« 必読 「ピアニストになりたい!」 岡田暁生 | トップページ | ファジル・サイ in つくば »

2008年10月31日 (金)

「好きな曲」カテゴリを新設します

ちょっと、少年期に還ってもいいかな、と、思い始めました。

いま「聴いている」・「奏でている」ものを考えるだけでは見失っているものがあるんじゃないかな。
じゃあ、それに気づくために手軽にとりかかれることは、自分の原点を見つめなおすことなのかな、と。

クラシックを好きになりたての10代前半の頃、まだ当然レコードを買うお金を貯めるには時間もかかりましたし、そもそも何を聴いていいか、なんてことも分かりませんでした。カセットレコーダーなんてものも、最初は家にありませんでした。ラジオと、親がどこかから貰ったらしい2、3枚のレコードと、親の趣味で買った、クラシックをムードミュージックにアレンジした「フォノシート」が、「聴く」レパートリーを増やす手段でした。
録音を手元に持っていないので、前もってノートを用意し、放送される曲を新聞で調べ、たまたま家にあったジャンル別百科事典の「音楽」の巻をエンピツで引いた線だらけにして分かるだけのことを調べ、顔写真が載っていれば、ノートの上の方にその肖像のヘタクソな似顔絵を書いておき、放送を聴きながら、曲から受けたイメージをどんどん書きなぐる・・・それが、私の「音楽作品記憶術」でした。

中学から高校にかけては、むしろ、演奏に加わることで知る曲が多かったと思います。中学入学と同時にブラスバンドに入るも、翌年学区制で転校せざるをえなかった新設校にはブラスバンドが無く、学校に立った1本あったトランペットを独占して、そこいらにある曲を吹きまくって「そうか、こんな曲もあるのか」と知りました(その後は金管楽器には縁が無くなり、今では全然吹けません)。

ヴァイオリンを始めたのは小5から、と遅かったし、地元には目立った団体も無かったし、人脈もありませんでしたから、まあそこまでか、と思っていたら、どういう経路で情報が回ったのか、市内の高校生オーケストラから声がかかり、(1年浪人しましたから)都合4年間、そのオーケストラで弾かせてもらい、併行して、年長の団員さんが所属する室内楽団に参加させてもらったりして、放送では聴けなかったような作品も知り始めました。
それでも、大学のオーケストラに入った当時は、知っている曲の数は、同じ学年の中ではダントツに多かった。みんな今の学生さんほど「お金持ち」ではなかったし、ちょうど出始めたCDも財布にとっては割高でしたから、やはり、大学のオーケストラで演奏する曲、訓練で弾かされた室内楽を中心に覚えた曲の数の方が結果的には多くなりましたが、それだけ、「世の中にどんな曲があるか」に付いての知識は、自分だけでなく、周りの友人も貧弱でした。

ですが、そうした時期に知った曲の数々には、普段のようには理屈では書けない愛情を感じ続けています。
曲を知った時期の新鮮な思いを綴っておくことも、だから、悪くないな、と思いました。
・・・その代わり、それは、小学から中学時代に付けたノートに書きなぐったように、「理屈」であるよりは、出来が悪くても「おはなし」にしていければ、なおさらいいかも知れない。

ただ、最後に、選曲の仕方や記すにあたっての自分なりのルールは決め、お断りしておくつもりです。



子供たちが大きくなって来た頃、「クラシック名曲案内」的な本が世の中に出回るようになりました。クラシックのCDを論評する本も、ずいぶんと出回るようになりました。別に子供たちまで音楽好きになってもらうつもりはありませんでしたし、ですから実際こうした本を買うことは無かったのですが、
「これこそが名曲」・「これこそが名演奏」のような限定をしてしまう風潮には肯定できないものがあり、あまり嬉しく思っておりませんでした。
そこへ、一時期、そのお書きになった内容の純粋さから尊敬の念を抱いた音楽家Mさんが、ユニークな名曲案内書を出し、飛びついたのですが、結果的には飛びついてしまったことが最終的に私のMさんへの敬意を失わせてしまいました。・・・好意を持っている間は、その本の「血液型別おすすめ」・「星座別おすすめ」といった切り口はMさん一流のユーモアだと自分に言い聞かせていたのですが、ご商売で音楽をやるということには、(どなたもが、とは決して思っていませんが、Mさんについては)どうしても「名前を売りたい」・「自分を絶対化したい」欲求が見え見えであるような気がして、半年たった頃には熱が冷めてしまいました。
ただし、Mさんの名曲案内は、最後に『マタイ受難曲』の、私のような理解の浅いものにも理解を深めさせて下さる丁寧な説明がある点で、従来書とは一線を画していましたし、Mさんご自身は大変研究熱心なかただ、ということへの敬意は失っていません。
それでも、その後『拍手のルール』などと題した本までお出しになったのを瞥見してしまい・・・内容がこれまでのMさんのイメージを反転させるほど堅ければ好感に転じたかも知れないのですが・・・残念ながら失望が上塗りされただけで終わってしまいました。
Mさんはまだ東西に分離していた頃のドイツに滞在してたことがあり、今は違うタイトル付けをされた文庫に当時の経験談を綴っていらっしゃるのですが、その中に、西から東へ移動した際の二度とは得難い感触、忘れがたい「純粋な」エピソードがちりばめられています。そのうちのひとつを引用させて頂きます。東ドイツのある街で、ホームステイした先の子供たちと別れるシーンを採り上げましょう。どの部分を引用するかは、大変に難しいのですが、適宜省略しながら引いてみます。

「はるか彼方に、朝靄にけむる山並みが見え、その、最も高いいただきに、ひとつの大きな古城が、伝説のようにそびえているのが見えた。/『ワルトブルクよ」/スザンネがいった。/「タンホイザーを知ってる」/姉が聞いた。/「あの、歌合戦の場面のお城。あれが、アイゼナッハの自慢なの」/このお城、朝靄の中で見る時に一番美しいお城を見せてくれることが、ふたりがおれにしてくれようとした最大の贈り物だった。/それは、どんなに高価で贅沢な記念品をもらうよりも、おれの心に深く残った。(中略)この姉妹が、おれに会うために国境をこえようとすれば、機関銃で撃たれて殺されるのだ、ということを、当時はそれで仕方ないとされていた、まぎれもない事実を、思った。/もう会うことは出来ない。(中略)バスが走り出すと、二人は競争するように、手を振りながら走った。/おれも、ふたりが息を切らせて、とまってしまうまで、座席から身を乗り出して、手を振っていた。」(初名だけ上げておきましょう。『オーケストラ空間空想旅行』音楽之友社1997)。
・・・幸いにしてMさんの感じざるをえなかった悲劇は、その後解消されたのですが・・・

折角なら、このときのような「こころ」だけを結晶化させた著述だけなさってくれればいいのに、と、いまは寂しく思っています。いや、Mさんに限らず、音楽の現場にいる人たちには現場ならでは触れ得ない演奏や創作の感動を、聴く立場の人には聴くことによって受けた感銘だけを、「純」に綴り、結晶化させたものだけを、活字にして頂ければ嬉しいのだけれどな、と感じています。

前にも引用したバーンスタインの言葉をも、繰り返し載せておきましょう。

「音楽が伝えるのは物語じゃない。音楽は、何かについて表わすものでは決してないんだ。音楽は音楽、ただそれだけ。たくさんの美しい音符と響きがひとつになって、聴いていると喜びを得られるもの、これが音楽のすべてだ。(中略)・・・音楽を理解するのに、シャープやフラットや和音なんて専門的な知識なんか必要ない。音楽が僕らに何かを語りかけてくる。物語や絵ではなくて、感情を運んでくる。音楽を聴いて、心の中に変化が起き、そして音楽が僕らにくれるたくさんの感情に身をまかせることができたとき、そのとき僕らは音楽を理解したってことになるんだ。音楽とは、まさにそれに尽きる。」



そんな願いも込めて・・・私は私の反省をせねばならず、それにはたとえ素人体験からであっても、自分自身が「聴いた」・「奏でた」感動の初心にもう一度戻ってみよう、というのが、カテゴリ新設の主旨です。

ただ、出会った曲は長短さまざまで、とくに長い方は聴いて頂く上でも、私のメンテナンスの上でも、ちょっと大変ですので、ほぼ次のような基準で「好きな曲」を採り上げたいと思っております。

*なるべく、出会った作曲家の順番で、重複は避けて
*その作曲家の、5分前後の曲を(必ずしも私が出会った曲そのものではなく)
*原則として「モノラル」で

聴いて頂き、簡単に私なりの「イメージ」を綴る。バーンスタインが否定した「物語」になってしまうかもしれません。

なるべく自分が気に入った演奏例を上げたいのはやまやまですが、それがお聴きになる方によってはお好みに合わない場合もあるでしょうし、私の方の手持ちが、私の気に入ったものではない、という場合もあります。しかし、演奏の評価は「相対的」なものだと思いますので、どうしても自分から拭い去れない思いがある場合は開陳しますが、そうでもない限りはCD等のご紹介に留めます。

本日は、能書きのみ。


L4WBanner20080616a.jpg

クラシックCD検索に便利!バナーをクリックして下さい!

sergjOさんの記事の便利なインデックスも是非ご活用下さい。

|

« 必読 「ピアニストになりたい!」 岡田暁生 | トップページ | ファジル・サイ in つくば »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/208675/42966051

この記事へのトラックバック一覧です: 「好きな曲」カテゴリを新設します:

« 必読 「ピアニストになりたい!」 岡田暁生 | トップページ | ファジル・サイ in つくば »