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2008年7月31日 (木)

モーツァルト:2つの宗教曲(1777)

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先に見たように、ミサ曲では「極度な小ささ」の中に、感じる人には感じたであろうスパイスを盛り込んだモーツァルトでしたが、同年に作曲された2つの小宗教作品(Carus版のスコアでは共通して<モテトゥス>と呼んでおり、モーツァルト自身の作曲の姿勢においては、そうした共通性があったと見なすことは妥当であると思います)においては、丹精こめた繊細な筆致を見せています。

Graduale "Sancta Maria mater Dei" K.273(Violaがあるので、大聖堂向け作品では無かったでしょう)
Offertorium de B.V.Maria "Alma Dei creatoris" K.277

の2つがそうです。

Carus版では、これらは「ほぼ同時期に」作られたのではないか、と推測しています。曲がいずれもヘ長調であり、形式こそ前者はソナタ形式、後者はコーダ付きの複合三部形式、と異なっていますけれど、書法や雰囲気、テキストが当時の真作であったと推測されることなどからして、同時期作曲説は肯定して良さそうです。

また、この年には教会ソナタ3つ作っていますが、うち2作は編成が拡大しているところに特徴があり、なぜこのような拡大が行なわれたのかに興味をそそられます。但し、今回は読譜が間に合わなかったので、この3作については別途取り上げる事と致します。



後回しにした教会ソナタを含め、これらの作品は、
「大司教がお決めになったザルツブルクのミサの音楽はこうですよね・・・ならば!」
と、本編のミサ曲ではないところで、モーツァルトは自分の音楽の成熟度をアピールする心積もりがあったように感じられます。

カトリックのミサの式次第を確認しておきますと(過去に詳しく観察したことがありますが)、大まかには次の通りです。(固)は固有文、(朗)は朗読または朗誦で、(通)とあるのが、普通、「ミサ曲」と称して作曲される「通常文」の部分です。以下は全てを執り行った「荘厳ミサ」の場合の「プログラム」です。(起源についてはリンクした記事をご覧下さい。)

1)シナクシス(言葉の祭儀)

(固):入祭唱
(通):あわれみの賛歌(Kyrie)
(通):栄光の賛歌(Gloria)
(朗):集祷文
(朗):書簡
(固):昇階唱     
(固):アレルヤ唱(Alleluia)
(朗):福音書朗読(Evangerium)
(通):信仰宣言(Credo)

2)エウカリスティア(聖体の祭儀・感謝の祭儀)

(固):奉献唱(Offertorium)
(朗):密誦(Secreta)
(朗):序誦(Praefatio)
(通):感謝の賛歌(Sanctus)
(朗):カノン(奉献文)Canon
(朗):主祷文(Pater noster)
(通):平和の賛歌(Agnus Dei)
(固):聖体拝領唱(Communio)
(朗):聖体拝領後の祈り(Postcommunio )

(通):終祭唱)Ite missa est 「これにて解散」 )

このうち、ザルツブルク大司教ヒエロニムス・コロレドが省略したのは、モーツァルトがマルティーニ神父に当てた書簡では固有文、朗読・朗誦部分については判明しませんけれど、奉献唱(Offertorium)以外の固有文はグレゴリオ聖歌のうちの短いものでなされたかもしれません。また、モーツァルトがそこに音楽的な活路を見出した奉献唱(Offertorium)が新歌詞を扱っていることから推測するに、朗読・朗誦の部分も、福音書朗読(Evangerium)以外は極力切り詰められた可能性があります。なにせ、45分ですべてを終えなければならないのです。



で、先にK.277(これは大司教のミサで演奏されたかもしれませんので)を見ておきますと、もしこのOffertoriumがモーツァルトのものであれ他の作曲家のものであれ通常文全てを歌ったミサ曲と同じ機会に歌われたのだとすれば、モーツァルトの短いミサ曲から見積もると、通常文だけで20分から25分、と、全体の半分以上の時間を取っていたことが前提となるはずです。K.277の演奏時間がほぼ5分、教会ソナタ(書簡か福音書朗読時に演奏されたでしょう)がほぼ5分・・・これで、ちょっと余分に見て35分。残りは10分です。・・・これは「荘厳ミサ」の場合の時間です(短いミサだったら、もっと切り詰められるのです)。となると、入祭唱、集祷文、昇階唱、アレルヤ唱、密誦、序誦、奉献文、主祷文、聖体拝領唱、聖体拝領後の祈り、終祭唱が短縮の対象です。・・・11セクションもあります!ということは、平均各1分でこれらの部分は終了、とあいなるわけです。
・・・ま、。終祭唱はひとことで終われるし、アレルヤ唱も15秒程度。他が30秒程度なら、全部でせいぜい6分ですから。書簡か福音書朗読の、教会ソナタを伴わなかった方にその分の時間を割いたのでしょうか。
・・・いずれにしても、教会までもが「心よりも効率を」という近代以降の「時間感覚」が、こんなところにも見られるのは、興味深いことです。
K.277の作曲時期は1777年の夏から秋と考えられていますが、演奏は、アインシュタインは、先日取り上げたK.275と同時に演奏されたものと推測しています。編成が同じであることがその理由で、ド・ニもそれを容認しています。Allegroで4拍子、104小節ですが、37小節までが主題A、59小節までが主題B、83小節までが主題Aへの(変形された)回帰、以降、20小節もの長きにわたってコーダが付されており、アインシュタインが言うようには、決して「単純な簡素さ」で出来上がっているわけではありません。


"Sancta Maria mater Dei" K.273の方は「昇階唱」です。先にちょっとことわりましたとおり、ヴィオラを含みますので、大司教のお膝元用の曲ではなかったと思います。聖ペテロ教会のためのものと推測されており、作曲された(もしくは演奏された)日付も9月9日であることが明らかになっています。Allegro moderatoの、4拍子、73小節の作品ですが、特筆すべきは、とくに定型的な歌詞ではないのに、音楽がソナタ形式、すなわち通常であれば器楽に適したかたちで作り上げられている点です。30小節までが呈示部、56小節までが展開部、残りが再現部およびコーダとなっています。こうした構成のおかげで、他の声楽作品に比べ、器楽の古典派作品に耳が慣れている私たちには安定を感じさせてくれる作品です。

Carus版スコアは40.048/07。K.273のオルガンパートに補筆が加えられていますが、誰の手によるものかは分かりません。自筆譜が現存していますが、ニッセン(モーツァルト没後のコンスタンツェの夫)が注を書き入れています(現プロイセン国立博物館所蔵、ベルリン)。K.277については自筆譜は無く、スコアはパート譜から復元されたものです。両曲とも、原典はNMAと同じだそうです。

K.273は、ずっと以前はウィーン少年合唱団による名演があったのですが、いまは探しても見当たりません。2作とも単独CDは私には情報が得られませんでした。組み物ではケーゲル盤とアーノンクール盤があることを確認しており、ケーゲル盤の方は耳にしたことがありますが、モーツァルトのイメージしていたテンポよりは遅いのではないかと感じました。アーノンクール盤は値段の関係で手に出来ておりません・・・単独盤の名演探しは、またBunchouさんを頼るしか無いか・・・(あ、頂いているコメントへのお返事は少しお待ち下さいませ。ゴメンナサイ。)

8月2日付記)ランスロットさんのご紹介で、両曲とも映像がYouTubeにあることが判明。
拝見しましたが、お勧め出来ます。埋め込みがうまく表示されないようなので、URLのリンクをクリックしてご覧下さい。

K.273(ウィーン少年合唱団)
http://jp.youtube.com/watch?v=gukWD-oJwFg&feature=related

K.277(同上)
http://jp.youtube.com/watch?v=01q5mkKWtkA&feature=related

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コメント

音と映像があるそうです。
K273・・・
http://jp.youtube.com/watch?v=gukWD-oJwFg&feature=related
K277・・・
http://jp.youtube.com/watch?v=01q5mkKWtkA&feature=related

投稿: ランスロット | 2008年8月 2日 (土) 11時11分

おお、これは嬉しい!

記事に追記します!(埋め込むとまた閉鎖、なんてことになるかな・・・)

ありがとうございました!

投稿: ken | 2008年8月 2日 (土) 13時42分

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