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2008年9月30日 (火)

モーツァルト:「鳥よ、年ごとに」・「寂しい森の中で」

ここまで読んできたモーツァルト作品の個々へのリンクを作成し直しました。ご利用下さい。



フランス語のよるこの2つの歌については、まず聴いて頂きましょう。

・「鳥よ、年ごとに」K.307

・「寂しい森の中で」K.308

エリー・アメリンク(ソプラノ)/イェルク・デムス(ピアノ) EMI T4988 006 60885 6

NMAでは第10分冊に収録されていますが、訳詞を参照したい場合には全音出版社などから出ているモーツァルトの歌曲集をご覧になった方がいいでしょう。


両曲とも、1777年10月30日から翌年3月14日までの間に書いたとされています(NMA第10分冊)。 始めの日付はモーツァルト母子がマンハイムに着いた日、終わりの日付はマンハイムを出発した日です。 すなわち、「マンハイム滞在時期に書かれた」という以外に、なにも分からない、ということです。 ただし、フランス語であることにだけ注目すれば、マンハイムの次の目的地はパリですから、そちらへの手土産、すなわち就職活動の入り口として書かれた可能性はあるでしょう。ただ、そうだとしたら、なぜ「歌曲」という、ある意味で私的な場所でのみ演奏されるのが普通だと思われるジャンルを選んだのかは、書簡等を仔細にあらいなおさなければ推測も出来ないでしょう。・・・ただし、以下に述べるようなことは明らかになっており、推測されています。それに従うならば、「パリへの手土産説」は薄れます。
いちおう、アインシュタインによれば、これはグストル(アウグステ)・ヴェントリング嬢の為に書かれたことになっています。たしかに、書簡によれば1778年2月7日付けの書簡にはモーツァルトがマンハイムのこの若い女流歌手のために、彼女から提供されたフランス語の歌詞に「1曲の」フランス語歌曲を描いた旨が記されています。

作品表上、モーツァルトの真作とされている「伴奏付き歌曲」は36曲(西川「モーツァルト」)で、このジャンルに含まれる先行作は3曲ありますけれど、K.307、K.308の2作は、モーツァルトにとって初めての「歌曲らしい歌曲」であり、CDでも歌曲の選集には必ずと言っていいほど含まれています。

アインシュタインはこの両曲を楽譜の副題に従って「アリエッタ」と規定する一方(楽譜にそう記されている以上は、聴いた印象がアリエッタでなくても仕方のないことでしょう)、別の個所では「シャンソン」として触れている、との混乱を起こしています。それはあながち間違いを犯していると言って片付けていいものではないことは、アインシュタインが精査して述べているところを参照すれば分かります。モーツァルトが2曲ずつの2つのドイツリート集を、生前いずれも「ドイツ・アリア集」と名付けて出版していることを、彼は明らかにしています。つまり、モーツァルトにはシューベルトと同じ意味での、私たちが単純に「歌曲」と訳す意味合いでの「リート」を作っている、という意識は持っていなかった、ということなのです。
この事実を元に、今回の両曲のような作品も、聴いていて「オペラ」的な要素は今日の私たちには全く感じられないにもかかわらず、モーツァルトは世俗的声楽曲を書くときでも常に「オペラを書きたい」という意識が念頭にあった、と推測しているわけですが、これはモーツァルトの時代においては、むしろ自然な発想だったことでしょうから、充分納得がいく見方ではないかと思います。

とはいえ・・・いえ、だからこそ、と言うべきでしょう・・・K.307とK.308は、モーツァルトにとって、初めての「歌曲」らしい「歌曲」です。シンプルながら、歌詞の意味を深く追いかけた、情感溢れるメロディは、1777年に彼が揉まれた波の激しさ(その後に襲ってくる大きな幾多の波に比べれば、それはまだたいしたことはなかったのですが、それでもミュンヘンへ旅立つ前後、そののちマンハイムでも結局思うように<花>を売り込めなかった厳しい現実)を忘れさせるほど、ウブで純粋です。


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