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2008年10月26日 (日)

古楽のピッチ問題は(やっぱり)難しい・・・

一昨日に娘の師匠と話して面白がった「ピッチ」の話を、今日はオーケストラのK先生とお話してみました。先生は、日本での「ヨーロッパ古楽」演奏に先鞭をつけたお一人なのですが、そのことはあまり知られていません。それを周りは残念に思うのですが、ご本人はまるで頓着なし、です。好奇心とさえ心中できればいい、っていう感じです。
こんなかたですから、バロック当時のことに関しては、知識は「豊富」どころではない。いま、現場ではなく単純に教鞭をとるかたちでだけ「古楽」を眺めている学者さんでは絶対にそこまで及ばないほど、「良くこんなことまで知っているな」と呆れるくらいご存知です。

実は、事前に、この間橋本英二氏がご著書に掲載していたプレトーリウスの音楽論について、より詳しい本があるので、それを確認しておきました。高価な本なのでその時の手持ちがなく、あとで少しでも安く入手したくて古本でゲットすることにしました。
フランスバロックについては、「歴史的観点から」というよりは現代での演奏実践の面から書かれた、竹下節子『バロック音楽はなぜ癒すのか』(音楽之友社 2003)という、フランスバロックで(この延長線上に21歳のモーツァルトがパリで<書かされた>バレエ音楽もあるのですが)舞踏が重視された経緯について実感できる良い本があるのですが(ネットのお仲間にご紹介頂き、いま読んでおります)、ドイツバロックについていい本があることは知りませんで、このプレトーリウスの「2種のピッチ論」の事前確認は偶然の産物です。この入手しようとしている本(佐藤望「ドイツ・バロック器楽論」慶応義塾出版会 2005)には他にも音楽用語の混同の問題などが扱われていて、非常に価値が高いのではないかと思って、とりあえず確認できることだけを確認しておこうと思って、ピッチ問題についての記述を捜したのですが・・・ピッチに関してはまったく採り上げられていませんでした(音律についてはかなり詳しく調べ込んであります)。
で、肝心のプレトーリウスですが、たしかに音楽については「高い音楽」と「低い音楽」に二分して捉えているのですけれど、ここで彼が「高い」・「低い」と言っているのはピッチの話ではないのです。
ご著者自身の喩えを記憶にそって要約すれば、
「高い音楽」=神への奉仕・人々の徳化などに資する音楽
「低い音楽」=いわゆる娯楽のためだけの音楽
ということだけしかありません。

うーん、器楽論の本だから、声楽のピッチ、ということについては載せていないのかなあ・・・?
それとも、「高い音楽」=「宗教音楽を含む」から、ピッチが高くって、「低い音楽」=「俗っぽい」からピッチが低い、というふうに、音楽の価値付けとピッチに相関関係を持たせるようなシンボリズムがあったのかなあ・・・?

そんな素朴な疑問を持って、「あの、教えて頂きたいことがあるんですけれど」と質問をさせて頂いた次第です。

「いやあ、そういう相関関係は、なかったと思うべきだよ」
と、あっさり、そういうお答え。
「でも、オルガンのピッチは、通常はかなり高めですよねえ」
「北ドイツのオルガンはね、おおむね高いんだよ。(以下略しますが、すなわちa'=)500を超えるものもある。460から470程度、って言うのが標準的なところなんだけれどね。逆に、フランスだとだいたいが430前後くらい、って、低いの。お金持ちだったから。・・・お金持ちだと(パイプの長さが欲しいだけ長くとれるから)ピッチが低かったってわけ」
「ほほう!」
バロック期までは、フランスは他のヨーロッパ諸国より財政が豊かだったことは確かで、上の話は歴史と符合します。
「だから、ピッチの高低は、モラルとは関係がないな。だってさあ、お互いに離れた地域とか演奏の場で、どっちが音が高いとか低いとか、比べられないでしょ。」
「なるほど・・・」
一昨日のトロンボーンの話も、そういえば本質的にはピッチの高低と関係がありません。ただシュッツの書法を自然に演奏するにはA管でなければならない、というのが話の芯ですから、トロンボーンの先生のお話と齟齬することもありません。
「そういえば、モーツァルトのシンフォニーに、ニ長調なのにフルートだけ調号なし、ってのがありましたよね・・・校訂版の楽譜では修正されちゃってるんで何番だか忘れましたけど。まあ、これはちょっとオルガンとは事情が違いますけどね」
「いや、違わないと言えば違わないかもしれないよ。バッハのカンタータかなんかに、たしか面白い作例があったな。全体の調はヘ長調なのにね、オルガンは変ホ長調で書いてあるの」
・・・私も先生も、具体的にそれがどの作品だったかはとっさに浮かばず。脳の老化レベルは一緒?・・・でも、知識の確かさは、違う。

ウチに戻ってから、またオルガンのピッチ例を、ネットや文献で捜してみましたが、時間制限もあるし、どの本にどうかいてあったかも思い出せないし、とりあえず「ジルバーマンオルガンは460程度で調律されているのが標準」であることが確認出来たに留まりました。

「今度、ピッチ表を持って来てあげるよ」
と仰って下さったK先生に期待するしかないのですけれど、自分でも「根拠のはっきりした」資料探しには努めて行きたいと思っております。

・・・謎が、深まってしまった。。。


10月27日付記)
秋本道雄『パイプオルガン』(ショパン社、2002)によれば、ジルバーマンオルガンのピッチが現在のように460程度と高いのは、19世紀末に殆どのものが改修され、その際パイプを切断したためである旨掲載されていました。バッハ当時には現代のピッチ(a'=440?)より2半音(ほぼ全音)低かったそうです。(224頁)。この記載の裏付けもとりなければなりませんね。


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