽  5)トランス 6)古代メソポタミア
    7)古代エジプト 8)古代インド  9)古代中国 10)古代ギリシア
    11)古代ローマ 12)初期キリスト教の聖歌について
    13)ササン朝ペルシャ  14)西暦5,6世紀ユーラシア音楽横断
    15)中世前半の西ユーラシア  16)唐朝と朝鮮・日本 17)「声明」の伝来
    18)モンゴルと中央アジア北方 19)「十字軍時代」の西ユーラシア
    20)日本固有(?)の古歌 21)グレゴリオ聖歌
    22)平曲と能楽:付)発声法について 23)アンブロジアン聖歌・ローマ聖歌
    24)西ヨーロッパ中世 25)ジョングルール 26)十字軍時代前後のイスラーム
    27)ペルシア伝統音楽〜中世からの遺伝子 28)インド中世 29)宋・元時代の「中国」
    30)日本の「オラショ」 31)ヴェトナム伝統音楽 32)インドネシア 33)東アフリカ
    34)イスラムと西欧の融合 35)ルネサンス? 36)フランドル楽派 37)16世紀スペイン
    38)16世紀中南米 39)15-16世紀イタリア 40)英仏戦争の頃 41)15-16世紀中欧
    42)オスマントルコ 43)アフリカ 44)明朝時代の「中国」 45)朝鮮中世
    46)戦国期日本 47)17世紀イタリア1 48)17世紀イタリア2 49)17世紀ドイツ



「イギリス」については、今回みていく時代の象徴であるエリザベス女王の父、ヘンリー8世の頃までを、(40)でみておきました。ですので、フランスはちょっと素通りしてしまうのですが、イタリア・ドイツからは少し遡って、また16世紀後半に時計の針を戻します。

「イギリス」と日本人が呼んでいる国は、ヘンリー8世の時代でもまだ成立していなかったことは前に見た通りですが、エリザベス女王の生前まではその延長線上にあります。イギリス史も新書でこの時代を知ることが出来るものが増えていますが、2000年発行の青木道彦『エリザベス一世』(講談社現代新書 1486)は単純にエリザベスの伝記としてではなく、<この国のこの時代>がどのような政治経済で成り立っていたかに分かり易く、しかし充分に触れながら記述していますので、彼女を主人公にした映画を見る際にも是非お読み下さいませ。

エリザベスの即位までの数奇な運命は有名な話で、父ヘンリー8世が打ち立てたイギリス国教会を圧迫して宗教面での支配を旧教に戻した前代のメアリ女王の元ではロンドン塔に幽閉されていましたが、メアリに夫のスペイン王との間の子が出来なかったことから、メアリの死に伴い王位継承者となった彼女は、最終的にはイングランドのそれまでのスペイン協調路線を捨て、イギリス国教会を復権させます。また、自身の死による後継者ジェームズ1世がスコットランド王でもあったため結果的にブリテン島がひとつの王国になる、という大きな変革を仲立ちした存在となりました。すなわち、エリザベス女王の時代は、現在の「イギリス"Great Britain"」の枠組みをほぼ決めた時代となったのでした。

スペインとの訣別には、宗教上の問題だけでなく、経済面での事情も大きく絡みました。すなわち、イングランドは毛織物で栄えたフランドル地方(スペインの属州でした)への、最大の羊毛供給国だったのですが、経済力を付け、かつカルヴァン派の信仰が染み込んできていたフランドルは、旧教派最大の旗手を自負する本国スペインから強い圧迫を受け、それがイングランドにもフランドルへの輸出量を減らさざるを得なくなるといった大打撃を与え、加えて新大陸に進出し大量の銀をヨーロッパにもたらしたスペインにより物価が大幅に下落したことも絡んで、厳しい不況にさらされることにもなっていました。そのあたりの事情は、上掲の本などをお読み頂ければよろしいかと思います。

一方ではフランスでの旧教新教の対立によるユグノー戦争に巻き込まれることを回避することで、一方では何度もためらいながら結局はスペインの「無敵艦隊(アルマダ)」を撃破したことにより、エリザベス朝のイングランドは、初めて本当の意味でヨーロッパ大陸から独立した、ひとつの国家を形成した、と見なしてよいのではなかろうかと思います。
ただ、旧教を信奉するアイルランドを、やや無策なまま強制的に自「帝国」にとりこもうとしたことが、今日に至るまでのアイルランド問題の縁源ともなっています。
このことを含めて、エリザベス1世の時代はこんにちへと繋がりを持つ象徴的な時代でもあったと言えるでしょう。



Elizalute女王自身がリュートも爪弾き(演奏姿の肖像画も残っています)ましたから、16世紀後半のイングランドでは「歌謡」が盛んだったことが伺われます。女王の時代の前半には、前々代のヘンリー8声の時代から引き続き重んじられていたタリスや、信仰面ではカトリック(旧教)であったため辛い思いをしたバードといった優れた作曲家の存在も特筆されなければなりません。とくにバードは信仰を度外視して女王が庇護した、と伝えられています。(個人的にはタリスよりバードの方に美しさを感じる、というわがままな理由から、今回はバードの方の音楽をお聴き頂きます。)

・バード「五声のミサ曲」からAgnus Dei

Tallis Scholars Gimell CDGIM 201

エリザベスと、次代のジェームズの端境期には、ロンドンの急激な人口増に比例して需要の伸びた娯楽のひとつとして演劇が繁栄し、シェークスピアがこの時代の寵児となります。
彼の戯曲には音楽を伴う場面がたくさん現れますが、それはときに壮大な戦争の奏楽だったり(「ヘンリー6世」など)、愛らしい歌だったり(「ハムレット」など)しましたが、やはり、そのセリフ自体が「歌」と呼んでも間違いではなかろうと思われるほど美しいのが最大の特徴でしょう。シェークスピアの戯曲は、イングランドの精神を象徴するだけでなく、音楽にも強い影響力を持ったのでした。

・ハムレットから"How Should I Your True Love Know"(作曲者不明)

Philip Pickett; Musicians Of The Globe Philips "Shakespeare's Musick (Songs & Dances From Shakespeare's Plays)"から

面白いのは、それ以前のイングランド歌謡にはフランドル楽派の影響があるのに対し、エリザベス期になると、むしろイタリアの、それもちょっと古めの「舞曲」的要素が色濃く現れてくることで、従って音律が大陸に比べて古体を保ったまま、以後のバロック音楽へと繋がっていくことです。
抜きん出た作曲家を採り上げることは難しいながら、また、ヴァージナルという簡易チェンバロの普及に伴って書かれた、この楽器用の音楽は、とくにジョン・ブルという人物の作品が彼と親交のあったスウェーリンクを通じ大陸にもたらされ、純粋器楽の先駆けの役割を果たしたことは特記するに値します。

・バードのヴァージナル作品"O Mistris Mine"

Philip Pickett; Musicians Of The Globe Philips "Shakespeare's Musick (Songs & Dances From Shakespeare's Plays)"から


この時代、イングランドは、フランドルとの貿易を妨げられたスペインに対する海上戦略から、国家公認の「海賊」がいたのも特徴的で、彼らはフランドル方面でスペイン船を襲うだけでなく、スペインに対抗して新大陸方面の黒人奴隷貿易にも積極的に関わり、それにとどまらず、新大陸を超えて太平洋にまで進出していきます。この次は、そんな中のひとりにくっついていって、当時の太平洋の様子まで覗いてみたいな、と思っております。

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